夫の着替え


私の夫は一人っ子である。
正確に言うと戸籍上は二男になっているが、長男が産まれてまもなく亡くなっているので彼が生まれたときはもう、一人っ子の状態だった。

一人っ子にしては、まあよく出来た人だとは思う。
が、やはり日常の生活の中ではいろんなことが、やったこともないことだった。
家のどこかをちょっと修理してくれと頼んでも、「いいよ」という返事とは裏腹にいつまでもやってくれない。そのうちに、ジジがやってしまう。
私が留守の時「インスタントラーメンならあるから、子どもと一緒に食べててね」と言っても、作ったためしはなく、すぐにコンビニに走る。
洗濯機の回し方も、レンジの使い方も、未だに知らない。いや、知ろうという気がないのか?
そんな人だ。

結婚したばかりの頃のこと。夕食後夫婦で二階に上がりのんびりテレビを見ていたりしていると、そのうちに
「サ、そろそろ風呂でも入るかな。」といい階下へ降りていく。
一階がジジとババのエリア、二階が私たち夫婦のエリアだが、風呂は一階にある。階段を降りきった辺りで
「お〜ぃ、着替え持ってきておいて!!」と彼は叫ぶのだ。二階でテレビを見ている私に。
最初は新妻はいそいそと着替えを運んでいた。
しかし、だんだん「これはおかしい・・・」と、感じ始めた。テレビを見ていた部屋に彼の箪笥はあるのだ。
下に降りていく時に自分で持っていけばいいじゃないか!!いくらなんでも、それくらいしたっていいだろう・・・?

ある日、また例のごとく階段の下から声がした。「お〜ぃ、着替え持ってきておいて!!」
私はごく普通に「はあ〜ぃ!!」と返事をした。季節は真冬。
夫が風呂に入ると、私は彼のパンツとシャツとパジャマの上下を持ち、計画を実行した。
風呂を出たところにパジャマの上だけを置き、そこから階段へと続く廊下の途中にパジャマのズボンを置く。
更に階段の途中にシャツを置き、私たちの部屋の出入り口にパンツを置いた。
これで完了。結果が楽しみで、思わず一人で「ンふふふ・・・」と笑って待っていた。

様子をうかがっていると、風呂から出た夫は「あれエ・・・??」なんていっていたが、パジャマで前を隠して出てくるとズボンを発見したらしい。
「何だよ・・・」ズボンも抱え階段を上ってくると今度はシャツ。
「まったく・・!!」シャツも持って、しかし未だに素っ裸でやっとパンツを発見した夫は、「よ〜くこんなこと思いつくなあ!!」と嘆いた。
寒くて鳥肌が立ってる。私は爆笑した。大成功だった。

それ以来、夫は「ふろに入ろうっと」というと、自分で着替えを持っていくようになった。
私に任せてはおけないと思ったらしい。よかった。