貴方がここに来た、それもまた必然か




そう、あの人と手を繋いでしまったから、私は旅に出た。

一人身が当たり前、そう身を引き締めに、僕は旅に出た。

人と触れ合う事で、まさかあんなに自分の個が否定されるとは、
その時まで考えたこともなかった。隣に人が居る、それだけで、
私は私をもう一度、作り直さなければならなくなってしまった。

バレンタインがなんだ、クリスマスがなんだ、と男友達で騒ぐ
日々はとても楽しくて、日々は常に充実してる様な気がして。
そこからゆっくりとだけど何かを見つけた友達が去っていく、
そんな現実が自分の周りを蝕み始めたことに気が付いたんだ。



「自分探しの旅、それは現実逃避と同じだろうか。」

近くに住んでいるわけではないのに、いつもあの人の存在を
感じてしまう。幸せなのだろうけど、少し窮屈な日々。

明日はどうするのか、気楽に聞けなくなってしまった友達の
横顔を気にする毎日に、正直馬鹿馬鹿しくなってしまった。



「自己否定じゃない、ちょっと休息が必要なだけ。」

私は春号という名の列車に飛び乗って、トンネルをくぐった。

僕は冬号という名の汽車に飛び乗って、海へ向かう事にした。

眩しい光に一瞬目がくらみ、トンネルを抜けたそこは夏だった。

窓に張り付いていた霜が解け、車内にぽかぽかとした日が
差し込んできていることに気が付く。


「だから、急いで窓を開けて、吹き込んでくる風に目を細める。」



[あんたらちょっと考えすぎなんだにょ!]



「その時、強烈な空耳が聞こえた。」

私は余韻の残らない大きな声を聞いた気がして、ボトルに入った
水を一気に飲み干した。外は、何時の間にか夏に変わっていた。

一瞬空から凶悪な声を聞いた気がして、僕は太陽を睨みつけた。
外はまるで夏のように暑くて、蒸していて、日の光は暖かかった。
僕は、急いで上着を脱ぐ。

・・・次は〜オンナハサクシカ駅〜、オンナハサクシカ駅〜。
当駅で〜、お客様の切符を拝見させていただきます・・・

・・・次は〜オトコハケモノ駅〜、オトコハケモノ駅〜。
当駅で〜、お客様の切符を拝見させていただきます・・・

私ははっとして荷物を調べた。まず最初に気付くべきだった事、
切符を買った記憶がない。私は慌てて荷物をつかんで飛び降りた。

僕はゆっくりと行動に入った。もとより切符なんて持っていない。
どこかで切符を売っていた記憶もない。だから、汽車を降りた。

向かいのホームに昔ながらの黒光りする汽車が見えた。

向かいのホームに今なら何処でも見れる列車が見えた。



「脇の下からつっと流れる汗。無人らしい改札に向かって歩く。」



[ようこそ、貴方の世界駅へ!]



「ここの本当の駅名は何なのだろう。」

また聞こえた大きな幻聴。でも、駅の周りには人が一人と海の音。
そして遠くから蝉の声。

さっきとは別の声。確かに頭の中に響いていた。きょろきょろする
一人の人が改札口に立っている。遠くから、ヒグラシの声がする。

まだ日は高い。私は海へ向かって歩き出した。

そろそろ夕暮れ時になるのか。
僕は久しぶりに熱い太陽を思い切り受けて、海へ向かって歩き出した。

海は、思っていたより遠かった。近く聞こえた波の音も、レンガ作りの
不思議な洋館が外に取り付けたスピーカーから流していた。

海はさほど歩かない内に見えてきた。途中、レンガ作りの市民会館が
見えた。周りに何もないところにぽつん、と大きく構えていた。


「海は広くて、空は綺麗で、輝く光は見ている目を刺す。」



だから、
だから、

私は
僕は

後ろから迫ってくる
後ろから迫ってくる

それに
それに

直前まで気が付かなかった
直前まで気が付かなかった



「あんぐりと入り口を開けたさっきの建物が目の前に迫っている!」


訪れるであろう衝撃に備え、身を固める。

ゴリラもびっくりの反射神経で、穴を掘る。




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