1章
教室の動機づけの新しい流れ
1節
教室の動機づけの諸問題
子どもの学習状況
坂本(1984)
@ 授業不成立の「教室」が、1つや2つでなく、全校的な規模に広がっている。
A 授業不成立の「時期」が、3学期から2学期、2学期から1学期へと、年々早まってきている。
B 授業不成立の「学年」が、ますます低年齢化している。
C ベテラン教師・若い教師に関係なく、授業が成立しなくなってきている。
↑
・家庭や地域の教育力の低下
・人々の生き方や価値観の多様化
<学習への動機づけの問題>
スティペック(1988)
(1) 何もする気のない子ども
(2) 自己防衛する子ども
(3) 不安の高すぎる子ども
(4) 安全志向の子ども
(5) 学校以外の学習に満足している子ども
★ 不登校や学校嫌いが広く進行しているわが国においては、動機づけの問題を中心にした学校の再 構築が求められている
★ 学校の役割は、学習を学校時代だけで完結させるのではなく、将来の生涯学習者の基礎を育てる
★ 富士山の登山を目指すのに、学校時代、むりやり5合目まで登らせようとするよりも、子どもの 意志とペースを大切にしながら登らせる方が、将来的には、よい結果が得られると考えられる
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学習への量や高低のみに目を奪われることなく、動機づけを中心とした学習への質を重視 |
2節
教室への動機づけの新しい流れ
1 教室の動機づけの計画化
従来の授業
教師が教材を子どもにどのように説明し、取り組ませるかのプロセスを明らかにする。ねらいは、子どもの教材に対する知識や技能を高めること
授業の流れの中には、教材に対する知的、技能的取り組みだけでなく、教材や学習、教師や友達・自分に対する子どもの情意過程の存在
授業
・ 知的、技能的側面
・ 情意的側面(動機づけの側面)
動機づけに焦点化した授業の計画化
↓
新井・奥山(1981)
ウラッドコースキー(1978,1981)
エプステイン(1989)
★ 子どもの動機づけは、授業の中だけでなく、生活指導や生徒指導を含めた学級経営(坂本、1985)や校長や教頭など管理職のリーダーシップによる学校経営(メーアとミッドレイ、1991)の中で学習への動機づけが育てられていく
★ 校長や教頭、学級担任は、それぞれの仕事の場で子どもの動機づけを育てる意図的、計画的なプログラムを持つことが求められる
2 教師・子ども相互作用の授業
従来の授業
教師主導の授業
↓
教師が100%の力を出しても、子どもの方が力を出し切れない
★ 子ども一人ひとりの異なる知的・動機づけの状況に対応することが難しい
↓
自主性・主体性を育てることが困難
<教師・子どもの相互作用の授業>
教師と子どもは、ともに授業の主役であり、その両者での間での緊張感と責任感のあるやりとり(相互作用)のなかに授業の本質を見いだそうとする
☆ デシ(1980)自己決定感
☆ ド・シャーム(1976)自己原因性
子どもに任せられるところ、あるいは任せるべきところは、できるかぎり子どもに任せる。自分の力量の範囲で任せられた子どもは、教師や友達の支援を受けながら、その力量の範囲のうちの最も高いレベルの力を発揮することが多い。自分の判断で学習を自己選択や自己判断した場合、その学習のプロセスと結果に子どもなりの責任感を自然と持つようになる。こうした学習の自己責任性を意識した学習が、学校のなかで多くの部分を占めるようになることが、自己教育力を伸ばし、将来の生涯学習者を育む。
評価のあり方
子どもが自己決定と自己責任のもとに学習を進めていくならば、自己評価を中心としなければならない。この自己評価と教師や友達による他者評価がうまく相互作用するようにすることが重要な課題となる。
3 個性化と動機づけ
教育の二大機能
・ 社会化
・ 個性化
★ 子どもの成長に必要な車の両輪のようなもので、どちらが欠けても、その本来の役割を果たせな い
これまでの学校教育が、社会化に大きく傾き過ぎていたことを反省し、個性化の比重を高めることを課題として、動機づけの改善点を見いだす
↓
子どもの個別的理解
・ 興味、関心や楽しみ
・ 喜びや不安や心配
・ 学習や能力についての自己認知や自己概念
・ 勉強に対する家庭のプレッシャー
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一人ひとりの子どもの動機づけの特徴を個別的に理解 |
同じ学習課題
↓ 「頑張れ」
学習嫌いや学校嫌い
落ちこぼれや落ちこぼし
共通課題
↓
一人ひとりの子どもが自己判断
↓
個別課題を自己選択・自己決定
4 社会的文脈の重視
教育の個性化は、社会化を伴って真の個性化となる
・ 教師と子どものやりとり
・ 子どもどうしの学習の交流
・ 自己評価と他者評価の交流
・ 学習することの社会的意味
○ 教師やクラスの友達と相談しながら、自分の関心や欲求、自分の目標や能力にあった課題を見つ ける
↓
○ 友達と学び合い、助け合い、教師の支援を受けながら、基本的には、自分の力で課題を達成して いく
↓
○ 自己評価は、孤立して行われるのではなく、教師からの他者評価や友達との相互評価と交流され る
★ 学習したことが実際の社会のなかで、どのような役立ち方をするのかを実感する
(有用感)
・ 実際の生活や社会の動きと深く関係するものを取り入れる
・ 学習した知識や技能を生活や社会に実際に生かすことを求める
<教師と子どもとの信頼関係>
<教師の学習観>
・ 学習は何のために行うのか
・ 学習を進めていく上での困難や不安にはどのように考えていけばよいのか
「学習は、親や教師のためでなく、自分のために行う」
「友達との競争が大事ではなく、自分の進歩、向上が大切」
「学習の早い人、遅い人がいるが、自分のペースを知りながら、自信を失わずに学習を行っていくことが大切」
5 内発的動機づけの多面的な高め方
動機づけ理論
・ 外発的動機づけ(extrinsic motivation)
・ 内発的動機づけ(intrinsic motivation)
外発的動機づけよりも内発的動機づけを重視すべきという主張が行われてきた
新しい流れの一つ
内発的動機づけの中身がさらに多様なものへとなっていく
内発的動機づけの主役
★興味・関心・知的好奇心(波多野・稲垣 1971)
★ 教材の興味が質の高い学習ストラテジーを子どもが用いることに貢献することが研究
(Schiefele,1991)
★ 有能感や自己決定感
「人は、有能感や自己決定感を実感したいという基本的欲求を持っている」
(Deci 1980)
有能感や自己決定感を与える学習は、外部的な報酬は必要ではなく、学習すること自体が十分な満足を子どもに提供していくと考えていく
★ 興味などに内発的に動機づけられている学習に、外的報酬(賞賛、ほうび)を与えると、その学習が外発的に動機づけられていく (Deci 1971)
★ 興味などの少ない学習では、まず外発的に動機づけて、それを次第に内面化・自律化させていき、内発的動機づけに変容していく (Ryan & Connel 1989)
はじめは、親や教師の承認を求めるために学習していくなかで、学習が自分の将来の夢の実現のために必要と考えるようになるなど、学習の動機づけが内面化・自立化していき、外部的報酬のまったく必要のない内発的動機づけに接近していく
★外発的動機づけから、内発的動機づけへと変容させていくために、どのような配慮が大切となるか (速水 1993)
6 よりよい生き方としての動機づけ
動機づけ
<学習効果を上げるための手段>
ほめたり叱ったり、競争させたりして、いかに「やる気」を起こさせ学習効果を上げるか
↓
<学習に必要不可欠なもの>
学習や教室が、一人ひとりの子どもの意識のなかで「求めていたものであり、必要なものである」と実感されることを追求する(よりよい生き方としての動機づけ)
★ 動機づけは、学習効果にもメンタルヘルスにも貢献することを求められている
<今後の課題>
○ 学校時代における子どものよりよい生き方とは何か
○ 学校時代にどのような成長の仕方をすることが、その後の充実した人生につながるのか
3節
動機づけの新しい流れに対するコメント
<20世紀の初め>
フロイトやユングなどの研究によって自我や自己が発見された
<現在>
自己や自我を重視する時代
自我同一性、自己実現、自己教育力
★ 動機づけの新しい流れも、この自我や自己の機能に着目したものが多い
自己認知、自己概念、自己効力感、自己有能感、自己決定感、自己原因性、自己責任制
自己評価、自己価値、自己コントロール、自己教育力
★ 自我や自己への傾斜のしすぎに対しては、注意を払わなくてはいけない
自己とまわりの人々や世界(社会)と調和と統合は、教育の世界においても、常に追い求めていかなければならない
★日本の文化や日本人のメンタリティに合致した動機づけ理論が展開されていくことが望まれる