学習意欲を育てる体育の授業づくり
〜指し手的特性が児童の学習意欲・満足に及ぼす影響について〜

                                                      指導教官  岡村 豊太郎

                                          保健体育科専修 M2  河村  孝行

1 研究の動機・目的

 新学習指導要領の実施によって、体育科においては、運動の楽しみ方・心と体を一体としてとらえた健康・生涯スポーツへとつながる運動などが強調されている。

 教育現場においては、児童の体力低下(持久力・柔軟性・調整力など)が目立ち、自分にあった運動の楽しみ方がわからず、体育授業が生涯スポーツへとつながっていないことが多い。

 従って、運動の楽しさを実感し、上記の体育科の目標を達成するためには、体育の授業において、好ましい指導のもとで好ましい体育の授業を受けることが必要である。そこで、本研究では、教師の指導のあり方が、子どもの学習意欲と子どもの授業に対する満足感に及ぼす影響を検討することにした。

 内発的動機づけの研究の中で、注目をしたいのは、ド・シャームの「自己原因性」である。

 ド・シャームは、人間は自分の行動に対して、自分が行動の主体でありたいと思うことに着目し、これを「自己原因性」として、人間は自己原因性のために努力するものだと考えた。この自己原因性には、2つの心的状態があるとし、西洋将棋チェスになぞらえて「指し手」と「コマ」とした。指し手と感じている人は、積極的で、楽観的で、自信があり、挑戦を受け入れる。コマは消極的であり、自己防衛的であり、決断力に乏しく、挑戦を避ける傾向があると考えた。

 従って、子どもが指し手として授業に関われば子どもの学習意欲が高まることが示唆される。

 一方、高田は、子どもから見た「よい体育の授業」について、自己の経験に基づいて次の4条件をあげている。

 1 快適な運動(力いっぱい運動させてくれる授業)

 2 技能の伸長(技や力を伸ばしてくれる授業)

 3 明るい交友(友達と仲良くさせてくれる授業)

  4 新しい発見(好奇心や探求心を満足させてくれる授業)

 従って、体育科の目標を達成するためには、子どもが、上記の観点で満足感を得ることが必要である。   

  野村は、「体育における学習意欲診断テストの作成」を行い、「児童の学習意欲の形成に及ぼす教師の関わり」を研究している。

 教師主導型授業を「コマ型授業」、児童主導型授業を「指し手型授業」として、児童の学習意欲と「指し手−コマ」型授業の関係について調べ、

@指し手授業を行う教師のもとでは子どもたちの学習意欲が高いこと

A研究熱心な教師は指し手授業を行っていること

Bド・シャームの自己原因性理論によって学習意欲診断テストの有効性

を検証している。

この研究は、現場の体育授業の中で、自己原因性について立証した価値ある研究である。

 しかし、この研究では、教師主導主義授業「コマ型授業」と児童主導主義授業「指し手型授業」の基準については、教師側からの判断によるものであり、児童側からのものではない。現実問題として、教師の見方と児童の見方には、ズレがあることはよくあることである。

 例えば、教師は指し手型授業のつもりで行ったとしても、児童がそれをコマ型授業であるととらえることもありうる。また、教師がコマ型授業を実施したとしても、児童がその授業を指し手となって学習に取り組むことも考えられる。

 本研究では、教師が見た授業と児童が見た授業が一致したときに、授業の型(指し手型授業かコマ型授業)をとらえることにした。

したがって、本研究の目的は、

1、「指し手型授業」と「コマ型授業」の基準判断を教師側と児童側で行い、授業の型と学習意欲、授業の型と満足度の関係を明らかにすること。

2、授業の型を野村のように教師側で判断した場合と児童のみで判断した場合、両者の判断による場合の比較を行ない。好ましい授業の型の判断主体を明らかにすること。

である。

 

 

2 研究方法

質問紙調査により、授業の型を(教師と児童の立場)から調査し、授業の型と学習意欲、授業の型と満足度の関係を検証する。

 

<調査内容>

(1)   授業の型について

ド・シャームの研究報告書を参考にしてつくられた

「指し手−コマ型授業調査」 8項目 (教師用・児童用)

 

(2) 学習意欲について

    心理学的な概念から作成された野村の先行研究による

「学習意欲診断テスト」16項目

 

(3)満足度について

高田氏による、よい体育の授業の4条件をもとに

「満足度調査」5項目

 

 

3 調査の対象

平成13年 12月中旬調査用紙配布

岩国市内小学校  16校 4年と6年の17クラス(合計34クラス)

平成14年  2月下旬調査用紙回収

  

 

4 調査分析(1)

@ 各クラスの学習意欲、満足度、児童の特性を得点化し平均を求める

A 指し手−コマ型調査(教師用・児童用)の合計点を求め、得点順に並べる

B 上位4校を「指し手型授業」、下位4校を「コマ型授業」として、児童の学習意欲、満足度に有意差が見られるか

 

調査分析(2)

@     指し手−コマ型調査(教師用)の合計得点を求め、得点の上位4校「指し手型」、下位4校を「コマ型」、その他を「中間型」とする

A     指し手−コマ型調査(児童用)の合計点を求め、得点が27点以上を「指し手型」、21点以下を「コマ型」、その他を「中間型」とする

B     教師から見た授業と児童から見た授業で9つのタイプ分けをする

C     教師と児童の見方が一致しているとき、「指し手型授業」と「コマ型授業」の分類で、児童の学習意欲・満足度に有意差がどれくらい見られるか

 

5 結果及び考察

調査分析(1)について

<教師の立場から見た授業>

     指し手型授業の方が、コマ型授業よりも学習意欲が高い

     指し手型授業の方が、コマ型授業よりも満足度が高い

→ 学習意欲だけでなく満足度についても差が見られる

 

<児童の立場から見た授業>

     指し手型授業の方が、コマ型授業よりも学習意欲が高い

     指し手型授業の方が、コマ型授業よりも満足度が高い

→ 教師の立場だけでなく児童の立場から見た授業でも学習意欲・満足度に差が見られる

 

<6年と4年の比較>

     年と4年では、4年の方が、教師と児童の授業の見方に差が見られた。このとき、学習意欲と満足度の差は、児童から見た方が大きい。

→ 授業の見方のズレは、中学年の方が大きい

→ 児童のとらえた授業の重要性

 

    <調査分析(2)について>

   授業を教師の立場、児童の立場、教師と児童の立場が一致したときで見たとき、教師と児童のたちが一致したときが、児童の学習意欲・満足度の差が大きい

    → 教師と児童で共につくる授業の重要性

 

 

 

<引用・参考文献>

下山 剛 編 1985 学習意欲の見方・導き方 教育出版

R.ド・シャーム 1983 やる気を育てる教室 金子書房

高田典衛 1978 体育科の授業入門 明治図書 

野村 佳代 2001 体育授業における学習意欲診断テスト作成の試み

           山口大学卒業論文

小学校学習指導要領解説 1999 体育編 東山書房

宮本美佐子 編 1993 ゆとりある「やる気」を育てる 大日本図書

高野清純編 1988 無気力 原因とその克服 教育出版

波多野誼余夫・稲垣加世子 著 1981 無気力の心理学 中公新書

波多野誼余夫・稲垣加世子 著 1973 知的好奇心 中公新書

速水敏彦 1998 自己形成の心理 金子書房

奈須正裕 著 1996 学ぶ意欲を育てる 金子書房

辰野千寿 1985 教室の心理学 金子書房

宮本美佐子 奈須正裕 編 1995 達成動機の理論と展開 金子書房

新井邦二郎 編著 1995 教室の動機づけの理論と実践 金子書房