ツヨシは事務所をのぞいた。時計を見ると4時半を少し回っていた。
撮影技師のミツヤマ
ノリヨのほかに副所長と研究員のヤマシタがいた。
「すいません。遅くなりました」
ツヨシはノリヨのデスクに歩み寄りながら声をかけた。
「あ、ソウカさん。はいっ、出来てるわよ」
「はいっ、忙しいのにどうもすいません」
「全然かまわないわよ。これも仕事なんだから」と、ノリヨは1枚のフロッピーディスクを手渡しながら言った。
「これからは、いつもデジタルつけたほうがいいかしら?」
「いいんですか?」
「あら、みんなそうしてるわ。ソウカさんはいわなかったから、あげなかったんだけど」
「えっ、ああそうなんですか。なんだ、誰もそんなこと教えてくれないから」
ツヨシは頭を掻いて見せた。
「それじゃ、そうして下さい」といった。ツヨシはそのデジタル画像を添えて、大学のオオバ教授に報告と相談のメールを送るつもりであった。
もちろん彼はまだこの発見が、世界を全く変えてしまうモノだということを知らない。
もし今彼の手の中にある写真を見て、その正体に気付くものが居るとすれば、それはハルオとユキだけかも知れない。
太陽系第5惑星・木星は直径が14万2980キロメートル(地球の約11倍)もあり、太陽系で最大級の惑星である。英語名「Jupiter」は古代ローマ神話の「Jupiter(神の王)」の名に由来している。
そして太陽系の惑星の中でもっとも巨大な惑星、太陽になりそこなった惑星、木星はよくそんな風に呼ばれている。
太陽からの平均距離
77,830,000 km
。その公転軌道に沿うように『それ』は広がりつつあった。あたかもガスか何かのように振舞う『それ』がどこから発生しているのかわからない。そこから、触手のように幾筋もの支流が流れ出ている。外には間もなく土星軌道に達しようとしているものがいくつかあり、内には小惑星帯外縁部に到達しようとしているものがあり、このうちの一角がツヨシの撮影した写真に捉えられた。
『それ』はまるでガス状のブラックホールのように真黒であった。
わずかに太陽光を反射しているのみである。太陽から受けた光を吸収し外に反射していないとすればその内部は輻射熱で相当の高温になっているはずであったが、そのような様子はなかった。
不気味な姿を忌まわしい蛇のようにくねらせながら、静かにしかし確実にその支配地を広げていた。
その内部で何が起きているのか外からでは窺い知ることは出来なかった。
木曾観測所のシュミット望遠鏡が予定の観測に入ろうとしていた頃、世界中のいくつかの観測所や望遠鏡がこの異常現象の観測と分析を開始していた。
その情報がサイバーネットの世界で、密やかだが極めて熱い調子で語り合われるようになったのはそれからほぼ1週間後のことであった。
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