あらわれたのはひとのよさそうな50がらみの男であった。
頑固そうな角ばった顔立ちには似合わない柔和な笑みには苦しい経営事情を窺わせる様子はなく、元来が酪農農家の主人というには垢抜けた雰囲気を持ち合わせた男であった。
「いやあ、よく来てくれましたね」
男は立ちあがろうと腰を浮かせた二人を手で制しながら言った。
「私はここの主人のオダカと申します」そう言って彼は二人の向かい側に腰掛けた。「はじめまして、ヨシモトと申します。こちらは婚約者のテラオと申します」
ハルオとユキはオダカに自己紹介をした。
「まだお若いのに、別荘とは景気のいいことですね」
オダカは柔らかく目を細めたまま頷いてから、笑みを崩さずに言った。
たしかにそうだ。ハルオ達の年齢で別荘を買うというのは如何にも景気のいい話しである。
金持ちの放蕩息子かなにかと思われても仕方がない。
ハルオはそんなところまでは思い至らなかったので少しあわてた。
できればここの人達に悪印象を与えたくはなかった。
「あ、いや・・・、そういうわけでは。・・・なにしろ、マイホームは手が出ないですから。その、週末を過ごすのに、いや、ちょっと贅沢とは思うんですが」
「いやいや、これは大変失礼しました。そんな詮索をするつもりはなかったのです。気になさらずに・・・いやあ、いかんなあ、お客様に余計な気を使わせてしまって」
オダカは如何にも申し訳なさそうに白髪頭をボリボリと掻いて見せた。
さきほど案内をしてくれた女性が冷やしたお茶を持ってきた。
「ああ、家内です」オダカがその女性を紹介した。
オダカの妻と紹介された女性は丁寧にお辞儀をして、
「どうぞ、ゆっくりして行って下さい」と、微笑んだ。
「ああ、道中はどうでしたか?渋滞してたでしょう。そうそう、ここ、すぐにわかりましたか」
オダカは照れ隠しのように、さして興味もない社交辞令を述べた。
「はい、すぐにわかりました。入り口に立派な看板がありましたし」
ハルオも何やらほっとして社交辞令をかえした。
「ははは・・・。いやいや、立派なのは看板ばかりですがね」
オダカはわるびれるでもなくくつろいだ様子で笑った。
「ところで、どうしますか」
「は?」
「ああ、部屋も使えますから先にチェックインしますか。それとも、現地の方をご案内しましょうかね」
「案内していただきましょうよ」
それまで黙って二人の話しを聞いていたユキがハルオの膝に手を乗せて言った。
ユキはこのごろよくハルオの身体に触れたがる。そうすることで無意識のうちに何かを確かめているようだった。
「そうですか」
オダカは確認するようにハルオの方を見やった。
「ええ、そうさせていただいていいですか」
「わかりました。じゃあ、うちの若い者に案内させましょう。ところで、荷物は?」
「まだ車ですが」
「そうですか。よかったら若い者を呼びにやる間に荷物をお持ちになったらいい。現地に行かれてるうちに部屋に入れときましょう」
「はい、わかりました」そういってハルオはユキを促して立ち上がった。
オダカも一緒に腰をあげると、
「おい」と土産物売り場の整理をしている妻を呼んだ。
ハルオとユキの二人が車から荷物を持ってくると、ラウンジの前にはオダカと一緒に青年が一人待っていた。
「荷物はそこに置いといて下さい」
オダカは少しはにかむように頭を掻いて言った。
「こいつが、ご案内しますから。・・・おい」
彼は隣の青年の肩をぽんとひとつたたいた。
青年は少し茶色い長い髪を後ろに束ね、よく日に焼けた彫りの深い整った顔をぺこりと下げた。
「ああ、こいつね。キノシタって言います。おい、お客様をご案内してくれ」
ハルオたち二人は、
「よろしくお願いします」と思わず声をそろえてお辞儀をした。
オダカは二人の様子をみて笑顔で頷いていた。
キノシタと呼ばれた男は、どちらかというとぶっきらぼうに
「じゃ、どうぞ」と、二人をうながした。
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