メッセへの道
第一回 「トータル・プロモーション」
1996年10月
5日間の展示会が先ほど閉幕した。
撤収の準備があわただしく始まっている。
備品の運び出し。リース業者がモニターの撤収をはじめた。
造形の取り壊しがはじまる。
メインサインが倒された。
「おわったな」

1年おきに幕張メッセで開催される、業界のメーカーのほとんどが参加して行われる展示会。
モーターショウやゲームショウのような個人消費財とはちがって設備投資財の業界であり、あれほどの派手さはないが、それでも回を重ねる度に規模が大きくなり、各出展会社のパフォーマンスも
派手になってきた。

この展示会への出展の監修をこれまで3回行ってきた。
撤収のときメインサインが倒れると、
「おわったな」と実感する。ちょっとした感傷にひたったりする。
とりあえずの満足感と充実感。
そして数々の反省。

1997年4月
宣伝広告が私の専任業務のひとつになった。これまでなかなか出来なかったトータル・プロモーションが出来る。

もちろん、ターゲットは来年の展示会である。
まずは、中長期ヴィジョンを作成しなければならない。
それなしでトータル・プロモーションはありえない。

1997年9月
中長期展望に関する検討書をレビューした。
なんたる欺瞞。結論先にありきの、作為により取捨されたデータ、結論の誘導を目的とした解析。

それらの欺瞞の中に、埋もれて目立たぬように自己表現をちりばめる。
全体が認知されれば、(もちろんそうなる、そうなるように作られているのだ)私の個人的見解や主張も同時に事業部の中長期ヴィジョンに組み込まれる。

1997年12月
出展の基本検討をはじめた。
昨年の反省点を思い浮かべる。
とりあえず前回並小間数で検討してみることにした。
よりヴィジュアル効果を出したい。囲い込み効率を上げたい。
展示会にあわせて、一気にカタログを更新してしまいたい。
プロモーション・ビデオも作りなおしたい。
これらに一連の必然性を持たせる。
上層部に通りやすい動機付けが必要だ。

代理店のS氏に来てもらう。いくつかのテーマを出して、基本検討に
入ってもらうことにした。

「新製品、期待できないんだよね」
「・・・というと・・・やっぱりヴィジュアルでしょう」
「うん」
「なんか、考えてるものあります?」
「3Dとか」
「3Dですか?」
S氏とは知り合って4年になる。
私がはじめて監修を手がけることになった3回前の展示会に先だって、代理店のコンペを行った際に飛び込みで営業にみえたのがきっかけであった。

そのときは、従来のハウス・アドを切るのが目的で、すでにある業者に内定していたので、S氏のP社とはご縁がなかったが、前々回のコンペでは渾身の(?)プレゼンで、みごと採用となった。

後で知ったことなのだが、S氏は実は私の小学校の先輩だった。
だからというわけではないが、随分私のわがままをきいてもらっている。

それと、私自身のために弁解するなら、私ほど代理店に優しいクライアントも珍しいのではないかとも思っている。
(けっして、もたれあいではない。持ちつ持たれつという。)

「やったことあります?」
「やったことはないですけど、何か探してみましょうか」
「たのみます。それと造形も・・・。とりあえずこんなゾーニング考えてみたんですけど」

「これ、モニターですね?ヴィジュアルでいくならデカいのがいいですね」
「うん。今回はデカいのがいいでしょう」
「これは?」
「展示機」
「どんなもの?」
「ぜんぜんわかんない。なにしろ新製品は期待出来そうもないし・・・。とにかく、アイキャッチもプロポーザルもヴィジュアルで行きたい。
機械に期待してて直前でダメなんてことになったら目も当てられない」
「わかりました。これ、うちなりに考えてみます」
「じゃ、次回叩き台ということで」

こうして98年展示会への作業はスタートした。