| 第ニ回 「 プラン 」 1998年1月
年が明けた。
P社に依頼した叩き台の検討とは別に、「出展検討書」の制作に着手。
社内に、展示会出展の主旨、現時点での大まかな企画内容と概算予算を説明する。
別に私が個人的に出展したいわけじゃない。
なんで一人で悩まなけりゃいけないのだ?
などと思わないではない。
オジさん達の喜びそうな美辞麗句を織り交ぜる。
『引き合い数確保のため』とか『売上確保に寄与するため』などと心にもないことを・・・
この仕事をするとき、わたしは完全にイベント屋だ。そして、最優先関心事は予算の確保。最終目標はあくまで、『どれだけ目立てるか』そして、『何人の客を引っ張れるか』だ。
会社のスローガンや、売上のことなど本気で考えちゃいない。
P社のS氏が訪ねてきた。
「なにか、面白そうなのありました?」
「はい、これなんですけど」と、S氏がいくつかの資料を取り出した。
「これ、ソニーの系列の会社なんですけど、今一番進んでる3Dなんです」
「へっ?」
この前は3Dなんて言ってみたけど、実は全然本気ではなかった。
会社の偉いサンのなかにやたら新しい技術が好きな人がいる。技術開発の責任者であり、当時の事業部長だった人だ。
その人が、「新製品を間にあわすにはマンパワーが足りない。新製品開発に使ったと思えばかなりの予算で映像がつくれるだろう。いっそ、3Dのバーチャル展示なんかどう。
検討してみて」などと言い出したのがきっかけだ。
『バカ言うなよ。そんなもん出来るわけないだろ。開発の責任者が何いってんだ』などと思ったって口にはしない。
かえって、『よっしゃ、これでVPの予算が取れる』と思った。
「はい、一回検討してみます」
これがいきさつだ。だから、S氏には依頼してみたものの本気ではなかった。
『遊びだったたのヨ』 とは言えない。
「ふーん。ほんとの3D?」
「ええ、ほらミクロツアーズみたいなやつ」
「ディズニーランドの?」
「そう」
「じゃ、やっぱりメガネとか掛けるわけでしょう」
私があまり乗り気じゃないのがS氏にも伝わる。
「メガネは入場のときに渡して、出るときに回収します。
そのときに景品と交換とかしてもいいんじゃないかと思うけど」
「撮影はどうすんの?」
パンフレットを見せてもらう。
「特殊なカメラで・・・」
「・・・あ、やっぱり二台のカメラで撮るんだ。アングルとか照明とかうるさそうだね」
「もうひとつ、3Dじゃないけど、こういうのもあるんですけど」
と、S氏が別のパンフレットを取り出した。
「最近よく番組とかで使われてるんだけど、バーチャルスタジオって知ってます?」
「バーチャルスタジオ?」
「ニュース番組のスタジオとかを3DCGで作ってるやつ見たことありません?
」
「ああ、天才テレビくんとか・・・」
「そうそう、あれ。
デモテープ持ってきたんだけど、みてみます?」
そういってS氏は一本のVTRを取り出した。
CGで創られた背景と実写のMCが見事に合成された映像が映し出された。
「いいね・・・」
やがて制作過程が紹介された。
「やっぱり、ブルーバックで合成するんだ」
「ええ、でもクロマキーなんかとは全然ちがうんですよ」
S氏もはじめからこっちが押しなのだ。
「これで、かっこイイCGとか入れて、でかいモニターでやったらかなり目立つんじゃないかと・・・」
「・・・うん、いいかも知れない。どのくらいかかるかな?」
やはり気がかりなのは予算である。いくらよくても、糸目つきだ。
「さっきの3Dよりはこっちのほうがやすいですよ」
もちろんS氏だってすぐには回答できない。まだ、構成もなにもないのだから。
「どのくらいかけられますか?」
「一本がいいとこでしょう。」
「一本あればけっこういけると思うけど」
おもしろそうだった。話をしながら、なんとなくイメージが浮かんでくる。
もう私はやってみたくてしょうがなくなっていた。
「時間的には、何分ぐらいの・・・」
「やっぱり、15分が限界かな・・・」
「イベントで15分はちょっと長い」
「せっかく予算かけるんだから、普段のセールス・ツールにも使いたいでしょう。
そしたら15分にはなる。」
「ああ、そうですね・・・、でもセールス・ツール用だとイベントでは地味でしょう」
「たとえば、導入とエンディングだけ2パターン作るのはどう?」
「なるほど」
話が具体的になってきた。これ以上この場で話しても、アイデアの羅列で終わってしまう。
「どんなことができるかまだ良くわかんないから、オタクでラフの構成考えて、見積してみてくれる?」
「わかりました」と、S氏がうなずいた。
「ところで、これやってるスタジオ、今度見学をセットするんで、よかったら見てみませんか?」
私の好奇心が即OKを出した。
「ええ、是非」
「じゃあ、スケジュール決まったら連絡します」
「それと、・・・」と、今度は私が資料を取り出す。
「そろそろ予算申請しなくちゃいけないんで、こっちなりに積算してみたんだけど。
正確な見積はまだ出来ないだろうから、このレイアウトで大体予算的に入るか検討してみてくれない?」
S氏は私の予算表を手にとって、
「けっこうこまかく拾ってますね」
「いつもいつも、代理店さんのいい値ってわけにもいかんでしょう」
「あっ、そんなことないでしょうっ」
いつも費用的にも随分無理を言っていることはわかっている。
「んまっ、そう言うわけだから」
なにがそう言うわけなのかは良くわからない。
「いいでしょっ、わかりました。・・・じゃあ、来月の**日でどうですか?
VPの見積もいっしょに持ってきますから」
「OK、じゃあお願いします」
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