| 第六回 「 がんばれ〜 」 準備委員のムータンは装飾、演出業者の選定コンペのためのオリエンテーション資料を作成していた。
もちろん業者はP社と決まっていた。
昨年のうちから、カタログ、プロモーションビデオ、総合演出のプランや予算の作成など、かなり具体的なところまでを検討してもらっている。
例えばブースの装飾造形といっても総合演出と切り離しては考えられないし、PVにしてもこの展示会を意識して制作しているのであるから、今更別の業者を選定したところで実行できるはずがないのである。
それでも形式上のコンペは実施しなければいけないし、その上でプランニング会社のプレゼンを受け、プランを決定することによってそのプランそのものが社内でオーソライズされるのである。
プランは大枠では私とP社の間で出来あがっているわけで、その意味ではムータンのやっていることは全く形式的なことであった。
彼はそんな仕事に疑問を感じていた。
日常の業務を抱えながらの準備委員の仕事である。忙しい中で言ってみれば不毛な仕事をしている。
「それでもコンペの資料がいるわけ?」
彼の表情には明らかな不満の様子が浮かんでいた。
「そう、それでもいるんだよね」
私はことさらぶっきらぼうな声で答えた。彼の考えていることは手に取るようにわかった。しかし、私はそんな不毛な仕事をいやというほどしてきたし、その必要性も、そんな仕事をこなすことの精神的な苦渋も理解できた。
彼にもこれらの背景が理解できていないわけではない。
その程度のキャリアはつんで来ているのである。私にはそんな期待がある。だから余計ぶっきらぼうにならざるを得ない。
「いつ出来る?
P社に連絡しなくちゃいけないんだけど」
「今週中でいい?」
まだ、不満そう表情は消えない。
「いいよ。じゃ、オリエンは来週はじめでいいね」
「うん。・・・週末にミーティングしよう」
「わかった」
そこで彼に電話が入って話しは終った。
一方、タケボーは、カタログの原稿に苦労していていた。
根がまじめなので、書きたいことが色々出てくる。
しかし、紙面は限られている。何を書いたらいいのかわからずに苦労し、いざ書き始めると文字数がおさまらない。
けっこうイライラするものだ。
たまたま、彼のデスクは私の隣なので、様子がよくわかる。
何度かGUN氏から、原稿の督促の電話が入っているようだった。
GUN氏の原稿の取りたてはきびしい。あの風貌で・・・電話じゃ顔は見えないが、何しろ印象が強いので、電話の向こうに顔が浮かんでくるのだ・・・「まだ原稿入ってないんですけど」なんて言われると、これはもうほとんど借金の取りたてを受けてるような気分になる。
『あと一日お待ち下せええ〜』なんて言葉が咽喉まで出かかってしまうのだ。
がんばるのだよ。ムータン、タケボー。とサディスティックな心持ちを隠しつつ応援する私であった。
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