メッセへの道
第九回 「 展示会の客寄せは・・・ 」

業者のプレゼンテーションや見積りなど社内向けの作業が行われている一方、実際の準備は着々と進められていた。
今回の企画では、キューブモニターを16台使用する。キューブモニターは、巾が約900mmの画面の縁がない直方体のモニターで、何台かを重ね合わせて大きな画面を構成することが出来るもので、イベントなどで頻繁に使用される。
これを16台というと、横に4台、縦に4台並べるわけで、約 4m X 3m の大型モニターを構成することが出来るのだが、大規模な展示会ともなると多くのブースでこのモニターを使用することになるので、まとまった台数を使用するとなると早めにリザーブしておかなければならない。
もうひとつ、今回早めに押さえておかなければならないのが、女性である。ちょうど別の大きな展示が私達が出展する展示会と相前後して開催されることがわかっていた。
この展示会の関係では大量のコンパニオン、ナレーターが動員される。これにスケジュールを押さえられてしまうと私のところのような弱小企業はお手上げである。
コンパニオンとナレーターも早めに押さえることになった。
今回はパンフレットの配布やアンケートの回収などフロアーのサポートをしてくれるコンパニオンを4人、現場でのナレーターを2人予定していた。

展示会で集客力を発揮するものは何か。
出展者の動員力、出展品の訴求力などは大きなファクターである。しかし、決定的に強いインパクトを与えるのが、でかくてかっこいい映像、綺麗で華やかなお姉さん、安くても必ずもらえる粗品なのである。
つまり、かわいらしいコンパニオンが粗品と引き換えのアンケート用紙とパンフレットを配る。大型モニターにかっこいい映像を流す。そこに美人のMCが颯爽と登場する。これでお客が集まるわけである。
特にこの展示会の来場者は、サラリーマンが殆どで、しかも比較的年齢層が高い。
いくら私達が一生懸命パンフレットを配ってもたかが知れている。かわいいコンパニオンにニッコリ微笑みながらパンフレットを差し出されると、それまでしかつめ顔をしていたオジサンは相好を崩して寄ってくるのである。
そして綺麗で颯爽とした女性ナレーターがよく訓練された声でナレーションをしていると、やはり来場者は足を止める。内容はともかくとりあえず足を止める。
つまりコンパニオンはなくてはならないものなのだ。

ところがこのコンパニオンには当たり外れがあるのだ。
当然プロフィールには経歴とともに写真がのっている。まずこの経歴があてにならない。なにしろメジャーの展示会では大量のコンパニオンが動員される。よほどのことがないかぎりみんなメジャーの展示会、イベントの経験が記載されている。
そして、まったく当てにならないのが写真である。
実際に会って見ると、「あれ?この写真と同じ人?」というのはよくあること。さらには、「こら、この写真はいったい何年前のだよ」ってなこともしょっちゅうである。
外見だけならまだよい。中には、直前のリハまでに原稿を覚えられず、本番直前で泣いて帰る。会期中に足を捻挫したとか言ってアナをあけられたこともある。
また、実際にはじまってみると、ナレーションは正確だがノリが悪いとか、ノリはいいけれどナレーションは、「そんなことどこに書いてあるんだよ」ってなことの連発だったり、まあとにかくいろいろである。
だから、オーディションは不可欠である。
少なくとも代理店は必ずオーディションをしたがる。その上で決定すれば、クライアントに責任転嫁できるわけで、代理店のリスクが減るというわけである。

そんなこんなで、わが社でもオーディションを行うことになっていた。
ムータンとシンちゃんはとにかくこのオーディションを楽しみにしていた。
ムータンは以前の展示会準備のときにオーディションに出席したことがあった。
「場所は御社でいいですか?」
打ち合わせに来たP社のGUN氏が言った。
「いいんやない」
ムータンはとてもうれしそうだ。
「部屋はどうします?一応控え室と、面接会場とあった方がいいと思いますが」
「前と一緒でよかろ」と、ムータンはいつになくゆるゆるとした表情で私に同意を求めてきた。
「いいんじゃないの」とわたしは答えた。
ムータンとシンちゃんが意味ありげに顔をみあわせうなずきあっていた。
「じゃあ、会議室を控え室にして、オーディションを応接室でやります」

彼らが何をそんなに喜んでいるのか、もちろん私は知っている。
綺麗な女性が大勢来て、面接する。確かにその雰囲気だけでも楽しい。ただ、彼らの期待はそれだけではないのだ。

オーディションは*月*日。会社の仕事の支障にならぬようにということで午後5時からということになった。