| 第十回 「 トラブルが招くもの 」 機材や人の調達のほかにも準備の進められているものがまだいくつもあった。
カタログの制作。媒体に掲載する広告用版下の制作。そして今回特に力を入れているのが、メインのモニターに流すプロモーションビデオである。
主に制作関係は私とタケボーの担当である。
P社のS氏とディレクターのSK氏が事務所を訪ねて来ていた。
「ロケ地は決まりましたか?」とS氏がたずねた。
「うんまあ一応」と私の返事は今ひとつ歯切れが悪かった。
「ひとつはKY社で決まりなんですけどね」
「HC社の方が問題ですか?」
「うん、ちょっとね」
「なんかトラブッてるんですか」
「そうなんだよね」
「HC社のほうでプロモを作るって話しは?」
「はっきりいってそんな段ではないのですよ」
「そんなに悪いの?」
「担当のコーヘーなんか行ったっきり帰ってこないよ」
「じゃあ、ダメですか、北海道ロケ・・・」
SK氏ががっかりしたようにつぶやいた。
「どうします?一応もう1箇所予定してるんですけど。8月頃までには何とかなりますかね」
S氏もやはり北海道ロケを楽しみにしていたのだ。
「無理じゃないかと思いますね」と、タケボーが答えた。
「かなりむずかしい事になってるみたいで・・・」
「どうしちゃったんです。ぜんぜん動いてないとか?」
「ええ。まあ、それに近い」
「それじゃ、コーヘーさん大変ですね。でも、そうなるとキャンセルしますか?」
ロケ2回分の予算は取っているのだから、キャンセルはしたくなかった。
この機会を逃したら次のチャンスがあるかどうかわからない。
「候補がないわけじゃないので」
私がタケボーの後を引き取るように答えた。
「どこですか?」
「J社のセンターなんだけど。たしか、渥美って言ってた」
「渥美って、渥美半島の?・・・愛知ですよね」
「うん、詳しいことはまだ、客先のOKも取れてるわけじゃないんで」
「セッティングできますか?」
「なんとかいけると思いますよ」
「KY社の方はどうですか?」
KY社は山口県の宇部にあった。
「宇部はOKです」
「スケジュールはどうですか?」
S氏のその質問に、タケボーが答えた。
「8月のはじめの、お盆休みまえがいいんですけど」
実は宇部にはタケボーの実家があった。
ロケで出張してそのままお盆休みの帰省に流れようというのだ。
片道の旅費が出張費で浮くというものだ。
不正だなどと言ってはいけない。
このくらいのことでもないとサラリーマンはやっていられない。
自営業の方々と違って必要経費が認められないのだから。
「ところで、実機説明の構成の方ははどんな具合ですか?」
S氏がたずねた。
VTRの中の製品PRの部分の構成は私が作ることになっていた。
「うん、だいたい。これでどうかと」
私は資料を渡した。
それと同時にディレクターのSK氏も資料を取り出した。
SK氏の資料はたいてい大きな紙袋の中から出てくる。
彼の資料は導入部とエンディングの、主にCGを中心にした部分の構成で、ラフコンテも書き込んであった。
私達はしばらく黙ってお互いの資料に目を通した。
「これ、素材のところにJ社とKY社って書いてあるのがロケのところですよね」
S氏が顔を上げてたずねた。
「うん」
「他の素材はありものですね」
今度はSK氏が言った。
「そうです」
「全部御社で保管してるんですか?」
「ええ。と言っても、本社の方で使っている代理店が保管しているんですけどね」
「じゃあ、なるべく早めに預かって素材出ししておきましょう。そうすればロケが終ってからすぐに仮編に入れますから」
SK氏は指でひょいとメガネをすりあげた。
素材出しというのは沢山あるVTR素材の中から制作に使用する部分を抜き出す作業である。ありものの素材で制作する場合、使いたい映像と使用に耐える映像が一致するとは限らないことが多い。何十巻もあるテープの中から使う部分を探し出して行く。
完全な絵コンテがあるわけでもないからディレクターと構成製作者のイメージが重要になる。
そのあと、抜き出した映像をシナリオに合わせて繋いで行く作業を仮編集という。
この仮編には全ての素材が揃っていなければ行けない。
「やっぱりロケは8月には終らせておかないとまずいですね」S氏が言った。
「宇部のロケを8月とすると・・・」S氏はちらとタケボーの方を見やって更に続けた。
「渥美のほうは来月になりますけど、大丈夫ですか?」と、今度は私の方に振って来た。
『だから、まだ詳細は詰めてないんだから、そんなこといわれたってわからないよ』
私は心のうちで舌打ちをした。
「何とかしますよ」・・・『ええい。面倒くせえなあ』
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