メッセへの道
第十二回 「 回想 」

6人の女性が部屋に入ってきた。はじめに部屋に入ってきた女性が私の正面に座った。彼女は前回の展示会でナレーターをやってくれた女性であった。
もちろん私は事前に書類を見て彼女が応募してきていることを知っていた。
書類に貼ってあった写真はたぶん前回の応募写真と同じだったに違いない。
丸顔のちょっとぽっちゃりとした感じの女性で、明るく元気のいい娘だったという印象があった。
彼女は部屋に入ってすぐに私に気づいたようだった。ムータンにしてもシンちゃんにしても前回は準備委員ではなかったのだから、彼女にしてみれば見知った顔といえばS氏と私しか居なかったのである。彼女は私に軽く会釈をし、私も会釈を返した。

女性達が自己紹介をしている間。私は2年前の打ち上げの日のことを思い出していた。
慣例で打ち上げは最終日の前日に行うようになっていた。最終日は撤収作業があり、施工関係者は出席できないからである。
前々回からナレーターやコンパニオン、フロアーディレクターなども参加するようになっていた。その最初のときはひどかった。出展機のオペレーションの補助にアルバイトの学生を雇っていたが、うちの社員連中にいいように飲まされてべろべろに酔っ払ってしまった。店を出るなりもどしてしまい、すっかり酔いつぶれて動けなくなってしまったのである。またナレータのひとりが、これもすっかり盛り上がってっしまっていた。もりあがって二次回にいこうという連中をコウヘイに、ナレーターの女性をS氏に任せ、私と当時のうちの担当のP社のSA氏とでバイト君の介抱をする羽目になった。
本当に今日が打ち上げなら多少羽目を外しても気にならない。しかし本当の最終日は翌日なのである。ナレーターやアルバイトに穴をあけられたら・・・。その場の私はそれこそ苦虫を噛み潰したような顔をしていたに違いない。
下戸の私は本来酒飲みがあまり好きではない。もっと嫌いなのは、自分の調子も分からないほどいい気になって酔いつぶれるような飲み方をする者、さらに相手の様子や調子も計らずに他人に酒を飲ませる輩である。
2年前の打ち上げのとき、私の頭の中にはそのときの苦い重いがあった。
だから、私はナレーターたちの集まっているテーブルに席をとった。
できるだけ、ナレーターやイベントコンパニオン達とパーティーコンパニオンの区別のつかないオヤジ連中との間に距離を保っておきたかったのである。もちろん建前はそうであっても、わたしだって女性たちの間に座ることは楽しみでもあるわけで、しかも私には大義名分があるのだ。

彼女は随分とアルコールがまわっていた。ときどきろれつも怪しくなってきている。
「だいじょうぶかよ」と、私は本当に翌日のことが心配になり始めていた。
「ダイジョブでちゅっ」
「ほんとかね・・・」
などと言っているうちに、どんなきっかけだったかは覚えていないが、私は彼女を車で送っていく成り行きとなった。
誤解してはいけない。下心などこれっぽっちもなかった。いや、なかったと思う。
確かになかった・・・はずである。
場がお開きとなった。私と彼女が店の前でほんの少し立ち話をしていたときである。
事態は私の下心のあるなしなどとはお構いなしに新たな展開をみせた。
「おい」と、大先輩のMさんが私の背中をたたいた。
「麻雀しに行くぞ」
わたしはあわてて振り向いた。みるとM先輩のうしろには巨漢のゴットちゃんが、「行こう行こう」と微笑んでいた。
『・・・なんで・・・』
私は半分泣きたい気分で、はじめて自分のかすかな下心を自覚した。
『だが、待て』
麻雀は4人でやるものだ。一人足りないではないか。まだあきらめることはない。
「えっ?でも、一人たりないじゃない」
私は藁など漂っていないことを祈りながら周りを見まわした。
− まずいっ − そこには、無責任ににやけたムータンが、コンパニオンを二次会に誘おうと口説いている姿があった。
M先輩はつかつかとムータンのほうに歩み寄ると、まるで襟首を掴んで引き摺るように彼を連れてきた。
かくして私の僅かばかりの下心は、幕張の夜の中へと消えていった。
結局私は何が悲しくてそんな事になったのか、助手席にしきりに赤ちゃん言葉でおどけている酔っ払い女を乗せ、後部席にはオッサン一人を含む三人のむくつけき野郎どもを乗せてハンドルを握る羽目になってしまった。
その後、夢やぶれしきりと愚痴る私とムータンが、M先輩とゴットちゃんに麻雀で敗れ去ったのは言うまでもない。

私がそんな面白くもない回想に浸っている間にもオーディションは進んでいた。
4人目の女性が自己紹介をはじめた。
「4年前の展示会で御社にお世話になった、Yと申します」
−ん?− 私は、彼女の顔をしばらく見つめ、そしてプロフィールに目を落とした。思い出せない。
「えっ?そうなんですか?」S氏が言った。どうやら彼も覚えていなかったらしい。
4年前の展示会といえば、P社がはじめてうちの展示会を担当したあの時の展示会だ。
「ええと、申し訳ないんだけど、そのときどこのパートを担当してもらったかなあ」
「はい、お客様を見学通路をご案内してご説明する役でしたけど」
−あっ、− 私の方がS氏よりも先に思い出した。
「ああ、思い出した。うん、あの乗りのいい娘だ」
4年前といえば、彼女もまだキャリヤが浅く、ナレーターとしては今ひとつだった。
しかし、若いだけに乗りがよく、また、笑顔が可愛らしくいい雰囲気を持った娘だった。
彼女が私のほうに顔を向けた。やっぱりそうである。4年たって、キャリアを踏んだ成果が少し雰囲気を落ち着かせてはいたが、やはりいい雰囲気を持っている。