メッセへの道
第十三回 「 選考 」

ナレーターのオーディションに続いてコンパニオンのオーディションが行われた。
「コンパニオンは、ナレーターと違ってやっぱり明るくてやる気のある娘を選んでください。ただし、あまりルックスばっかりで選ぶと現場で困ったことになったりしますんで、そこのところ宜しくお願いします」
S氏が説明した。
「じゃあ入ってもらいましょう」

コンパニオンの採用予定は3人。応募は12人だったので2回に分けて行うことになった。コンパニオンの面接となると私達の間にもリラックスした雰囲気が漂う。
特にムータンとシンちゃんの顔つきがさっきまでのナレーターのオーディションの時とは明らかに違う。
ナレーターに応募してきた女性達は、知性的なキャリヤっぽいファッションであったが、コンパニオンたちはもっとくつろいだ華やいだ感じの服装が多い。
自然と露出度も多少あがる。当然うれしい。
いや、わたしが・・・ではない。いやいや。私だけが、・・・ではない。

「こんどの展示会のお客様はどっちかと言うとおじさんが主になるんですが、おじさん達が相手となるとやっぱり皆さんの魅力が集客力の大きな要因になるわけです。そこで、会場にくるおじさん達に、パンフレットを手にとってもらったり、ブースに立ち寄ってもらうために、皆さんならどのように接しますか?」
コンパニオンのオーディションになって、S氏の質問が多少意地の悪いものになる。

中にとても可愛らしい娘が居た。少し小柄で、大きな目、愛らしい口元。
まだキャリアが浅いのだろうか。少し緊張気味で、シャイな感じのはにかんだような笑顔がいい。
この中でカノジョにするのなら誰にしますか?と問われればまず間違いなく彼女を選んだろう。
いや、しかし選ばないかもしれない。学生時代の卒業間際に少しの間つきあった娘によく似た雰囲気を持っている。人形のように小柄で可愛らしい顔立ちの、仲間達の間でマドンナ的な存在の娘であったが、どちらかというと大人しくあまり自己表現のうまくない娘であった。つきあった期間は短かったが、−きっと長くは続かないな−という予感が常に付きまとっていた。私自身がそんな予感を感じてしまうほどに夢中になりきれていなかった。そのせいだったのかもしれない。
私が大学を卒業して就職し、ほんの3ヶ月のあいだ、それも会社の研修のために東京を離れている間に、私には何の知らせもないままに彼女は結婚を決めていた。
実際に比べてみればそれほど似ていたわけではなかったかもしれない。しかし、持っている雰囲気の印象があまりに似ていた。
大人しいが、頑固な、ある種わがままな芯の強さを隠している。自己犠牲を払ってまでこの業界でキャリアをつんでいくタイプの娘ではない。

「じゃあ、ど派手な衣装とか大丈夫ですか?例えば超ミニスカートとか、水着とか」
S氏の質問が加虐的になってきた。
皆同様に困惑している。それはそうだ。事務所からはそんな話は聞いていないはずである。
『えっ?本当にそんなことするの?』
さすがにシンちゃんも困惑した表情を浮かべた。
本当にするわけがない。いくら集客のためとはいえ、うちに限ってそんな企画が通るはずがないことはS氏もとうに心得ている。
この質問はあくまで彼女達のこの仕事に対する彼女達の覚悟といっては大げさだが、気概のようなものを試しているに過ぎない。したがってここは、「はい。必要であれば」とこたえるのが二重丸で、ことばなく頷き、他の娘達の様子をうかがうのが丸印なのである。
当惑が交錯する中で例の娘がおもむろに手をあげた。
「水着は困ります。・・・人に見せられるようなスタイルじゃないし」
バツ。
皆の意見を代表したのだろうが、自分からそれを言ってはいけなかった。
きっと彼女は案外に正義感の強い、姉御肌の娘だったのかもしれない。
ただ単に経験の浅さによる勇み足であったかも知れぬ。
しかし、例えば現場でコンパニオン達の間に不満などがあがった場合、彼女はそれをなだめてチームをまとめるのではなく、代表して私達に改善を求めたりするのではないか、という印象を受けざるを得なかった。悪くすると自ら積極的に不満を表明するかもしれない。
結局オーディションの後すぐに行われた選考打ち合わせでは、私と同じ印象を持ったのであろうS氏の意見で、彼女は選に漏れることとなった。

すべての面接を終えたのは始まって2時間後であった。決して長すぎる時間ではなかったが、次々と応募してくれた女性達を採点していくのは、なれていないだけに思ったよりも大変な作業である。
ムータンやシンちゃんの表情もつかれた様子がうかがわれた。
印象が薄れないうちにすぐに選考の打ち合わせがはじめられた。
仕事の都合で途中から参加したタケボーは、ナレーターの選考には口を出さなかった。
ナレーターは実はP社の推薦で一名がすでに決まっていて、事実上一名を選考することになっていた。これには私の勧めがとおり、前々回の展示会に参加してくれたYさんに決定した。
コンパニオンについては、ムータンやシンちゃんの意見では例の彼女が有力であったので意見を出そうかと思ったが、S氏が異を唱えてくれたので私からはあまり強い意見は出さなかった。その実、個人的には彼女が選ばれなかったことが少し残念でもあったのだった。

この日、ナレーターとコンパニオンが決定した。