| 第十四回 「 ロケーション(1) 」 七月。早々と梅雨が明けた。日差しが一気に夏らしくなってきた。
私は夏の暑さがどうにも苦手であった。冬はよい。寒ければ着ればよいのだから。しかし、夏はいけない。いくら暑くても、着ているものを脱ぐといっても限りがある。素っ裸で出勤するわけにはいかない。なにしろ人に見せられるような裸ではない。いろいろな意味で。
私とタケボーは会社の前で待ち合わせることになっていた。
出勤時間にはまだ少し早いオフィス街は、日中の暑さを予告するかのように白く反射している。
待ち合わせの時間よりも少し早く着いた私は、日差しを避けたところで煙草を吸いながらタケボーを待った。
私達は今日から一泊二日で、愛知県の渥美半島までロケに行くことになっていた。
私はタケボーの車に乗り、途中東名高速道の浜名湖サービスエリヤでS氏、GUNちゃん他のクルーと落ち合う予定になっていた。
煙草を二本吸い終わり、額が汗ばんでくる頃タケボーがやって来た。
タケボーが愛車の『エルグランデ』から降りてきた。
白いシャツにジーンズ姿のタケボーは、日ごろの彼よりも年相応に若々しくみえた。
「待ちました?」
「いや。ちょっと前に来たところだから」
「よかったら出発しましょうか」
私達はさっそく彼の車に乗り込んだ。
『エルグランデ』の車内はかなりゆったりとしていた。車高の高い車なのでしかたがないのだが、フロントグリルが低いのが少し気になった。
私は前方視界があまり広いと、前に飛び出してしまいそうで不安になってしまうのだ。しかしそれもはじめのうちだけである。慣れてしまえばどうということもない。これなら渥美半島までのドライブも快適そうだ。
運転席に乗り込んだタケボーがエンジンをかけると、セルモーターが軽く咳払いをするように回り、たちまち座席を通して重量感のある落ち着いた振動が伝わってきた。
さらに彼はドアポケットからリモコンを取り出し何かのスイッチを入れた。
すると、フロントグリルの中央がぱくりと開き、カーナビゲーションのモニターが出てきた。
「ほお」
私は思わず感嘆の声をあげた。
「かっこいいなあ。なんか、サンダーバードみたいだ」などと、わけのわからない事を言って喝采した。
だいたい男などというものはこの程度のことがうれしかったりする。
女達が「わあ、かわいい」などと、ろくでもないものを喜ぶのとたいした違いはない。
車はまだ混み始めるまえの都心の道を快適に進み、首都高速も思いのほか順調に通り抜けた。
私達は渋谷のビル街の間を縫うように抜け、間もなく東名高速に入ることが出来た。
「そう言えば、前に乗ってた車をぶつけたのはこの辺だったんじゃない?」
「もうちょっと先です。横浜から入ってすぐのところで」
以前、タケボーが雪の中で走行中に車をぶつけ、それで買い換えたのだと聞いたことがあった。
「え?高速でやったの」
「はい。横浜の得意先に行った帰りに、雪が降ってきて。まだたいして積もってなかったし、車を置いていくわけにも行かなかったし」
その日は、珍しく関東地方に大雪が降った日だった。
私は広島に日帰りの出張に行き、帰りに大変な目にあったのを思い出した。小田原を過ぎたあたりから車窓に雪景色が広がり始め、新幹線が東京に近づくにつれてみるみる雪が深くなっていった。
1時間以上も到着が遅れた上、連絡の電車が遅れに遅れ、家に帰りついたのは深夜になってしまったのをよく覚えていた。
「あの日?」
「はい。ランプの登り坂で滑っちゃって、あっと思ったら尻を振りながらずるずるっと、そしたらガードレールのポストにがつんと」
全く無茶なやつである。
「怖かったろう?やっちゃったって感じ?」
「それがそうでもなくて、これで思いきって新車が買えるぞって・・・」
なんてやつだ。
わたしは快適なエアコンの効いた車内から、照りつき始めた夏の太陽を見上げた。・・・夏でよかった・・・
車は横浜を何事もなく抜けた。ロケ地渥美半島はまだまだ遠い。
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