メッセへの道
第十六回 「 ロケーション(3) 」

高速道路をおりて国道をひた走る。さらに幹線から市街地へ。そして林道へ。
カーナビゲーションがその威力を発揮する。私達はとりあえず今日の宿へと向かっていた。
「あ、あれじゃないですか?」
タケボーが道の右手を指差した。
あたりは畑と山ばかりの一本道。畑の中の雑木林を切り開いたところに撮影目的の菊花の選別センターが見えてきた。
いったん宿に入った後に引き返し、ロケハンを行う予定になっている。私達はその目的地を通り越し小さな山林の中へと車を進めた。
途中で後ろについてきていたGUNちゃん達の車に先頭をゆずった。GUNちゃん達の先導で山を抜けると思わず海の景色が視界に入ってきた。
私達一行は、半島から突き出た緑の岬と、先端に小さな灯台のある突堤とに切り取られた海岸線の一角に在る小さな漁港へと入っていった。
宿はどうやら大きめのつり宿といったところで、夏休みなどは近隣の高校の運動部の合宿所などに使われているところらしい。

私達がロケ地である菊花センターに戻ったのは午後の3時半を過ぎた頃であった。
車を降りると初夏特有のむせ返るような草いきれが鼻をつく。どことなく日ごろ街で嗅ぎなれた匂いと違うのは、見知らぬ土地の風土なのか、それとも菊の葉の匂いなのだろうか。アブラ蝉の鳴き声が重なり合って夕凪前のけだるい暑さに拍車をかけていた。
「じゃあ、ここで少しまっててください」
撮影クルーには駐車場で待機してもらい、私とタケボーは事務所に挨拶に行った。
しかし、一回りしてみたが事務所らしいところが見当たらない。
「やっぱり、さっきのところしかないですね」
タケボーが戸惑った様子で言った。
「荷物の受け付けしかしてなかったみたいだけどなあ」

私達が撮影しようとしているのは、地元の組合が運営している菊の花の選別をする施設である。近隣の菊花農家が生産した菊の花をここへ持ちこんで来る。その菊を花の色、大きさごとに自動的に仕分けをした後梱包し出荷のトラックが引き取りに来るまで冷蔵庫に等級別に保管しておく施設である。

私達は荷物の引き取りに来たトラックのドライバーと何やらもめていた職員が書類を投げ出すのを待っていた。
「なにか?」その職員がようやく私達に気がついて機嫌悪そうに言った。
「今日と明日、ビデオの撮影をするんです。許可はいただいてるんですが・・」
私は彼の機嫌を測るように気を使いながら言った。
「撮影?さあ、そう言うことは組合の事務所に言ってもらわないと、ここじゃわからんのでね」
「あの、じゃあどちらのほうにご挨拶に伺えば」
私はその職員のあまりに露骨な不愉快そうな様子に対しこちらの顔にも同じように不快な表情が露にならぬよう細心の注意をはらいつつ商売用の笑みを貼りつかせた。
「入ってきた道を市内にまっすぐ行って、国道にぶつかったら左に曲がるとすぐに組合の事務所があるから」彼の答えは無愛想な表情とは裏腹にていねいだった。
『別に悪気があるのではないのだ』そう理解しつつも、『なんだよ、なんでそういう態度になるのよ』という気持ちが拭い去れない。
純朴だとか朴訥だとか、そういったことが時として美徳としてもてはやされたりする。しかし、私は少しも美徳だなどとは思わない。
彼がそうだと言うのではないが、どちらかと言えば私はそう言った現代的社会性の欠如に対し嫌悪感を覚えさえする。
それはさておき、私とタケボーとS氏、GUNちゃんの四人で組合事務所に挨拶に行くことになった。
去りかける私達の背のほうで、「テレビ?何チャンネルかな。映るかしら」「さあ、映るかもな。でもテレビじゃねえぞ」と先ほどの同僚と囁きあっている女性職員の声が聞こえた。

事務所の管理職員は快く対応してくれた。私達はさっそく現場に戻りロケーションハンティングを開始した。