メッセへの道
第十七回 「 ロケーション(4) 」

ロケーションハンティングは、映像の仕上がりと編集作業を想定して撮影現場で撮影する場所やアングルを決める作業である。
シナリオに絵コンテやカット割が決まっている場合はその確認と言う事になるのだろうが、ラフのシナリオがあるだけの状態では、ディレクターのイメージをどのように実現するかがここで決まる。
「ここは必ずってとこはどこですか?」
「ここ押さえておきたいんですけど、こうアングルいけますか」
「あそこから下からあおって、機械が走って来るところをギリまで押さえましょう」
「やっぱりここからの全景は必要ですよね」
ディレクタのSK氏を中心に現場を見て回る。
撮影の中心となるのは自動的に等級別に選別された花をロボットが箱詰めした後、これも自動的に冷蔵庫の中に格納し、出荷する装置である。
冷蔵庫の扉を開く。冷気が流れ出して来る。基本的に無人で運転されている設備である。当然中は真っ暗だ。タケボーが照明のスイッチを探す。
冷蔵庫の中は案外に広い。中の気温はプラス5〜10度だという。庫内に入るとヒンヤリとして、外の暑さにげんなりしていた私達は思わず「お〜」と声を出していた。

私は以前マイナス30度の冷凍庫でのビデオ撮影に立ち会った事がある。この時は機材も寒冷仕様の機材を持ちこんだ。南極での撮影などに使用するような機材で、防寒着に身を包んでの撮影だった。しかし今回は機材もノーマル仕様だし、服装もシャツ姿である。
出荷が終わったばかりで、装置は動いていない。
「どんな風に動くか教えてくれます?」とSK氏が尋ねたのにタケボーが答えて装置の動きを説明している。
キンと引き締まった空気が静寂さの中に私達の声を際立たせる。
約一時間ほどの時間をかけてロケハンが終了した頃には外には夕焼けが広がり始めていた。

宿にもどったときにはすっかり暗くなっていた。風呂を使い、夕食となった。
食卓について驚いた。刺身は船盛り。その隣には大きな皿に無造作に積み上げられた蟹。
「おー、これは贅沢な」SK氏が驚嘆の声をあげた。
「なにしろお食事お奨めの宿ってことで探したんですから」GUNちゃんは皆の驚きの表情を得意げに見まわした。
ビールで乾杯をする。すると間もなくまた一皿運ばれてきた。みれば掌よりも大きい岩牡蠣ではないか。
「これはでかいなあ」
皆は一様に拍手をせんばかりだ。牡蠣は海のミルクなどと言われるが、その岩牡蠣はまさにその異名にふさわしいまろやかなコクと、海のミネラルを豊富に蓄え、涼やかとも思わせる味わいで、さらに私達を驚かせた。

そんな牡蠣だったが、オヤッサンの息子達の嗜好にはあわなかったようだ。どうやら牡蠣は苦手らしい。そういえば私も子供の頃は苦手だった。
息子さんたちが手をつけずにいた二皿の牡蠣を片付けたのはエビスさんだった。
ひとつでも腹が膨れる大きさの牡蠣であった。それを見事な食いっぷりで自身の分とあわせて都合三皿たいらげた。
「うまそうに食うなあ」とオヤッサンは半ば呆れ顔で言った。

まだまだ新鮮な海の幸が続いた。私達の腹もすっかりくちくなり、一方口は滑らかになっていった。
「ガチャピンってすごいと思いません?」
カメラマンのイッペーさんの話が続いていた。
「なんでもできちゃうんですよ。スキーとかスカイダイビングとか、あれほとんど同じおじサンが入ってるんすよ、着ぐるみのほうはいろんなバージョンがあるんだけど。で、局に行くとガチャピンの部屋なんてのがあって、こう、ズラーっとガチャピンが並んでんの」

何はともあれ、私達のリラックスした宴の夜は更けていった。