メッセへの道
第二十三回 「 ロケーション(10) 」

私の心配にも関わらず撮影は順調だった。
それにもまして私には心配事があった。
・・・ひとまわりって、いったいどこへ行ったのだ・・・
タケボーのことである。

ここの若い女性職員と一緒に車で一回りすると言って出ていった。
一回りするって、いったい何処へ行ったのだ。ことと次第によっては・・・。

「はい。オッケーでーす」
アシスタントディレクターのオーさんの声が響いた。
出荷場の撮影が終了した。
ちょっとした緊張から解き放たれ振り向いた私の目の前にタケボーがいた。
何事もなかったように屈託なく微笑んでいる。
「おつかれさまです」と皆におおきなこえをかけた。手には清涼飲料の缶やボトルが詰まったコンビニの袋を提げていた。
「なんだ、もう帰ってきたのか?」と、私が言うと、タケボーはとぼけているのか本気なのか、
「え?なんでですか?」と首を傾げて見せた。
「よっく言うよ」
私はなぜかとても安心し、すれ違いざまにかれの太もものあたりを膝で軽く蹴り上げた。
首をすくめて笑った彼の表情が、先ほどはとぼけていたのだと言っていた。

ディレクターのSAKA氏と代理店のS氏が歩み寄ってきた。
「一応全部終わりました」とSAKA氏。
一仕事終えた満足感のようなものがうかがわれた。
次いでS氏が、「スチールの方も終了したようです」と、機材の片づけをしている死神博士達の方を指差した。
「おつかれさまでした」
私は彼らを労い、死神博士達に飲み物を差し入れて戻ってきたタケボーは二人に袋を差し出した。
「お疲れ様でした。どうぞ」
「あ、どうも」SAKA氏とS氏は軽く会釈をするとタケボーが差し出した袋に手を出した。
「一息ついたら撤収にはいります」
「じゃあ、私達は事務所の方に挨拶に行ってきます」
「朝、行ったところですよね。じゃ、片付いたら後から追いかけます」S氏が言った。

日は傾き、東の空には夕闇が迫りつつあった。どうやら夕凪であろうか。わずかに涼をもたらしてくれていた風がやみ、いっそうの蒸し暑さに包まれたようだ。
日暮の鳴く声が祭りが終わったと告げているようだった。
慌ただしく、騒々しく、とにかく一仕事が終わった。私はタケボーの肩をひとつぽんとたたき、「さあ、行こうか」と声をかけた。

私はタケボーの車に乗りこんだ。とたんに先ほどの女性職員の顔が脳裏をよぎった。
いったいこの密室で、どんな会話が交わされたのか。いや、いったい何があったのか。まあよい。東京まではたっぷりと時間がある。
私は西陽を避けるためにサングラスをかけた。