| 第二十七回 「収録 」 いよいよスタジオ撮影の日がやって来た。
恵比寿にあるE社のスタジオは、CGアニメーションの立会いに来て以来だった。
8月下旬の町並みは白く焼けている。もとのねぐらは何処なのか、街路樹にとまった蝉の鳴き声が暑気をあおる中、わたしとタケボーはE社への道を歩いた。
私とタケボーがスタジオに入ったときには既にカメラテストが始まっていた。P社のS氏に迎えられた私達は、調整室に通された。調整室に入る左手が撮影スタジオで、半分開いた扉からスタッフが入り乱れた様子をうかがう事が出来た。カメラ、ディレクター、アシスタント・ディレクター、照明、音響、メイク、ヘアメイク、そして出演者などなど、驚くほど沢山のスタッフが狭いスタジオにひしめきあている。
私達が通されたのはサブ調整室で、こちらもあまり広いとは言えない。
S氏は、「大きい方のスタジオが、スケジュール開かなくて」と言い訳をした。予算がなかったのが本当の理由だったのだろうが、私は、「うん」とだけ応えた。
室内にはいると、正面の壁一面に機材が埋め込まれている。
モニターが4台。1番左手の1台には合成様の素材が、中央の1台にはスタジオのライブ映像が映し出されている。その二つの映像が合成されて、中央上のエディットモニターに映し出され、さらに1番右には民生用サイズのモニターがあり、ここに実際に映る映像に最も近い画が映し出される。
他に、音響のオシロスコープや、様々な電気信号のレベルを表示するメーターや各種のスイッチが、オペレーション・ボードに並んでいる。
人が立ち居できるスペースは、鰻の寝床状に6畳ほどもあるだろうか。オペレーション・ボードの前にはオペレーターが3人ついて、私達は、その背後にしつらえられた3人がけほどのソファーに腰掛けた。
やがて、ディレクターのSAKA氏と技術のGIMO氏がスタジオから戻ってきた。調整室の中も、歩くスペースもない状態になった。そして、分厚い防音扉が閉じられ、調整室もスタジオも外界から遮断された。
SAKA氏がヘッドセットを通してスタジオに呼びかけた。
「そろそろ始めます。準備どうですか」
すると、スタジオから応えがあり、おそらくアシスタント・ディレクターのオーさんのであろうと思われる声がスピーカーから聞こえてきた。
『はい。オーケーです』
「ええと、じゃあ、オープニングで、両袖から博士とキャスターが登場する場面。1回リハいきます」
左のモニターに未来的なスタジオをイメージしたCG映像が、中央のライブのモニターには、人が掃けて誰もいなくなった、真っ青なバックのみのスタジオの映像が映っている。
「では、いきます」
SAKA氏がキューを出すと、これがスタジオに伝えられる。
ライブモニターの両側から、それぞれ一人ずつ、博士とキャスター役の女性が颯爽と登場する。
エディットモニターにはCGのスタジオ内に二人が歩いてきた映像が、リアルタイムで合成され映し出される。
私は以前、この合成映像の凄さを見せられていたが、タケボーは今日が始めてである。
「へえ」と、彼の口から驚きの声がもれた。
これからがなかなか大変な作業である。
合成された映像をよく見ると、二人の女性の足が床についていない。
「そのまま待ってください」
オペレータがSAKA氏にそう言うと、背景の方が調整された。床がやや上に上がり、二人の足が床に届いた。
「宙にういてましたねえ」とS氏。
さらに背景に描きこまれた小物類と人物の大きさや距離感が調整された。
全く不思議な光景である。
「これでいいですかね」と、オペレーターがディレクターのSAKA氏たずねる。
SAKA氏は入念にエディット・モニターの映像をチェックし、「いいですね」と、オペレータに伝えると、今度はヘッドセットを通してスタジオに、「それでは本番いきます」と伝えた。
『はあい』と、オーさんの声が返ってくると、出演の女性達も画面から見えなくなり、スタンバイに入ったようだ。
誰もいない真っ青なモニターからスタジオの緊張感が伝わって来る。
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