| 第二十八回 「収録(2) 」 収録は、シーンが変り背景が変るたびに、立ち位置や背景のサイズなどの微妙な調整を繰り返しながらすすんだ。
博士の足が大きな穴の上に浮いていたり、キャスターの頭が宇宙船の屋根から突き出していたり、いったん位置が決まればカメラのパンやズームにリアルタイムで追従するCG合成だが、途中でおかしな関係になったり(最初の位置関係が合っていないせいである)と、最新テクノロジーはとかく難しい。
いよいよ実写との合成となると更に調整は微妙になる。先日ロケーション撮影したシステムや過去に撮り溜めた実写システムの中を、彼女たちが歩き回りながら説明をして行くシーンである。
一泊二日で渥美半島まで出向いて撮影した素材も、実際に使われるのはほんの数分である。
あの冷蔵庫の中でながしたイヤな汗の記憶が頭の隅をよぎった。
収録はかなり予定を押してすすみ、やがて昼の休憩となった。
スタジオ備え付けの休憩室で弁当を摂る。
収録スタジオのスタッフとはそこではじめて顔を合わせたわけである。カメラのイッペーさんや、ADのオーさん、照明のおやっさんなどは既に見知った顔であるが、他のスタッフは始めてみる顔である。ただ、スタッフ同士は他の仕事で組んだことも多いのだろう、お互いに顔見知りで、リラックスした雰囲気である。
私とタケボーだけがちょっと浮いた存在で、ちらりとではあるが私の心に孤独感がわいてきて、そしてすぐに消えた。
食事をしながら、午後からの予定などが打ち合わされた。
「どうですか、ペースは」と私はディレクターのSAKA氏に尋ねた。
「ちょっと押し気味ですね。でも、今日しかスタジオを押さえられなかったので、撮りきってしまわないと」
SAKA氏が食べ終わった弁当を片付けながら応えた。
「6時までしか押さえていないんですが、むりですか」
GIMO氏がちょっと心配そうだ。
「そうですねえ」
「じゃあ、そのあとの予定確認しておかなきゃ」
「そうしてくれる。午後からなるべくペースあげるから」
そう、SAKA氏がGIMO氏に言った。
ああ、これで晩飯もここで弁当だ。私は彼らには聞こえないように、ちいさな溜息をひとつついた。
休憩が終って調整室へ戻る途中で、廊下で博士とキャスターの二人とすれちがった。
「お疲れ様でーす」と、明るく軽いお辞儀をした彼女達であったが、私は彼女達の姿を見て軽く吹き出してしまった。
食事やメイク直しで衣装が汚れないようにするためであろう、大きな涎掛けのような布を首に結わえて、それでいて彼女達特有の背筋を伸ばした颯爽とした歩き方で廊下を歩いてきたのだった。
「あ、午後もよろしくね」と、私はにっこりと彼女達に応えた。
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