| 第三十ニ回 「 設営(1) 」 10月も下旬に入ると街の中にも秋の気配が目立って来る。街路の銀杏の葉も色づき始め、朝夕の風は冷気を帯びて来る。
よく晴れた金曜日の朝。湾岸道路の下り線は渋滞も無く、私は気持ちよく車を走らせた。
船橋の工業地域を抜け幕張の新都心地区に入ると、辺りの景色が一変する。
立ち並ぶ高層ビル。碁盤目状に整備された広い道路。やや無機質な感じもあるが、凝ったデザインのオフィスビルやホテル群は誇らしげに秋の空にその機能美を競い合っている。やがて、超高層のシティーホテルが見えてくると、幕張メッセはもう間もなくである。
私はメッセ専用の駐車場に入るアプローチウェイを通りすぎ、次の交差点を駐車場とは反対方向に曲がった。
小さな橋を越えると幕張メッセの正面に出る。私はメッセとは反対側の路上に車を停めた。
ガードレール替わりの植え込みを乗り越え、すぐ前のオフィスビルに入ると、メッセを目の前にして大きな窓を備えたハンバーガーショップがある。まだシャッターを上げたばかりの店内には客の姿は見当たらなかった。
私は入り口のカウンターで、ホットコーヒーとフライドハッシュドポテトを買い、窓際の席に座った。
展示会があるたびに、朝の時間が許すときにはこのハンバーガーショップに立寄っている。
数年前までは、展示会のスタッフや、コンパニオンの姿が多かった。
会場では華やかな彼女達の素顔がみられるひとときである。
ナレーション原稿を読んでいたり、スケジュールの確認をしたりしていることが多かった。
しかし、前回辺りはそんな姿も減ってきた。
動員されるスタッフやコンパニオンの数が減ったのかもしれない。また、ハンバーガーショップでお金を使う余裕が無くなってきたのかもしれない。
そろそろ時間だ。私は席を立った。
車をメッセの駐車場に入れる。会場内まで入る入門証はあったが、設営開始初日は場内の周回道路が大型のトラックやレッカー車でごった返しになる。停めるところを探すのも大変だし、万一当てられでもしたらかなわない。多少遠いが駐車場に停めることにしていた。
人気のない巨大なホールを抜け、まだ照明に明かりも入っていない会場へと入っていく。何もない展示場は広く暗い。外の冷気よりもわずかに暖かな澱んだような空気が満ちているだけだ。
集合時間より少し早めに来たつもりだったが、すでにムータンとシンちゃんが来ていた。
「おはようございます」
「おはよっす」
「他には?」
「イノさん達はもう来て、トラックの待機場所を確認に行ってます」
シンちゃんが言った。
「うん」と、私はトラックの入場口の方を見やった。シャッターはまだかたく閉ざされている。
その脇の暗がりから何人かの人影が現れた。うちの会社の作業着を着ている。工場から据付の為に出張してきたメンバーだろう。
「おはようございます」
「おはようございます」
展示装置の据付、運転は彼等が頼りだ。いくら装飾や演出をしても、主役は装置である。
「よろしく」
私はリーダー格のIK氏の肩をたたいて言った。
まもなくあのシャッターが開く。広い場内に3箇所の入り口があり、そこからいっせいにトラックやクレーン車が雪崩込んで来る。
私の気持ちは徐々に昂ぶってきていた。
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