メッセへの道
第三十七回 「 リハーサル(2) 」

私が、設営が済んだ応接スペースで、煙草を吸いながら缶コーヒーをすすっていると、「おはようございま〜す」と、元気のよい心地よい声がした。
ナレーターのNとYが入ってきた。

NはP社のイチオシであった。年齢不詳。長い髪にちょっとカマキリみたいな顔の輪郭で、目と口が驚くほど大きい。笑顔じゃない顔には、できれば出会いたくない感じだ。
宝塚風ナレーターとでも言えばよいだろうか。

Yは4年前の展示会でも、うちのブースで働いてくれた。改めて見ると、随分と貫禄が出たようだ。ボーイッシュな童顔で、Nとは別の意味で年齢不詳な感じだ。引退後に備えて、友人と台湾マッサージの店を出しているのだという。妙なところでつきぬけている。

「どうよ、原稿はいった?」 私はどちらにともなく尋ねた。
「ううん、ちゃんと覚えてたんですよ。でも、直前で直しが入っちゃったでしょう」
はじめにそう答えたのはNの方だった。
「そうなんです。おとといですもん、直しの原稿が来たの」と、Yも少し怒ったように言った。もちろん本気で怒っているわけではない。
「ほんとにもとの原稿覚えてたのか?」
私も冗談半分に言った。
「もちろん」NとYは顔を見合わせて笑った。

そこへ、今回の進行責任者でもあるシンちゃんがやってきた。
「おはようございまぁす」
「あ、おはようございます」
なかなかどうにいった挨拶だ。
シンちゃんは頭を掻きながら近寄って来ると、「すいません。急に原稿変更しちゃって」と言った。

「だめですよ、ちゃんと一週間前に原稿入れてくれなくちゃ」
Nが弟をたしなめるように言った。
彼女の大きな目に睨まれたら、誰だって弟になったような気になるだろう。
「はっ、すいません」
シンちゃんは何度も頭を下げた。

P社のフロアディレクタがやってきた。実際の進行は彼が仕切ってくれる。
私もシンちゃんも、会期中は接客に当たらなければならないからだ。
「機械の動きと合わせて通しでやるのは、2時くらいからでいいですか?」
ディレクター氏が尋ねた。
「調整の方はどう?」
「はい、いつでも大丈夫っす」
シンちゃんが私とディレクター氏に答えた。
「もう少ししたら、また試運転を始めますから、先にVTRを見てもらって、それから機械の動きをみてもらうといいでしょう。原稿のイメージが確認できると思いますから」
私はNとYの方を見ながら言った。
「そうします」ディレクター氏はうなづき、「それじゃ、荷物を置いてきて。そこのモニター前に来てください」と、NとYに指示を出した。