| 第三十八回 「 リハーサル(3) 」 ディレクター氏が尋ねた。
「調整の方はどう?」
「はい、いつでも大丈夫っす」
シンちゃんが私とディレクター氏に答えた。
「もう少ししたら、また試運転を始めますから、先にVTRを見てもらって、それから機械の動きをみてもらうといいでしょう。原稿のイメージが確認できると思いますから」
私はNとYの方を見ながら言った。
「そうします」ディレクター氏はうなづき、「それじゃ、荷物を置いてきて。そこのモニター前に来てください」と、NとYに指示を出した。
ナレーターを入れてのリハーサルが始まった。
はじめは原稿をもちながらの練習だ。進行を確認しながら、何度も原稿を読み直す。ところどころ読み方やイントネーションの確認をする。
シンちゃんが質問に答えている。
原稿を読む回数が進むたびに、彼女達が原稿に目を落す回数は減っていく。
実機の説明では、機械の動きと原稿の内容を確認していく。
「ここ、どうしても合わないですね」
Nがディレクターに言った。ディレクターはシンちゃんに、「どうします?原稿変えますか?」と訊ねた。
シンちゃんは困ったように原稿を見なおしている。
シンちゃんが私の方を振りかえった。―どうしましょう―。そう言っている。
「もう1回読んでみて」と、私は言った。
Nが原稿を読んだ。かなり速めだ。
「ここ、何秒?」
私はシンちゃんに機械の動作時間を確認した。
「10秒の予定っすけど、ちょいそれより短いです」
「そか。じゃあ、合わせるのちょっと無理でしょう。そのまま次のパートまで読んじゃって、そこで合わせよう」
ディレクター氏が頷いて、NとYに指示を出した。
「そろそろ通しでいってみようか」
私は頃合を見て、シンちゃんに言った。
「そっすか」シンちゃんはナレーター達の方をみて、「いけますか?」と訊ねた。
Nは、きっぱりと「はい」と頷いたが、Yの方は少し自信なさげである。
私はYに向かって、「なあに、その顔は。いけるっしょ」と、冷やかした。
Yは、「はあい」と、すこしおどけて答えた。
「じゃ、機械の方もスタンバイさせますんで、2時半からということで」
シンちゃんはそう言って、展示機のオペレーターに指示を出しに行った。
2時半からのリハーサルは、説明員や誘導員、セールスマンも定位置について進行と段取りを確認することになった。
ムータンが説明と指導をしてる。
休日に立会いには来たが、暇を持て余しているお偉いさん達を来場客にみたてた。
開演を知らせる陰ナレから、リハーサルは始まった。
シンちゃんは時間をはかりながら原稿を確認している。
初めはNのリハーサルとなった。
「まもなくS社ブースでは、シアターでの映像と、実機を使ってのデモンストレーションを行います。どうぞお立ちより下さい」
ゆっくりとした、メリハリの効いたNの声が、会場内に響いた。
あちこちのブースでリハーサルのナーレンションや音楽が流れているが、本番での周囲の騒音とは比べようもない。
リハーサルの段階なら、会場中に響き渡るほどでないと、本番では10メートルと届かない。
マイクの音量は本番で調整していくしかないが、音響機器を通したときのNの声質は全く不安はなさそうであった。
客にみたてた偉いサンをモニターゾーンに通し、映像を流す。
映像が終るとナレーターが登場し、実機ゾーンへ誘導。
そこで、実機のデモ運転に合わせて、ナレーターの説明。
アンケートを回収しつつ、パネル展示とセールスマンが待つ出口通路へ。
良い感じだ。偉いサン達の表情を見ても、その感触はよいようだ。
「ええやないか」
一番のうるさがたである支店長が、私に声をかけてきた。
「これをどのくらいのペースで演るんか?」
そら来た。とにかくブースではデモや、イベントが常に行われていないと気が済まないのだ。
「昼休み以外はほとんど間はあけないつもりです」
「昼休みは、展示機は動かすんやろな」
「はい。展示機の横のモニターにも説明用のビデオを流し続けます」
支店長は満足そうに、
「そやそや、機械は動かしておかんとな」といって、接客スペースの方へと歩いていった。
Nの通しのリハが終って、引き続きYのリハを行った。
ナレーションの声質や原稿の正確さでは、Nの方がやや上だが、ライブでの明るい雰囲気はやはりYの方がよい。
どちらも、ナレーターとしては、説得力のあるよいしゃべりである。
きっとよいデモンストレーションになる。私はその感触に、知らず知らずに微笑んでいた。
|