【プロローグ】

 

 『御津門(みつかど)中学校・同窓会』という看板をみつけて、宇野勇はプレゼント待ちをする子どものような顔で店に入っていった。
 店員に会場の場所を聞き、軽い足取りで店の奥へ入っていく。

 「おっ! イサミ、久しぶり!」
 「久しぶり! サトルも変わってないなー。今は何やってんだ?」
 「ちょっと宇野君に榊原君! まずは会費をお願いしますー!」
 「ああ、ごめんごめん! 伊藤さんが幹事だっけ。とりまとめありがとう」

 会場入り口で久しぶりに会った旧友の顔に『話したい』という衝動が先にこみ上げていた宇野は、怒られながらも懐かしい声に喜びを感じていた。
 支払いを終わらせると、伊藤の隣で補佐をしていた女性が小さく折り畳まれた紙の入ったクッキー缶を差し出してくる。
 「はい! 今回の座席はくじだからひとつ引いてね」
 「どこの席になるかな?」
 「みんな、スポーツ選手の隣なら誰だって歓迎だろ?」
 「お前の隣だってみんな歓迎するよ」 
 入り口で会った榊原悟とそんな話をしながら一緒に入っていくとすでに何人か座っていた。番号を見ると、宇野のは「15」と書かれていた。
 「サトルは何番?」
 「俺のは、15だな」
 「あー、俺は31だからかなり離れてそう。まあ、後から席移動できるだろ」
 目で「15」を追っていく。その過程で30台がなかったから悟と離れるなと少し感じた程度で、深くショックは受けなかった。
 15の座席で座っていると次から次へと人が入ってくる。全員の顔と名前は一致できないでいるが、宇野は特に気にしない様子で携帯電話のスケジュール画面をみていた。
 
「よっ。テレビで活躍みているぞ」
 向かいから突然声がかかって慌てて顔をあげると、中学校時代、同じクラスだった井伊清太が中腰でいた。
 「井伊じゃないか! 元気にしてたか?」
 「ああ。今も元気にやってるよ。といっても、声しか出演してないけどな」
 「声優ってやつだっけか? だとしてもすごいじゃん」
 「声優とも違うんだけどなぁ~」
 「声優……?」
 その一言に反応してやってきたのは一人の女性、小鳥崎薫だった。女は化粧をすると変わる、と聞いたことがあったが、一目見て、中学時代の小鳥崎にそのまま当てはまった。相変わらず華奢な体。それが宇野がすぐに思い出せた理由だった。
 宇野にそう思われていることを知らずに、小鳥崎は身を乗り出して井伊に近寄る。
 「うーん……」
 「え? 小鳥崎、だよな? ど、どうしたんだよ……?」
 「……聞き覚えがない。私の好みに入ってなかったみたいですね」
 「えっ!? なんかそれ、悲しいよ!? この職に就いてから一番ショック受けた気がするよ!?」
 「あー、はいはーい。飲む前からそんな大声出してると、捕まえちゃうよー?」
 どこかつかみどころのない声で三人に話しかけてきたのは、一目見てハッとするような容姿をした女性だった。声は聞いたことがあるが、いまいち誰なのかが宇野が思い出せないでいた。小鳥崎は彼女のことを覚えているようで、笑いながら冗談を返す。
 「ふふ。お酒の席でも取り調べに来てくれるなんて、仕事熱心だね」
 「ははーん。薫ちゃんは相変わらずオタクやってるんだねー。捕まったヤツのほとんどは声と絵だけで釣られてるらしいよ?」
 「釣られたら詐欺罪になる?」
 「それでなったらゲーム業界やっていけなくなるでしょ。はっはっはっ」
 女性だけで盛り上がってついて行けない宇野と井伊を脇にして、幹事の伊藤がクジの入ったクッキー缶片手に四人のそばに来た。
 「蒼ちゃーん。クジ引いてないよー」
 「あ? ああ、ごめんごめーん」
 蒼と呼ばれた女性は冗談っぽく謝ると缶に手を入れた。
 「蒼……。ああ! 鹿波蒼か!」
 「お? 今頃思い出したようだね? マスターキートン」
 「キートンゆうな!」
 「はははっ。お前たちのやり取りはいつまで経っても変わらないな」
 いつもと変わらないやりとり。それを見て笑うクラスメイトたち。


 この四人に悪意を持って見ている人物がいるとは、この時、誰一人知らない。

 

 

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