最近では日本国内においても、子どもに英語を習わせたい、インターナショナルスクールに通わせたいと考えている方が増えています。また、英語教室も増え、日常生活や授業は全て英語という保育園、幼稚園、小学校もあります。英語教材や英会話スクールなどの教育産業も非常に盛んで、一般の幼稚園や小学校でも英語活動を取り入れるところが増えてきている今では、「幼児に英語なんてまだまだ早いわ」と考えているママにとってさえも、完璧に無視することはできないくらい「英語」は現代の子育てのキーワードの一つとなっていると言ってもよいのではないでしょうか。
少し前までは「バイリンガル」と聞くと、両親の仕事の関係で海外で教育を受けた帰国子女や国際結婚をした家庭などを思い浮かべる人が多かったと思いますが、最近では両親ともに日本人で日本で暮らしていてもバイリンガル教育を目指すという方が増えているそうです。また小学校での英語活動もはじまり、日本での子どもの英語教育は過熱するばかりで、このような中で「バイリンガル子育て!」などと聞くと、安易に自分もそうしなければいけないと思うかもしれませんが、そもそも日本においてバイリンガル教育を行うとはどういうことなのでしょうか?
「バイリンガル」という言葉を用いて表面的な良い点ばかりを取り上げているものが多くあり、その意味や難しさを真剣に考え、良い点や起こりうる問題点を含め、子どもの成長過程をきちんと考慮して議論しているものは少ない、もしくは埋もれてしまっているという印象があります。このような溢れる情報の中で、新米ママとして私自身惑わされないためにも、「バイリンガル教育」について少し勉強してみようと思ったのがこのテーマを選んだきっかけです。
※ここでは一人の親としての立場から、主に両親ともに日本人で日本語を母語とし、日本で生活をしながら言語形成期にある子どもにバイリンガル(ここでは日本語、英語)教育(つまり、早期英語教育)を行うことについて考えてみたいと思います。
◆「バイリンガル」とは?
まず頭に浮かんだのが「そもそもバイリンガルとはどのような人のことをいうのだろうか?」ということです。"bilingual"を英和辞書で引くと、「二ヶ国語を話す人」とだけ書いてありますが、「二ヶ国語を話す」とは言っても、どのようなレベルをいうのでしょうか?
いろいろ調べてはみたのですが、バイリンガルを明確に定義してある本は見つからず、むしろバイリンガルの定義は難しいと書いてあるものばかりでした。中島和子著「バイリンガル教育の方法」※では以下のようにわかりやすく様々な角度から分類されていました。
<到達度からの分類>
1)両方の言語が年齢相応のレベルまで高度に発達している二言語型
2)もう一つの言語が明らかに弱い一言語型
3)どちらの言語も年齢相応のレベルに達していない二言語低迷型
<「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能からの分類>
1)「聞く」ことができる聴解型
2)「聞く」「話す」ことができる会話型
3)「聞く」「話す」「読む」「書く」ことができる読み書き型→バイリテラル"biliteral"とも言う
<発達過程による分類>
1)二つの言語に同時に接触する同時発達型
2)一つの言語が先行して、その上に第二言語が加わる継起発達型
<価値観、ものの感じ方、行動パターンなどの文化習得による分類>
1)言語は流暢でも価値観、ものの感じ方、行動パターンは一つだけのモノカルチュラル型
2)言語とともに文化習得を伴うバイカルチュラル型
3)多分化に触れて育った結果どこの文化にも属せなくなったデカルチュラル型
他の分類方法なども紹介されており、「バイリンガル」の定義はとても難しいとおっしゃっています。また、どの分類方法でも、その中でどこに属するかを明確に区別するのは難しく、「バイリンガル」と言っても様々であることがわかります。このようにあらためていろんな角度から眺めてみると、自分の子どもの置かれた環境を把握し、どのような方法が適しているか、どのくらいのスパンで考えるかなどを考える上でとても役に立ちます。
「あなたはバイリンガルですか?」と日本人に聞くと、たとえ英語の新聞が読め、日常会話がスムーズにでき、仕事で英語を使っている人でさえも、余程の自信がない限りは「はい」と言える人は少ないのではないかと思います。私がこれまで持っていた「バイリンガル」のイメージも、上記の分類を用いると、両方の言語で同等に「聞く」「話す」「読む」「書く」ことができ、発音もネイティブ並みで、海外生活経験があり、文化習得も伴ったバイカルチュラルな人というものでしたが、あらためて考えてみると、必ずしもそうではないということがわかりますし、またそうである必要もないと思います。
このように「バイリンガル」とは、「完璧に二言語を使いこなせるスーパーマンのような人」のみを指すのではなく、各家庭で様々に定義できるものであり、また、子どもの置かれた環境や年齢、親の考え方や教育方針によって、どのようなバイリンガルを目指すのか、どのような方法でバイリンガル教育を行うのかも、異なってくると言えると思います。
◆なぜバイリンガル教育なのか?
もちろん英語を使えた方が将来の可能性も広がり便利ではあるのですが、バイリンガル教育にはプラスの見解とマイナスの見解を持つ人がいます。まずよく聞かれるバイリンガル教育のプラスの見解とマイナスの見解を以下に並べてみました。
<マイナスの見解>
1)無理に二言語を習得させようとすると、情緒不安定になるのではないか?
2)言語間の干渉が起こり、言語障害が起こるのではないか?
3)知能の発達に悪い影響を与え、学力低下につながるのではないか?
4)両言語とも中途半端になるのではないか?
5)日本人としてのアイデンティティが失われるのではないか?
など
<プラスの見解>
1)視野が広くなり、思考に柔軟性が出てきて、問題解決に有利になる
2)異質な環境や行動、思考様式への適応性を高める
3)異文化の受容度を高め、様々な言語、文化を持つ世界の人々に対してより寛容な態度がとれる
4)話し相手のニーズに敏感になり、コミュニケーション能力を高める
5)将来の可能性が広がり、選択肢が増える
など
上記のようなマイナスの見解については、実際にそのようなことが起こっているから心配されているのだと思います。私も実際に、バイリンガル教育を行っていて子どもが急に言葉を発しなくなったとか、日本語の読み書きが不得意なバイリンガルの子どもの話しなども聞いたことがあります。しかし、その詳細の原因については、ここで私が取り上げられるような簡単な問題ではないので触れませんが、バイリンガル教育の研究が進み、上記のようなマイナスの見解とバイリンガル教育の直接的因果関係を否定している研究結果などを見ると、実際に上記のような問題が起こったのには、やり方に何らかの問題があったからではないかと思えます。
また、よく、バイリンガルとアイデンティティの問題が取り上げられます。つまり、「バイリンガルになると、自分が何者であるかわからなくなるのではないか?」「日本人としてのアイデンティティが失われるのではないか?」などと言われます。しかし、バイリンガルの中にアイデンティティの問題を抱えている人もいるというのは事実でしょうが、アイデンティティの問題はバイリンガルでなくても、程度の差はあれ、誰にでも起こり得るのではないでしょうか。標準語を問題なく話し、一見東京の人と何の違いもないように見える地方出身の人が、実は内心ではいつまでたってもなんとなく東京の人に馴染めなかったり、考え方が違っていてこれだけは譲れないということがあったりします。それが国のレベルになると事情はもっと複雑になるでしょうが、自分がある国の国民であるということ、つまり日本人であると強く意識することと、バイリンガルであることは直接的には関係のないことだと思います。逆に海外へ出たり、異文化に触れる機会が増えることで、日本人としてのアイデンティティを強く意識するようになる(もしくは親が意識させるようにする)のではないかと思います。もちろん、まだ自分の意思で行動できない子どもが長期に渡って極端な環境変化(海外の現地校やインターナショナルスクールに入れるなど)を経験する場合には、親の特別なケアが必要になってくるのだと思いますが、これはまた別の問題だと思います。
このように考えていくと、当然マイナスの見解のような状況に陥らないように十分に注意しなければならないですが、(他の家庭でそうしいるからそうしなければというのではなく)その家庭独自の考えに基づいたバイリンガル教育を行うメリットは大きいのではないかと思うようになりました。
◆バイリンガル教育は早期にはじめるといい?
では、バイリンガル教育を幼児期からはじめるといいと言われるのは何故なのでしょうか?以下に一般的に言われるメリットをまとめてみました。
(1)音の認知能力が高い
小さいうちに脳の中に音を認識する回路ができてしまうそうです。そして、一旦ある音を認識する回路ができてしまうと一生消えないそうです。赤ちゃんのうちに楽器などのいろんな音を聞くのはよいと言われているのはこのためだそうです。
またよく「9歳の壁」という言葉を聞きますが、9歳以前に英語の音に触れておくとネイティブに近い発音で話せるようになると言われています。正しく聞き取れれば正しく発音できます。しかし、音の回路が出来上がってしまった大人の脳では、新しい音を聞き取るのに相当の努力が必要になり、発音もネイティブ並みになるのは難しいそうです。
(2)子どもは真似&繰り返しが好き
子どもは何でも上手に真似します。そして楽しいことは嫌がらずに何回でも繰り返します。子どもは言語の習得に必要な「繰り返し」という作業を精神的苦痛なく行えます。
(3)心理的障害が低い
大人になるにつれて失敗を恐れるようになります。何事も間違ったら、失敗したら・・・と考えるとなかなか上達しません。間違いを恐れない積極的な子どもの態度は、語学の習得においてもプラスに働きます。
(4)子どもは五感を使って学ぶ
子どもは、聞く、見る、触る、嗅ぐ、味わうの五感を使って全身で学んでいきます。歌にしても、ゲームにしても、ごっこ遊びにしても、子どもは体全身を使って行います。お勉強としてではなく、感覚的に学べるのも小さい頃ならではのメリットだと言えます。
これらは全て裏を返せば子どもに英語を与える時のポイントだとも思います。英語学習を「お勉強」ではなく、楽しい遊びにすること、少々間違ってもガミガミ言わないなど、大人の感覚で考えないように気をつける点でもあると言えると思います。
◆早期バイリンガル教育について私が思うこと
〜バイリンガル教育は教育ママが熱心に行う詰め込みの早期教育?〜
日本での子供の英語教育の過熱ぶりが少し異常に思える人にとっては、「バイリンガル教育」と聞くと、教育熱心なママが一生懸命子どもに英語を教え込んでいるようなケースを想像するのではないかと思います。また、年配の方から見れば、英語の歌を聞かせたり、絵本を見せたりしていると、「赤ちゃんのうちから英語なんて早すぎるわよ」とか「教育ママになりすぎると子どもがかわいそうよ」と思われるかもしれません。
これは、「バイリンガル教育」=「詰め込みの早期教育」との勘違いで、早期教育に熱心になるあまりに子どもに無理をさせるケースが増えているという事実からくる心配なのだと思います。
私も、言語、運動、音楽など、様々な分野での早期能力開発のための「やり過ぎ、偏り過ぎ」はよくないと思っていますし、また、そのためのびっくりするほど高価なセット教材やお教室通いも必要ないと思っています。それに「うちの子は10ヶ月なのにもう歩くのよ」とか「1歳になる前に言葉を話した」とか、年齢相当以上のことができることがすばらしいかのような発言を聞くことがありますが、早ければいいというものではなく、むしろ年齢に見合った発達をしてくれた方が安心だとさえ思っています。
「バイリンガル教育」についても同じ考えで、日本にいるのに小さい頃から英語をペラペラと話すなんてことは期待していませんし、普通に生活していたらあり得ないと思っています。また日本で生活していてバイリンガルになるのは相当な時間と気の長い努力を要することで、たとえ0歳の時からバイリンガル教育に取り組んだからといって、必ずしも完璧なバイリンガルになれるとは思っていません。
単に英語が話せればいいというわけでなく、何ができるかの方が重要だということは言うまでもありませんが、これまでいろいろ本や記事を読んだり、子どもの英語教育に関わる方の意見を聞いて、幼い頃にバイリンガル教育を行う目的は、英語がペラペラ話せるようになることではなく、「英語の音を聞き取る耳を作り、将来バイリンガルに育つことができる基礎を作ること」と、「幼い頃に外国語に触れることで子どもの成長に良い影響を与えること」の2点だと私なりに捉えるようになりました。そして日本語という母語や自国の文化を大切にしながら、英語をコミュニケーションのツールとして使えることができるようになればと願っています。
親があまり深く考えずに子供をバイリンガルにすることの表面的な部分のみに憧れていると、子どもの負担になったり、厳しくし過ぎて英語嫌いにしたりという悲しい結果になってしまいます。また、英語教材の巧みなセールストークにのせられて、ついつい高価な教材を購入したけどほとんど使っていない・・・なんてことになってしまいます。(もちろんセット教材もすばらしいものがありますが、使いこなすには親が労力を惜しまない覚悟が必要だと思います。)
そうならないために、様々な人からのアドバイスを読んだり聞いたりして、私が共感し、自分も気をつけたいと思ったポイントを以下にまとめました。
・子どもの成長、ペースに合わせたやり方を選ぶ
・気長に取り組み、早急な結果を求めない
・無理強いしない(子どもを追い詰めない)
・結果を期待し過ぎない(気楽に取り組む)
・教材にお金をかけ過ぎない
・子どもと一緒に楽しむ
親だけが夢中になりすぎないように子どもをよく観察して、気負わずゆっくりと気長に取り組んでいければと思っています。
バイリンガル教育(2)
バイリンガルになるには、生まれた時から二つの言語に同時に接触する「同時発達型」と、一つの言語が先行してその上に第二言語が加わる「継起発達型」が考えられますが、日本に暮らし両親がともに日本人である場合、多くは後者に当てはまると思います。このような場合、どちらの言語も発達途上にある子どもにバイリンガル教育を行う際は、母語と第二言語がどのような関係で習得されるのかを理解しておく必要があると思います。次は子どもの成長過程とそれぞれの特徴を見ながら母語の発達と第二言語習得の方法について、勉強してみたいと思っています。
<参考文献>
バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること
中島 和子 (著)
英語のできる子どもに育てる―誰でもできるバイリンガル子育て
ノーラ コーリ (著), Nora Kohri
子供のための英語―ビギナーズガイド
清水 万里子 (著)
子どもをバイリンガルに育てる方法
木下 和好 (著)
バイリンガルを育てる―0歳からの英語教育
くろしおΧブックス
湯川 笑子 (著)
なぜ子どもに英語なのか―バイリンガルのすすめ
NHKブックス
唐須 教光 (著)
バイリンガルの子供たち
丸善ライブラリー
唐須 教光 (著)
子ども&英語特集 子どもをバイリンガルに育てよう
http://www.eigotown.com/kids/kids_01.shtml
きれいな発音は9歳までがカギ!
http://allabout.co.jp/children/kidsenglish/closeup/CU20010712A/index.htm
英語脳は創ることができるの?
http://allabout.co.jp/children/kidsenglish/closeup/CU20011121A/index.htm
0歳からでは早すぎる?
http://allabout.co.jp/children/kidsenglish/closeup/CU20010711B/index.htm?FM=lt
「詰込み英語」は言語障害の素?
http://allabout.co.jp/children/kidsenglish/closeup/CU20030827a/index.htm
バイリンガルは幸せ?不幸せ?
http://allabout.co.jp/children/kidsenglish/closeup/CU20030915a/index.htm
Two or More Languages in Early
Childhood: Some General Points and
Practical Recommendations
Annick De Houwer, University of
Antwerp and Science Foundation of
Flanders, Belgium
http://www.cal.org/ericcll/digest/earlychild.html
Raising Bilingual Children
Marsha Rosenberg
http://iteslj.org/Articles/Rosenberg-Bilingual.html
Why Should Your Children Be
Bilingual?
by Bet Key Wong
http://www.chinasprout.com/html/column16.html