地球劇場第11幕 熊野川
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地球劇場第8幕
熊野川沈没隊
其の一 「パラダイス」
毎年の恒例だけども、我々はゴールデンウィークを三重県南部の熊野川で過ごしている。この地域はすばらしい。心と体を完全にリフレッシュできる要素がぎっしり詰まっている。まず第1に、川がすばらしい。カヌーツーリングをするにも、ホワイトウォーターを攻めるにも、河原でバーベキューをするにも、なにをするにも水も空気もきれいだから、すこぶる気分がいい。
第2に、温泉が多い。いたるところお湯だらけ、しかも、味のある温泉が多いのだ。例えば川湯温泉の千人風呂、湯ノ口温泉のトロッコ。安いし、あきることない。
人情温かいのも、第3の要素だ。いつもお世話になる商店のおばちゃんは、僕達を心待ちにしている。ヒッチハイクは必ずヒットする。 こんないいところ、他にない。 2000年のゴールデンウィークもここが舞台である。
其の二 「ばっかーず」
今回は俳優も多い。5月1日夜、三重県を出発した、ぽんちゃん、エセ坊主たくま、その奥さんのますみちゃん、そして私の4人。ハイエースは4時間かけて熊野川の河原につき、焚き火を起こしてまず、プシュッ!。しばらくすると、別当夫妻が現れた。鈴鹿のアウトドア夫婦だ。奥さんのよっちゃんは、とてもかわいい。ただし、圧倒的に強く、よっちゃんの意見が絶対の決定権を持つという、女房関白だ。6人でまたまた飲む。
翌朝、四国から馬場が、広島から杉山が、奈良から横井が、静岡から室田、光帆子がやってきた。
馬場・室田・光帆子の3人は、今回ニューカヌーをたずさえ、気合十分だった。川面では、カヌー相撲をしたり、小さな瀬を見るとそこでサーフィンをしたり、水温が低いにもかかわらずロール五連発をしたり、パワーをもてあましていた。とても頼もしい。
ビールもワンケース買ったし、まずは清流荘の前から三日間のツーリングが始まった。
其の三 「セクシー?」
メンバーの大半は初心者というこのグループ。5月の初めは、やはり肌寒い。そんななか、海パン一丁の奴がいる。ジャージの女の子達がいる。こいつら、沈したらどうすんだろう。
そんな心配をちょっとしていた。
熊野川の清流荘より下流はとてものんびり下れる、景色のいいすばらしいツーリングコースだ。瀬があるといっても、0.3級から0.8級くらい。ビール片手に、カナディアンカヌーでこくりこくりと私はフネを漕いでいた。
目前に、たいした規模ではないが、テトラポットの沈んでいる瀬がある。少し流れが複雑に渦を巻いている。酔っ払って、気分の大きくなっている僕は、何も考えずに突っ込んだ。次々と他のフネも突っ込む。最後に、別当夫人のよっちゃんが突っ込んだ。寒がりのよっちゃんは、ジャージの上下にウインドブレーカー、それにライフジャケットという、いでだちだ。
皆の予想を覆して、よっちゃんは敢え無く沈をした。びっくりして、僕、別当君、馬場がすぐにレスキューに向かう。生まれて初めて沈を経験するよっちゃんはびっくりして騒ぎ、水中でばたばたしていた。ライフジャケットをきているので、ばたばたしつつも浮き上がり、そして落ち着きを取り戻して、浅いところで立ちあがった。
我々はよっちゃんのところへ河原を駆けていた。
「だいじょうぶかあ!!」
叫ぶわしら?えっ?
ふとよっちゃんに目をやると、なんと!!
下半身に何もはいていない!!!!!
駆けよって、カヌーも拾わないといけない。・・・でも、よっちゃんの白い太ももが露になっている。彼女のセクシーな姿が・・・。焦る別当君!照れる僕と馬場!!
もじもじしつつ、横目でよっちゃんを見ると、なんと水着を着用していた。人騒がせな!しかし、それでも、上半身はジャージ、下半身は水着(それも上ジャージのせいでチラッとしか水着を見ることはできない)という姿は、やはり、セクシーだった。
よっちゃんいわく、
「ジャージをはいていると、泳ぎにくいから、水の中で脱いじゃった」
そうか、あのばたばたしていた姿は、水中でズボンを脱ぎ捨てていたんだあ。納得。
しかし、だんなの青白い顔は、そうとう焦っているようだった。
其の四 「ビール、レスキュー!!」
1日目のツーリングを終え、適当な河原を見つけて野営の準備をする。アウトドア度の高いメンバーが多いので、手際よくテント・タープ設営、かまど作り、そして海原たくまによるビール用の冷蔵庫作りと夜の宴に向かって着々と準備は整っていった。海原たくまは、寺の住職さんだが、彼の説法は、、
「人生の中で一番大切なのは遊ぶこと!もっと皆さん、遊びましょう。」
といって、衆中を導いている。言うまでもなく、率先して自分は実行している。いる。酒は大好き。肉も好き。勿論、女好き。
程好く日も落ち、温泉にも入り、ダッチオーブンをつかってロースとビーフも出来た。宴の準備は完全に整った。たくまが河原の冷蔵庫にビールを取りに行く。
「うわああ!!!!!」
たくまの叫び声が山間に響き渡る。
「どうしたどうした?」
横井が駆け寄る。すると、横井の悲鳴が!
なんだなんだ?
・
・・増水である!おそらくは上流のダムの放水であろう。たくま作の冷蔵庫は随分川岸から離れ、
冷やしてあったビールは全て流れていった。たくまは悔やみ、その日はまるでビールを飲めないほど落ち込んでいた。以前、葬式デビュー戦でお経を失敗した時もこれほど落ち込んではいなかった。慰める言葉も見つからない。
翌日、気を取りなおして出発。約一キロほど下り、最初の休憩をしようと河原に上陸する。続々と上陸して来る面々。ところが、待てど待てど海原夫妻がなかなかこない。さすがに心配になってそろそろ探しに行こうかと上流を向けて船を向けたその時、たくまが現れた。
満面の笑顔である
不思議に思い、カヌーの中を覗くと、なんと! ビールが10本入っていた!
彼らは責任を感じ、河原を睨みながら一本一本ビールを探しつつ下ってきたらしい。これぞ、
ダウンレバークラブ!
余談だが、たくまを待っている間、あまりにも暇なのでめいめい好きなことをして時間をつぶしていた。伊藤ハム(株)勤務の横井は、
「最近ゴルフに凝っているんですよー」
とか言いながら、カナディアンカヌー用のパドルを使って、河原でゴルフスイングの素振りをしていた。一振りし、二振り目だった。 ばっぎっ!
異様な音と共に、横井の叫び声が聞こえる。さて、皆の予想通り、パドルは水面を漕ぐ部分が割れていた。今まで幾度の崖突きを繰り返し、ピンチを救ってきたパドルだけども、終わりはあっけなく、熊野川の煙と灰になった。ビール10本¥2,400。パドル一本¥12,000。
高い休憩になったね、横井。
其の五 「出勤!?」
たくまはガス会社に勤務している。三重県ではちょっと大きいガス会社で、365日必ず誰かが日直として事務所にいなければならない。正月もお盆も、勿論ゴールデンウィークも。今回も、しっかり五月五日に日直が当ってしまった。仕方がないので、泣く泣く4日の夜の列車に乗って、鈴鹿に帰るつもりだった。6時過ぎに湯ノ口温泉に浸かり、そこで時刻表を調べてみた。
????終電 5時15分!
何かの間違いだろうと、直接駅に電話をするが、やはり既に終電はなかった。しかしいくらなんでも早過ぎるぞ。
さて、たくまは困っているだろうな、そう思って様子を見てみる。・・・ん?
嬉しそうである
彼は今夜もキャンプが出来ると大喜びをし、奥さんの真須美ちゃんのみ心配顔をしていた。たくまは自慢のカレーを作り、御満悦なキャンプを過ごした。晴天。満天の星空。たくまを除く皆はさすがにちょっと心に引っかかるものがあったが、本人はばか楽しそうだった。
翌朝5時前に叩き起こされ、熊野駅まで夫妻を車で送り、二人は6時20分の始発名古屋行き特急南紀に乗っていった。人騒がせな奴らだ、まったく!・・・
9時25分、携帯が鳴る。
「いやあ、なんとか9時30分のタイムカードに間にあったよ」
彼は、熊野川のキャンプ場から出勤していったのだった。奇跡である。サラリーマンの鏡といってもいい。働くことの大切さ、会社に対する忠誠心がにじみ出ている。しかし、私達は普段からこう決めている。
目標 過遊死
決して、過労死や腹上死では、命を無くさない。
其の六 「オトノリの瀬」
熊野川の上流に、「オトノリの瀬」という3.5級くらいの瀬がある。2メートルくらいの落差が2段、その間に大岩がごろごろしている。岩に当ってのはね返りの波と、落差によって出来る白波は、途切れることなくカヌイストの頭の上から、ザッパーンザッパーンと覆い被さる。熊野川屈指の瀬、それがオトノリの瀬だ。
最終日、我々は一人乗りのカヤックのみ8艇を浮かべ、この瀬に挑戦することにした。私をはじめ、メンバーの誰もが経験したことのない難易度の高い瀬だ。今だから正直に告白できるけど、心臓はバクバク、許されるものならそのままフネを撤収して帰りたいと本気で思っていた。最初から、心に余裕なんてものはなかった。いつもは、出発前にきちんとチェックをすべき持ち物の確認もしなかった。
一応、カヌー経験も一番長いし、唯一レスキュー用のライフジャケットを着ているし、皆は私にそれなりの期待と信用はしているはずである。が実際、この時までは、その期待や信用というものを感じることは出来なかった・・・。
彼ら(特に馬場、室田、光帆子の3人)は、川の暴走族のようだった。カヌー相撲はする。寒いのに、エスキモーロールの特訓は繰り返す。大岩があれば登って飛び込む。酒を飲んでは叫びまくる。時にはフネの上で寝ている。自分たちのやりたい放題のツーリングを繰り返す。私が「行くぞお」と言っても、来ない。「休憩するぞお」と言っても、ひたすら川でロールをしている。「よし、そろそろ飲もうかあ」といっても、すでに一杯やっていやがる!リーダーシップもなにもあったもんじゃない!
ところが、オトノリの瀬。瀬に突入する前から、瀬の轟音が渓谷に響き渡る。誰もが、
「これは相当でかい瀬に違いない。いや、滝かもしれん!」
そう思った。「誰から突入させようか・・・」考える私・・・。
しかし、ふと横を見ると誰もいなかった・・・。
普段、悪行の限りを尽くしている暴走族は、示し合わせたかのように、スーっと後退していった。彼らは目でこう語っていた。
「リーダー、先頭は貴方しかいません。期待しています」
ポンちゃんは、その息の合い方と見事なラインの下げっぷりを見て、後日こう表現していた。
トルシェジャパン並のオフサイドトラップだ!
見事に、私は罠にかかったようである。しかし、後には退けず、突入した。滝、そして波。岩。カヌーは右へ左へ木っ端の様に流される。波の横っ腹に頭から突っ込む。大袈裟に言えば、死ぬかもしれんという、ぎりぎりの恐怖感が背骨を走り、脳みそは飛び出しそうなくらいブルブル震える。目にも鼻にも口にも耳にも水が入り、なんとかひっくり返らずに瀬を突破した。すぐに振り向いて、上流つまり皆のほうを向いて叫んだ。
「くるなー。くるなー。よっちゃんと杉山は来るなー!」
力いっぱい叫んでいるにもかかわらず、順次突っ込んできた。沈をする馬場、室田、別当君。馬場と室田はそのまま流れていった。この二人は大丈夫だろう。さて、別当君に近寄らんと、力強く漕ぐ私。彼は、沈をしながらも、レスキューされる安堵感が表情に出ていた。別当君の横につけ、見下ろしながら、彼に向かって私は叫んだ。
「俺は(奥さんの)よっちゃんを助けるつもりだ。スマン、そのまま流れていってくれ!」
別当君は笑顔を引きつらせながら、大波にもまれて100メートルほど流されていった。引き続いて杉山も沈。同じく杉山の横で、
「よっちゃんを助けるつもりだ。後はポンちゃんに任せた。流れていってくれえ!」
三日前に、なんて事のない0.5級の瀬で沈をした彼女が、この瀬を無事超えられるはずはない。そのよっちゃんも突入してきた。思わず、パドルを握り締め、レスキューの準備にかかる。
ところが、沈しなかった。
下流100メートル先には、別当君と杉山がまだ流されていた・・・。
「くるなーくるなーって、叫んでいたんだよ」と、ポンちゃんにいうと、彼女はキョトンとした顔をして、
「来いー、来いー!って聞こえたよ。」と言うではないか。
次の瀬も大きかった。杉山、別当君、馬場が沈。熊野川の上流部は完全に渓谷になっていて、日が入らない。やはり、五月の水は冷たく、かなり体が冷えてきた。3回沈をした別当君はなんと、海パンである。寒くないわけがない。ただ、こうゆう事態を予め予測していた私は、お昼ご飯にはカップラーメンを準備していた。カップ麺と水、そしてコッフェルとピークワン(ガソリンストーブ)を積みこんできたのだ!日当たりのよさそうな河原に上陸し、いそいそと準備をする。別当君と杉山は、やっと人心地ついたのか、温かいものが食べられる安心感からか、突然元気になってきた。
コッフェルに水を張り、ストーブに火をつけようとした。
「たくま、火!」ヘビースモーカーのたくまはいつもタバコとライターは身につけている。しかし、既に今朝の始発列車にて出勤してしまっている。
「馬場、火!」持っていない。「室田、火!」もっていない。・・・誰も、火を持っていない?!
全員、血の気が引く、と思ったその時、別当君が叫んだ。「そうだ、マッチを持っている!」
さすがはアウトドアおやじである。しかし、
取出したマッチはずぶぬれだった!
再び、全員沈黙してしまう。右を見てみると、室田が五円玉を使って火を起こそうとしていた。ふと左を見ると馬場がメガネのレンズを2枚重ねて、虫眼鏡の状態にして火を起こそうとしていた。私は、木と木をすり合わせて火を起こそうとした。しかし、どれも上手くいかなかった・・・。カップ麺はお預けである。後に残ったのは、水に浸されてぶよぶよになったおにぎりとパン、そしてよく冷えたビールだけだった・・・。けっきょく、お昼ご飯、なし!
その夜の晩御飯は、皆獣のごとくバカ食いしたのはいうまでもない。
熊野川の最後の夜は、オトノリの瀬の話に花を咲かせつつ、満天の星空を満喫しつつ、そして焚き火で冷えた体を温めつつ、それでも、プシュッ!っとビールを飲みながら、更けていった。
もちろん、翌年もここに集合し、新しい舞台を演じることを約束しつつ・・・。
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