宿での部屋割りはいつも固定されていた。
3人部屋を2つ取って男女で分かれる。
当然言えば当然の組み合わせである。
しかし、異議を申し立てる声が上がったのである。
今まで心のうちに秘めていた不満を一人が暴露すれば、連鎖反応のように他のメンバーも不満を口にし始めた。
そして今の事態に至る……。
「お前達に不満があるのはよーくわかった」
呆れながら、騒いでいるメンバーを宥める。
今まで暗黙の了解で成り立っていた部屋割りを変えたいとは、随分今更な話だ。
と、思いつつ希望を聞くことにした。
「一体どういう部屋割りなら納得するんだ?一人一部屋というのは却下だぞ、金がない」
現実的に不可能なことを候補からはずすのを忘れない。
財布を握っているのは私なのだから当然だ。
しかし、そんな杞憂は不要だった。
希望は一致していたのだから。
「クラースさんと二人部屋が良いっ」
一斉に返ってきた答えに頭を抱えてしまった。
「却下…」
「どうしてですか!?贅沢でもない、ささやかな願いじゃないですか!」
「そうですよ!私たちなんていつも同じ部屋になれないんですから」
ああ、ミントまで何を言ってるんだ……。
常識で考えてくれ。
「全員の希望を叶えるのは物理的に不可能だ。私が何人もいるなら解決だがな」
「た、たくさんのクラースさん……」
「いいな、それ」
バカなことに考えを巡らせるな、親父ギャグ使い二人。
「全員のかなえなくったって良いじゃん、ここは早い者勝ちっしょ」
「力で雌雄を決するという手もあります」
物騒なことを言うな。
「どうして私と一緒の部屋が良いんだ?」
まずそこが分からない。
宿ですることと言ったら、晩飯を食い、風呂に入り寝る。それだけじゃないか。
そう言うと、驚愕の表情を作るメンバーがいた。
「旦那!それだけじゃないぞ、二人きりのお泊まりってのはそれだけで心躍るもんだろ!」
「寝食を共にできるって素晴らしいことだと思います」
「それに夜更かしして色々遊べんじゃん!」
「お話だってたくさんできますし!」
「お風呂にだって一緒に入れちゃうんですよ!?」
チェスター、お泊まりって言う物でもないだろう、旅の途中なんだから。
すず、寝食を共にって、それこそいつもしてるだろう?
アーチェ、お前はそんなことしか考えてないのか。
ミント、同室にこだわらなくても、話くらいいつでも聞くぞ?
クレス、すまないがお前とは絶対風呂に入らないからな。悪い予感がする。
それぞれの主張に心の中で反論しながら、解決法を考える。
いまいちよく分からないが、こうして争うくらい私と同室が良いというのだ。
それも五人全員が。
一人のだけかなえても不満が出るだろう。
「よし、わかった」
これが一番良い。
「何か良い案でもありますか?」
「それとも誰か選んだのか?」
「あ、くじ引きとかっていう運任せはなしね!」
「これが嫌だというならいつも通りで行く」
提案は盛大なブーイングと共に却下され、いつも通りの部屋割りで泊まることになった。
結局、無難が一番と言うことだ。
クラースが提案したのは、希望を叶えるのは不可能なので逆にクラースが一人部屋になる、という物だった。
誰の願いも叶えなければ公平になり不平も出ないだろう、ついでに本もゆっくり読める、と言う考えだったのだが、即座に却下。
3人部屋を二つ取ることで、今日は決着がついた。
クラースと二人部屋、という野望はまた次の機会に持ち越されていくのだった。