――――鳥であり、動物であると偽ったコウモリは
そのどちらからも仲間はずれにされてしまいました―――



 パタリ、と音を立てて本が閉じられる。
 その音に反応したように拓が顔を上げた。
「蘭さん、その本、読み終わったんですか?」
「ああ」
 短く答え、また次の本へ手を伸ばしている。
 そんな蘭を横目に、響が何を読んでいたのかと本を手に取る。
 拓は「お茶でも入れてきますね」とキッチンへ向かっていっていた。
「イソップ物語……?」
 不思議そうに本の題名を読み上げた響に答えるでもなく、蘭は新しい本のページをめくる。そちらは前に弥生が読んでいた「よいこの絵本シリーズ怪盗にゃんにゃんぷう」だ。
 一体どんな本を読んでいるんだか、と苦笑いを浮かべながら「イソップ物語」の表紙を開く。
 川の中に映った自分の姿にほえかかって肉を落とした犬の話。
 気まぐれで助けたアリに助けられたライオンの話。
 そして、鳥と動物の争いの中強い方の見方をし続け、どちらからも見限られたコウモリの話。
「………………」
 そこで手を止める響。
「…………まるで俺のようだな」
 響の様子に気付いて顔を上げた蘭が彼の方を見やる。
 そして呟かれたその言葉。
「蘭…………」
「裏切るか、見限られるか。俺の行き着く先はどちらなのだろうな」
 いつもの不敵な笑みを浮かべ、とんでもないことを言う。
 そんな彼をテーブルを越えて抱きしめる。
 蘭は響の突然の行動に驚いた表情を微かに浮かべた。
「ひび、き?」
「そんなこと言うなよ、蘭。
 俺達は仲間だろ?」
 蘭の顔を抱えたまま、ボソリと呟かれた響の言葉。
 それに目を見開く。
「ここで顔を赤くでもしてくれれば可愛げってもんがあるんだけどなぁ」
 先ほどの真剣な声色はどこへやら。
 おちゃらけた様子で響はさらに腕に力を込める。
 まるで消える物を繋ぎ止めるかのように。
 抱きしめられている方は苦しいのは当然なのだが、蘭は響の好きなようにさせている。
 そこへ、
「お茶が入りましたよー、って、先輩??」
 拓がポットとティーカップを持ってキッチンから戻ってきた。
「おや、お疲れ様、拓くん」
「……離せ」
 いつまで経っても離そうとしない響を突き放し、蘭は再び本へ視線を落とす。
「えっと。えっと、えっと」
「拓くん、お茶、貰えるかい?」
「あ、はい。どうぞ」
 お茶を差し出す。
 蘭の前にもそっと差し出す。
 その時、拓は蘭の珍しい表情を見ることができた。
 照れくさそうな、少し頬を紅く染めた姿。
「あーーっ、なーに優雅にお茶飲んでるのよ!!」
 凛と弥生が手にビニール袋を持って帰ってきた。
「買い出しご苦労さん」
「もーっっ、今度は蘭にでも行ってもらうからね」
「ああ」
「五十嵐さん、お茶飲む?」
「貰うわ、ありがとう拓くん」
「私とモモりんにも」
「はい、どうぞ」
「んじゃ、ティータイムにしようか」
 和やかに、午後の時間が過ぎていく。
 その中には、『動物』も『鳥』も『こうもり』も存在しない。
 蘭は響の方にチラリと視線を送る。
 それに気付いて、響は片目をいたずらっぽそうに瞑ってみせた。




こうもりも仲間に加わりたいだけだったんだ
お前は、『こうもり』を仲間に加えてくれるか?響………