戦闘の時、よく怪我をするのは切り込み隊長のクレス。
しかしそれも慣れたのか、よほどの怪我でない限り血まみれになっていてもけろっとしている。長い旅を通しての体力故だろうか。
もっとも怪我をしないのは女性陣。
どんな強い魔法を使えようと、守らなければ、と感じるために戦闘時は一番安全な所へと配置されるのだ。
そこで残ったのはチェスターとクラースであるが…………。
□ □ □ □ □
「ったく、ケガしてんじゃねーよ」
「イデッ!!
もうちょっと丁寧に扱えっ!怪我人なんだぞっっ!!」
顔に一筋の傷を作ったクラースがチェスターの乱暴な手当に抗議する。
消毒液で濡らした布で傷をなぞって血を拭うが、いくらやっても血が止まらないため、良く効くが良く染みるという薬を塗りつけたのだ。
「それも顔なんて……」
チェスターは頭を抱えた。
どうしてこうも自分の思い人は自分のことに無頓着なのか、と。
「後からミントに法術でもかけてもらえば大丈夫だろうに」
こめかみから左頬にかけて、さきほどの戦闘により負傷したクラースはその出血にこそ驚いたものの、その後の反応はあっけらかんとしたものだった。
なによりも彼にショックを与えたのは帽子が傷ついたこと。
つばの広いその帽子はクラースを守りきれなく、無残にもパックリと斬れてしまった。
顔の傷よりもそちらを重要視したクラースはとにもかくにもそれの修繕をミントに頼んだのだ。
出血のわりにたいしたことのない傷だったこともあり、そしてクラースの迫力のせいもあり、ミントは針と糸で修繕に励んでいてくれていてくれてくれている。だからこうしてチェスターがクラースの応急処置をしているのだ。
「あの帽子そんなに大切なものなのか?」
消毒がよっぽど染みたのだろう。まだ痛がっているクラースにチェスターは問う
「あ、ああ。
私の恩人から貰ったものだからな。
それにしてもこれは染みすぎじゃないか?」
「恩人?」
「と、言うより上司かな」
なおも尋ねるチェスターにクラースは答えるが、どうしてそんなに気にするのか、と不思議がっている。
「どんなやつだったんだ?」
「んー?
私よりも先に召喚術を研究していたハーフエルフさ。
変わり者、その言葉が似合う奴でな。
問題児であった私を助手に、誰もが見捨てた魔術を研究するほど、な」
「男?女?」
「……何を期待してるかしらんが、男だ」
「ふーん……」
「いったいなにが聞きたいんだ?おまえは」
不満げなチェスターに問い返すが、チェスターは再び無理矢理話をそらす。
「そいつはもう召喚術の研究やめたのか?」
「……そうだな」
「?」
答えになっていないクラースの反応を不信がるチェスター。それに
「あいつは死んだのさ。実験のためある精霊を呼び出してな」
遠い記憶を悲しげに、しかしふっきれたように答えた。
「あの帽子はかたみなのさ」
続けられた言葉に、チェスターは何も言えなくなってしまった。
よくよく考えてみると、クラースの身につけているものは人からのもらい物が多い。
先ほど話を聞いた彼のトレードマークの帽子に然り。指にジャラジャラはめている指輪だってそうだ。
――――なんだよ
なにか悔しい。
あの帽子。
それを贈ったのはもういない人物。
だから、か、クラースの中で高い地位を占めている。
話を聞かなければこんな感情も起こらなかっただろうに。
……嫉妬。
チェスターはその感情を消すため、行動に出た。
「だんなっ!」
ミントに法術をかけてもらい、傷のふさがったクラースはチェスターの声を聞き止め、そちらを振り返った。その顔は傷があったことが嘘と思えるほどだ。
クラースの様子を確認したチェスターは安堵のため息をつく。
後が残らなくてよかった、と。
しかし、当人は声をかけられたというのに用件を一向に切り出さないチェスターに不審げな眼差しを向ける。
「いったいどうした?」
その問いかけの言葉で我に返ったチェスターは本題を切り出そうとした。が
「あ、あのな」
そこで言葉が途切れる。
なにか言いずらそうに、しかし言いたそうにしている。
いつまでも言いよどむチェスターに痺れをきらしたクラースは「用がないのなら行くぞ」と、言うとやっと言い出した。
「これ、作ったから……」
そう差し出したのは木の細工物。
力強く掘り出されたそれは紐が通され、ネックレス状態になっている。
「ほぅ、うまいもんだな」
まるで子供を誉めるように言うクラースにチェスターは心なしか落胆する。
―――いや、こういう反応が返ってくるだろうとは思ってたけどな。
予想を裏切らないでくれて嬉しいよ。
……嬉しくねぇけどな。
「で、これは?」
「やる、っつーことだよ」
そう呆れ半分に言うと、クラースは驚いたように目を丸くする。
思いもしなかったのだろう。
チェスターは溜息をつく。
どうしてこうも鈍感なのだろう、こういうことに関して。
今さらなことに呆れながらも好ましく感じているチェスターに、クラースは
「ありがとう……」
しかし返す物はないぞ?と笑って冗談めかし礼を告げる。
じつに彼らしい、照れ隠しのような礼の言い方に、チェスターは笑い、軽く、しかし何よりも重要視して欲しい本心を告げる。
「そだな、何も返してくれなくて良いから、大切にしてくれよ」
その帽子よりも、なによりもずっと。
そう心で付け加える。
受け取った当のクラースにそれは伝わっていないだろう。
まぁ、受け取ってもらえただけまだましとしよう。と、前向きに考えることとする。
少しだけ、嫉妬が拭い去られた。
身につける装飾品が増えたクラースは、奇抜であった格好がますますそうなっているのが見れたそうな。