song (ジェイモゼ)
意外なほど、静かに通っていた。
サワサワと通る風に揺れる木の葉のように。
コポコポと流れる川のせせらぎのように。
自然と一体となっているかのような、歌声が聞こえてきたのだ。
その声の持ち主は……
「モーゼスさん?」
意外な人物だった。
彼は海と向かい合うようにして歌っていた。
後ろから突然声を掛けられたモーゼスは歌を止めて振り返る。
「おぅ、ジェー坊!どがぁしたんじゃ、こんなところで!」
静かだった歌とは一転、いつもの騒がしいモーゼスがにこやかに答えた。
そのいつもの姿にほっとする。
「別に…僕が何処に行こうと僕の勝手でしょう」
「まったく、ジェー坊はかぁいくないのぅ」
「僕は男ですから可愛くなくて結構です」
そう言えばグリグリと頭をなでられる。
「こがぁ小そうて何言っとんじゃ」
つまり小さいから『可愛い』となると言いたいのか。
子供に対するような行動に怒りを覚える。
この身長差は屈辱的な物だ。
「身体の大きさなんて何とでもなりますよ。僕はまだ成長期ですから」
「お、奇遇じゃのう、ワイもまだでっかくなる予定じゃ」
「貴方は身体より頭の方を成長させた方が良いんじゃないですか」
「ジェー坊は背ぇ伸ばすんじゃな。はよせんと伸びんくなるからのぅ」
帰ったら牛乳をもう一本飲もう。
モーゼスの言うとおり、成長期には期限があるのだ。
ここまで来たのも身体を鍛えるための運動がてら。その途中で歌声につられてモーゼスに気がついたのだ。
「そう言えば、歌を歌ってましたね」
「おぉ」
「意外でしたよ、貴方があんな静かな歌を歌えるなんて」
「一体ジェー坊の中でワイはどんなイメージなんじゃ」
「野蛮人」
「なんじゃと!」
一言で表された物に文句があるらしい。
すぐに抗議の声が上がるが無視して続ける。
「ですから意外なんですよ、あんな鎮魂歌のような歌を歌えるという事が」
静かな旋律、自然の音を模しているかのような響き。
まるでイメージに合わない。
そう言うと怒りは収まったのか忘れたのか、コロリと表情を変えた。
「おっ、さすがジェー坊気づいたんか。
あん歌はワイらの村での死者たちに向ける歌なんじゃ」
誰への手向けの歌であろうか。
遠い記憶を愛おしそうにしているようである。
海の方を見て、何処か物憂げな表情を浮かべるモーゼスに、理不尽な怒りがこみ上げてくる。その怒りの正体は分からないが、ここにこうしていたくなかった。
「僕はもう行きますよ。
モーゼスさんも、行きましょう」
「お?」
腕を引っ張られてよろけているモーゼスをそのまま連れて行く。
街までの道のりはまだまだ遠い。
「どがぁしたんじゃ?なんか怒っちょるんか?」
戻る事も反論する事も諦めてモーゼスは横を歩いている。
怒り……。
「何に対して怒れと言うんですか」
「そんなん、ワイが知るわけないじゃろ」
「僕だって知りませんよ」
「わけわからんわ、怒っちょるんじゃろ?」
「さぁ……
本当に不可解ですよ」
不愉快に感じているくせに、何に対してそう感じているのか分からない。
その心情を読み取ったのだろう。
何とも言えない表情で肩をすくめたモーゼスは話題を変えた。
「まぁ、ええ。
久しぶりにあの歌歌ったら疲れたわ。帰ったら宴会でもしようかのぅ」
そう言えば、宴会と言って酒盛りをするといつもモーゼスは歌を披露していた。
いつもの彼の通り、明るく賑やかで朗々とした歌。
その歌を思い出すと、聞きたくなってしまった。
「僕も参加して良いですか?」
「おっ、珍しいの、ジェー坊から言うとは。
よっしゃ、今晩はセの字たちも誘って大宴会じゃ!」
ウキウキと駆けだしたモーゼスの後を追う。
風をきって、並んで走るのが異様に心地よかった。
そしてその晩、宣言通りの大宴会(それも町単位の)となり大いに賑わったのだった。
宴会の中披露されたモーゼスの歌は、勇ましく力強く、彼の性格を表しているようであった。
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ブログ掲載SSでした。
モーゼスの過去はいろいろ想像しがいがあって楽しいです。