雨の降る日  (ルクガイ)

 トツトツトツトツ。
 雨音が響く。
 この音は憂鬱感を募らせる音だ。
 ルークはベッドに伏せいる。
 唯一と言っても良い楽しみの剣術修行も天候で左右されてしまう。
「うぜぇ〜……」
 何にもない。自由も楽しみも。
 ため息は自室の空気に溶けていった。
 なんだか自分が世界で一番不幸に思えてくる。
 外に出るぐらい平気だっつーの。
 おめおめと誘拐なんてされねーし。
 勉強なんてだりぃだけだし、外に出ていろんな事をしてみたい。
「〜〜っ。くっそ、なんだって今日は雨なんてふるんだっ!」
 そう天気にあたっていると、ノックが響く。軽く軽快に三回響くのはガイがやってきた証拠だ。
「ガイッ!退屈で死にそうだったぜ!」
「はは、退屈が理由で死んだ前例なんて聞いた事無いから平気だよ」
「うっせーな、死にそうだったんだ。死んじゃいねぇよ」
 軽く返された言葉にブー、と口をとがらせる。
 メイド達は軽口に付き合うなんて事する立場じゃない、と慇懃無礼に対応するが、ガイは別だった。
 それが嬉しい、といったらファブレ家長男失格だろうか。
 でも、嬉しい物は嬉しい。
 先ほどまで燻っていた憂鬱さはどこへやら。
 ニーッと笑みを作る。
「それで、今日は何持ってきてくれたんだ?」
 わくわくとガイが持っている物に目線を映す。
 雨の日はこうしてガイが何かしら持ってきてくれる。
 本だとか本だとか本だとか……。
 本ばっかりなのだ。
 はじめは簡単な物語で、退屈もある程度紛らわせるのだったが、段々専門的な物ばかり持ってくるようになって、目を通す気すら起こらなくなってしまった。
 その事を言うと、ガイは苦笑いしながら今度は違う物を、と約束してくれた。
「おぼっちゃまが本だと嫌だなんて我が儘ばっかり言うから、卓上ゲームを持ってきたよ」
 嬉しいはずの言葉に、ルークは顔を歪ませる。
「うげ、卓上ゲームってチェスとかだろ?
 ああいう小難しいの嫌い」
 記憶をなくす前は得意だったと言うが、所詮昔は昔。
 記憶がないのだからやりようもない。
「そう言うと思ってもっと簡単なのにしたよ。オセロって言うんだ」
 ガイは板を取りだして、簡単に説明をする。
 はじめに白と黒の色を決める。中央に白と黒を四枚置いて、そこから開始。順繰りに一枚ずつ相手の色を挟んで自分の色に変える。などなど。
 チェスのように一つ一つに役割があるわけでもない、単調なゲームだ。
「これ、本当に楽しいのかよ」
 説明を聞きながら半眼になり、すでにやる気をなくしている。
 派手で分かりやすい物の方が好みなのだ。
「単純だから結構はまるぜ。早速やってみるか?」
 ひらひらと石を差し出されるとルークの脳裏に良い考えが浮かぶ。
「じゃ、俺白な。
 ガイ、俺が勝ったら何でも言う事聞けよ!」
 どんな事でも、と言うのが条件だ。
 この時どんな事を考えていたか、妙にだらけた表情がありありと表現しているようだ。
「いつも聞いてると思うけど……ご自由に。
 じゃ、俺が勝ったらちゃんと勉強に励む事、いいな?」
 いつも家庭教師達が泣かされているから、と笑いながらの条件を軽く見る。
 勝つのが目に見えてる勝負ならどんな条件を出されたって良い。
「おう、こんな簡単なのなら楽勝だぜ!」
 カツンと、石を置いた。
 野望は手始めにメイド服。
 自信満々似始めた勝負だったが、数分後その余裕は見事に崩された。
 
 その後数日、まじめに勉強に取り組むルークの様子に、招かれている家庭教師達は感動の涙を流したとか。
 そしてすぐに生徒の態度が不真面目に戻って落胆の涙を流す事にもなった。