たまたま立ち寄った、そんな縁があるともないとも言える、曖昧な建物。
いや縁はある、か。
ナムコ島なんて来にくい場所にあるのだ。たどり着いただけでも縁はあるだろう。そう考えるに至ると視線を社屋に戻す。
くすんだ木の色で覆われた建造物はともかく、鮮やかな赤の門はどうも歓迎されているとは思えない代物だ。
「なんです、これは」
ジェイドの呟きにこの町に住む女性は小さくほくそ笑んで答えてくれた。
「神社、さ」
聞き慣れない名前にルーク達は首をかしげる。
しかしジェイドは納得するように頷く。
「昔あった宗教のものですね」
「流石、死霊使い殿はなんでも知ってるね」
知らないだろうと踏んでいた女性、ノワールはつまらなさそうに溜息を吐く。
「文献で読んだことがあるんですよ。なぜそんな物がここにあるんですか?」
ローレライ教団ができて長い時が過ぎ、ほぼ宗教はそれ以外になくなったと言っても過言ではない。ここの住人達は預言を嫌い、別の物を奉る物を掲げているのだろうか。そんな疑問のこもった視線に気づいたのだろう、ノワールはカラカラと笑い声を立てた。
「面白そうだから作らせただけさ。異様な空間になってるだろ」
何でも詰め込んだ、物置のようなこの街は確かに異様な空間が至るところにある。
「この箱って何だ?」
「賽銭箱て言ってね。小銭を投げ込んで願いをかけるのさ」
「え〜そんなんで叶うの〜?」
「はは、こう言うのは気の持ちようだよ」
訝しげなアニスにガイは笑いかけた。
「願うことで、自分に約束することにもなるだろ。例えば人参が食べられるようになりますように、て願ったら食べられるように努力するだろ」
「…………俺は人参が食べられなくても良い」
例に取り上げられたルークはボソリと呟く。そんな母と子のようなやりとりに笑いが起こるが、アニスは渋面で真っ赤な鳥居を睨み付ける。
「じゃあ、お金持ちになれますように、て願いをかけたらそうなるようにわたしが努力しなくっちゃいけないって事?」
「そうなるな」
「うげー。賽銭の無駄じゃん」
形だけを真似た神社なのだ。効果を期待するだけ無駄だろう。
「ま、気休めですよ」
「そうそう。気休めついでにこんなのはどうだい?」
紙を丸めた物が多く入った箱を取り出す。
「これは?」
「『おみくじ』って言ってね。運勢が書いてあるのさ」
「……預言みたいな物ですか?」
「あんな大それた物じゃないよ。お遊びさ。引いてみるかい?」
「やってみたい!」
一番に食いつくのはお子様のルークだ。珍しい物、面白そうな物には大抵食いついてしまう。それを制するのが保護者代わりの面々なのだが、今日は止める者がいないようだ。ティアはローレライ教団以前の宗教に少なからず興味をいだているし、知りたがりのナタリアは早速どれを引こうかと迷っている。ガイは極力楽しみを奪わないよう後ろから眺めている。
ジェイドは子ども達を長めながら息をついた。
一つずつ引いて一喜一憂している様はいつもの張りつめた雰囲気とはまた違った様子を見せて面白い物だったが、あまり興味が湧かない。
傍観に徹しようか、そう思ってもキラキラと輝くお子様の視線が鬱陶しい。
「ジェイとでは引かないのか?」
残念なことに『末吉』という微妙な結果だったルークがもっと悲惨な結果が出ることに期待を寄せながらジェイドを促す。
ここで断っても仕方がない。どうせお遊びだ。
「はいはい」
何気なく取った紙が示すのは『大吉』だった。
「へぇ!これって良い奴だよな!すげえじゃん!」
「そーですねー」
無邪気に笑うルークに投げやりな返答を返す。
するとそれを覗き込んだガイがある一文を読み上げた。
「大吉でもこんな結果なのか?
『恋愛、辛抱せよ』だって」
その言葉にジェイドがピクリと肩を揺らす。
「それだったら俺のが良いんじゃね?『努力次第』だったし、希望がありそう!」
大吉の紙に綴られた他の物は褒めちぎる内容だというのに、なぜこの項目だけこんな句が並ぶのか。
ルークが大笑いする中、ジェイドの脳内に悶々とそんな不満が立ちこめる。
「辛抱だって。なにをかは知らないけど、我慢しろよ。ジェイド」
ガイもまた笑いながら肩を叩く。小馬鹿にしていた態度だったジェイドが紙の内容を真に受けてショックを受けている様が見慣れない分、それを嬉しそうにしている。
「これは……、意外と侮れない物かもしれませんね」
恋愛感情の一つもくみ取ってくれない想い人をジェイドは睨む。
「俺を睨んだって結果は変わらないからな」
焦って弁解するガイに溜息を吐いて、この運を良くするために紙を木に括り付けたのだった。
「大大吉?」
その後ガイの引いた紙にはそんな文字が躍り、恋愛の項目には『翻弄すべし』と書かれていた。
「これは本当に何の力も作用していないのですか?」
そうジェイドが零したのを聞いたのは誰もいない。
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08年冬コミ時のおまけでした。