全てが真っ黒に塗りつぶされたようだった。
光が消えたことで、この世は色を持たなくなったのだ。姿を消したのだ。
消失したそれを守る事なんて、どうしてできようか?
目の前に迫る神々しい魔物。
その姿はまるで光を纏った天使のようだった。神の意志を代弁し人間に伝える絶対的存在。
しかし、その言葉を享受することはできなかった。
「世界の毒」
そう呼ばれたのは、何よりもこの国の……人々の生きるこの世界のことを考えている男だった。
バカを言うな。彼が大切にするこの世を毒する事なんてどうしてあり得ようか。
この世は、彼を必要としている。
「フレンッ」
唐突すぎる告知天使の言葉に彼は大きく目を見開いていた。
殺意を目の前に感じても、微動だにしないほど。
どうして逃げようとしないのだ。明らかなる敵意を携えた物を目の前に脱力するほど弱い男ではないだろう?
崩れようとする橋を蹴って、彼の元へとただ走る。
あいつが動く気がないというなら、俺が守ってやる。
フレン、お前は夢を持って騎士となり、隊長という職に就き、人々を助けてきたのだろう。今動かなくてどうする。お前が守る国は、お前がいてこそ存在するのだ。お前も国の一部なんだ。お前自身がそこで殺されてしまえば、守ろうとした物が崩れるのだぞ。
視界に映る彼は何かを言っているようだった。驚愕に見開かれた蒼い瞳は、今は真っ直ぐに前を向いていた。その瞳に宿るのは、強い意志。
フレンの言葉を聞いたのか、巨大すぎる天使は殺意を収めてきている。
説得でもしたのか?あの猛る魔物を。
いや、フレンだったら、それくらいの芸当はやってのけるかもしれない。相手は言葉の通じる、稀有な魔物だ。言葉さえ通じるなら、考えだって分かち合える。
羽ばたく風圧がフレンの金に輝く髪を靡かせていた。
砂煙が舞う中、鮮やかすぎる光が目を灼く。
その光へと、手を伸ばしたいのに届かない。
「 」
ふと、フレンが振り返ってこちらに笑顔を向けた。
大きく口を開けて、何かを叫んでいた。
「聞こえねぇよ!」
風の轟音で彼の声が伝わらない。
きっと「もう大丈夫」と笑っているのだ。
いつも一歩先を行く、俺の幼なじみ。
色々なことをやり遂げてきた、俺の親友。
無茶ばかりする、俺の大切な存在。
叫んでも聞こえないと悟ったのだろう、肩を竦めて柔らかい笑顔を作る。
その表情に安堵を覚える。
上手く行ったのだ。殺意を収めた巨大な鳥は立ち去るのだ。この町に平穏が戻るのだ。
そう、考えた。
一歩先に踏み出す。
フレンを迎えに行くために。
未知の生物と対面した彼はきっとまた騎士団で評価されるだろう。
「フレン」
手を出す。
しかし、遠くにいる彼は小さく手を振った。
まるで幼い頃、家路に戻る時の別れの合図のように。
そして―――
一瞬にして、彼はこの世から消えた。
「毒を排除し、この世に安寧を」
告知天使は、血に染まったくちばしから言葉を発した。
「毒よ、その覚悟、潔し」
この世から、光は消えたのだ。
きみを見捨てたこの世界を罰する
おまえがいないならどうしてこの世を守ることができようか。
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