ゼロスの悪戯は今に始まった事じゃない。
雪の降る場所に行けば手招きをして背中に雪を入れる。
森に行けば小さな落とし穴を作って言葉巧みにそこまで導く。
まるで子どものようだ。
それも大抵が僕に限定した悪戯ってところが尚、子どものよう。
憤りを覚えながら、仕返しをしようと悪戯案を練ってみた。
ちょっと前に仕掛けた悪戯を思う。
耳を貸せ、と言って内緒話をするかに見せかけて息を吹きかけた。
その時の反応は一見の価値があった。他の奴に見せる気はないけど。
驚いてとびずさった顔は真っ赤で、耳を押さえながら口をパクパクと開け閉めしていた。
思いっきり笑ったら、手加減なしでインディグネイションをもらったアレだ。
……これは、意趣返しなのだろうか?
ジーニアスは手招きしながらジェスチャーで耳を貸せという。
しかもとびっきりの笑顔で。
これは罠だ。
自分ばかりが仕掛ける悪戯ではない。
ジーニアスからも同等なりの悪戯、もしくは鉄槌を食らっている。
再度言う。
これは罠だ。
あんな良い笑顔を自分に向けるなんて滅多なことではない。
屈託のなさがなおさら怪しい。
と、自分に言い聞かせながらも、結局は笑顔に弱いのだ。
後で後悔することが目に見えているのに悪戯に乗ってしまう。
「はーいはい、ご指名なんでしょ」
「ちょっと秘密の話があるから、耳、貸して?」
ますます良い笑顔。
俺様の笑顔は引きつり笑顔だ。
断ろうにも断れない。
なにか逆に仕掛けてやればいいのだが、こう言うときに限って何も思いつかないときた。
「え、何。みんなの前じゃ言えないようなこと??」
「つべこべ言わないでさっさと耳を貸す!」
「……はい」
なんでこうも弱いかな。自分でも呆れてしまうくらいだ。
しかし腹をくくる。
惚れた弱みだっ、いまさら悪戯の一つや二つどうってことない。息でも何でも吹きかけてみろっ。
しゃがんで低い体勢を作ると、手で囲いを作って耳に当ててきた。
「…………」
おや、不発か?
何もこないことを訝しみながら横目でジーニアスを見る。
これが失敗だった。
「……好きだよ」
息を吹きかけるでもなく、顔を赤くしてたった一言。
なんて最高の悪戯だろう。
突飛で、予想を遥かに上回る。
完全に俺様の負け。
可愛い悪戯をした勝者に、栄光の抱擁を差し上げましょう。
その直後、顔を真っ赤にしながらゼロスの腕から逃げ出そうとする、ジーニアスの姿があった。