屋敷には時のことを思い返せば、自分はとんだ世間知らずであったかを思い知らされる。
 井の中の蛙大海を知らずとはよく言った物だ。
 世界は広くて、そして屋敷にいたころには自分の中にその世界だけしかなく、それが全てだと思っていた。
 たくさんの人がいて、たくさんの事情があって、たくさんの生活があって、たくさんの考え方がある。
 その大きさを知ったというのに、未だ自分の中で変わらないことがあった。


 隣のベッドで、珍しく早く床についた仲間をのぞき込む。
 その顔は疲れで憔悴していながらも、いつもと同じく端正に整っていた。
 金の睫が頬に影を落としている。
 寝顔は幼く見える物で、いつもの頼もしい姿と違い、随分と可愛らしい。
 四歳も年上の男に何を思っているんだか。
 そう思いながら、この目の前の男を愛おしく思う気持ちは、広い世界に出ても変わらなかった。
 一番なのだ。
 あの屋敷の中だけの小さな世界でも、この広がった世界でも。
 たった一人、彼が一番。
 美しさも、愛おしさも、可愛らしさも。
 これが惚れた弱みというのだろうか?
「やっぱり、ガイが一番なんだよ」
 そっと柔らかい髪を梳く。
 そのまま手を下ろして顔に触れても、目を覚ます気配が全くなかった。
 安らかな寝息だけが部屋に響く。
 もっと近づこうとベッドに手を置いて体重を乗せれば、ギシリと重い音を立てた。
 覆い被さるように、息が掛かるほど顔を近づける。
 動悸が収まらない。
 どう伝えればいい?こんなにも、好きで好きでたまらない。
 とにかく想いのまま、上に乗って全体重を掛けて抱きしめた。
「……重い………」
 ここまですればさすがに起きてしまうか。
 目をうっすら開けたガイはまずキョロリとあたりを見回して俺に視線を止めた。
「ルーク?……何、してんだ?」
 寝ぼけ眼のまま、上に乗っている俺を不思議そうに見ている。
 何?
 何だろう…。ガイの寝顔に釣られて抱きしめてたのだから……。
「…………よばい?」
 ある意味真実であることを呟いてみると、ガイは柔らかく微笑んだ。
「眠れないのか?」
 疑問符の付いた単語は無視してまるで子どもに掛けるような言葉に、素直に頷いてみる。
 こうすれば甘やかしてくれる、って知っているから。
 案の定。
 仕方ないな、という言葉と共に布団を被せられた。
 寝かしつけてくれる気なのだ。
 半分夢の中にいるくせに。
 フワフワとした空気がガイから漂ってくる。よっぽど眠いのだろう。
「おやすみ…」
 隣に寝っ転がる俺をトントンとゆっくり叩きながらアイスブルーの瞳は完全に姿を消し、ガイは夢の世界へと旅立っていった。
 再び、部屋の中に規則正しい寝息が響く。
 ベッドは狭く、近くにガイを感じる。
 それがとても嬉しく、少し辛い。
 まだまだ俺はガキなんだ。
 少なくとも、ガイの中では。
 こうして甘やかしてもらえるのが嬉しいのだから当然か。
 でも、
「俺は、この世界の誰よりもガイが好きだ」
 ガイの額にキスをして目を閉じる。
 心臓の音が未だうるさいが、静かに決意した。
 もっともっと成長したら、面と向かって伝えようと。