宿題なんて、いっそこの世から消えてしまえばいいのに。
水をたっぷりとたたえたバケツを両腕にぶら下げてしみじみとロイドは思った。
そうすればもっと遊べるし、修行もできるし、物も作れる。
頭を悩ますことなんて無いし、ましてやこうして立たされることもない。
廊下で思いを巡らせるロイドとは別に、教室内では村の子ども達が机に向かって歴史を勉強していた。
宿題を忘れた罰で立たされているのだ。通算十回の大台にのったためものすごく怒られもして。
だいたい、学校で勉強すんだから、わざわざ家ですることないじゃんか。
勉強するために学校来てんだから、学校でだけ勉強してりゃぁいい話じゃないのかよ……。
ため息が1つ、廊下に響いた。
「馬鹿だね〜、ロイド。10日続けて宿題忘れるなんてさ」
休み時間になってようやく教室内に入ることを許されたロイドに真っ先に話しかけてきたのはジーニアスだ。
周りも随分笑っている。
続いてコレット。
「リフィル先生、怒ってたよ?」
「コレットコレット、それは十分ロイド自身が分かってるから」
憤怒の顔を真っ正面から見たのだ、同然と言える。
「生きた心地がしなかったぜ、まったく」
「忘れて来なきゃ良いだけの話じゃない」
「そう簡単にいくなら俺だって苦労はしねーよ」
「何?何かあるの?」
「……ノートを開くとな、強烈な眠気が俺を襲うんだ」
「なにそれ」
深刻な声色と表情で言った言葉はジーニアスに呆れられてしまった。
ロイドは憮然とし、宿題用のノートを取り出した。
「あ、信じてないな!じゃぁ証拠を見せるぞ。このノートを開いたら、だな……。
ぐぅ……」
いとも簡単に眠りに落ちてしまったロイド。
「ちょっと!寝ないでよっっ」
ジーニアスが慌ててたたき起こす。
寝たふりかとも疑ったが、どうやら本当に寝ていたらしい。
だらしなく垂れた涎を慌ててぬぐい寝ぼけ眼で、どうだ?と親友を見ている。
「…………ちょっと異様だけど、分かったよ」
「だろ?これじゃ宿題なんてできないだろ?」
そんな開き直った言葉に、ジーニアスはさらに頭を抱えた。
「開き直ってどうするの。これからも忘れる気?」
「……どうしような」
このことを正直に話しても蹴りが飛んでくるだけと言うことは火を見るよりも明らかだ。
これからも忘れていけば怒りを買うだけ。
さてどうしよう。
腕を組みロイドが考えていると、ジーニアスがしょうがないな、と笑った。
「放課後、宿題やってから帰ろ。一緒にやってあげるから」
「本当か!?
どうせなら見せてくれる方が……いてっ」
「それじゃロイドのためにならないでしょ。分からなかったら教えてあげるよ」
「おう、サンキューな!」
頼もしい力添えが得られて大きな声で礼を言うロイド。
狭い教室の中、元から会話などただ漏れであったけれど、教室内に響くほどの声の大きさにジーニアスは眉をひそめた。
「いいなー、ロイド。頭良いジーニアスに教えてもらえて」
「ボクも教えて欲しいなー」
と声が上がる。
さすがに大人数を相手に教えるのは困難だ、どジーニアスが苦笑いと共に言おうとした時、
「いいだろーっ、俺の特権!」
と、ロイドがジーニアスを引き寄せ頬をくっつける。
ずるい、とブーイングが飛ぶ中ロイドは得意げな表情をしていた。
俺の親友は凄いんだぜ、と言う自慢と、俺はジーニアスの特別なんだぜ、という自信。
この頬をくっつけている状態の距離のなさがそれを物語っていた。
恥ずかしさで顔を微かに赤らめているジーニアスの拳が降るまで、もう少し。