種族の違いは、深い溝。
迫害がうまれ、格差を生みやすい、要因。
それを身にしみて感じてきたのは、長い期間。
けれど、受け入れられることを知ってしまった。
ハーフエルフと知っても、それを隠してきたことを知っても、僕たちは僕たち、と認めてくれる人がいる、って知ってしまったのだ。
でも……。
「がきんちょ、なーに黄昏れてんだ?あ?」
突然視界が赤くなった。
「ゼロスには関係ないよ」
「なーにそれ、俺様傷ついちゃうー」
ケラケラと本気とはとても思えない口調で話すテセアラの神子。
そのおちゃらけた仮面が嫌いだ。どんなことも、隠そうとしてる。僕が言えた義理じゃないけど、一回明らかにされた感情を今更隠されることはイヤだ。ああ、本当に僕には言えないことだなぁ。
「アホ神子」
「なになになになに、俺様になんか文句でもあるわけ?」
「別に」
「別にもなんもないっしょ。言ってみ?俺様心ひろーいから少しのことなら許しちゃう」
たしかに、ゼロスは心、っていうか懐は広いと思う。ただイヤなことに反発してるからかもしれないけど、本当なら敵対してもおかしくない世界の住人と旅ができるぐらいなんだから。
そう言うところには、ロイドのそれほどじゃないけど好意を持てる。うーん、偉そう。
「リフィル様も心配してっぞ?早くもどろーぜー」
「…………うん」
すぐに返事はしなかったけど、従う返事を返したことにゼロスは驚いたらしい。
「なに、やけに素直じゃないの。風邪でもひいた?」
と、おでこに手を当ててきた。
失礼だよ。
でも、ここは寒かった。マナがまだ大気に満ちている だけれども、今は夜で寒い。野宿ではなく、街の中なんだけど、宿から抜け出してそこら辺にあったベンチに座ってた。なんでそんなことをしたのか、自分でも分からない。ただ、考える場所が欲しかった。それだけだったんだけど、風邪、引いたかもしれない。
「熱は……、ないか??」
「あのさ」
「なんだ?」
一時的に、今だけ。ちょっと弱くなっても良いよね。ホントに、ちょっとだけだから。
僕のおでこに手を当てたままゼロスは僕の顔をのぞき込んだ。
「ゼロスは、ハーフエルフのこと……、どう、思ってる?」
僕の言葉にゼロスは目を見開いて、手を離した。
ロイドは僕たち自身を認めてくれた筆頭だ。
コレットも。
しいなは、自分たちもはみ出し者だから、と笑って受け入れてくれた。
プレセアも、別にハーフエルフと言う考えがないわけではないだろうけど、まだ僕たちは拒絶されていない。リーガルも同じく。種族にこだわった考えがないようだった。それよりも、見るべき大きな物事がある、と知っていた。
でも、ゼロスは……。
シルヴァラントの中、中心に位置している神子である彼は、シルヴァラントの教育をしっかりと受けている。
いわく、ハーフエルフへの侮蔑。己が優位であること。
僕たちがハーフエルフであることは隠していた。だからこそ成り立ってた短い旅だったのかもしれない。いや、「かも」じゃなくて、きっとそう。僕たちがハーフエルフと知った時、驚いた表情の中にはそう言う感情がこもってた。
それなのに、なんにもなかったように接するの?
それなのに、なんで僕に話しかけて、ここにいるの?
突き放されるのは慣れてる。でも、受け入れてもらえることも知れた。そして、僕はゼロスのこと、嫌いじゃない。何とも思ってない奴からなら、どんな風に思われてても良い。でも、ゼロスはもう僕の中で『仲間』になってたんだ。不本意だけど。
「………………」
しばらく続く沈黙。
もうゼロスはあの仮面をかぶっていない。
しっかり、答えてくれようとしてる。
その顔を見て、怖くなった。目線をずらす。
「前に」
ポツリ、とゼロスの言葉。
「ロイドにも言われたよ。似たようなこと。
その時俺は、いったん植え付けられた価値観はそう簡単に変わらない、って思ってそう言った。
あいつはハーフエルフなんて枠取り払って考えられる凄い奴だ。俺は、こういっちゃ何だが、今までの価値観が俺の生きてきた道だから変えられないと思ってる」
いったんそこで言葉が途切れる。
饒舌な彼だけれど、真剣な話を今まであまりしたことがないのに今更ながら気づく。
いつもはおおぼらふきなのに、今は正直に、本当にバカ正直に話してくれてる。
ああ、やっぱり突き放される。放り出されるんだ。
「でもな」
ポンと、頭に手の感触。
「あの時、こうも言った。
ジーニアスは、もちろんリフィル様も、その人自身には変わらなくて、良い奴だ。それだけはしっかり分かってる」
頭の上の手はワシャワシャと髪をかき回した。
「だーかーらー、はっきり言ってまだハーフエルフへの感情は変えられてねぇ。けどお前のことをちゃんと見るぐらいはしてるんだぜぇ〜」
いつもの口調に戻ったゼロスの言葉は、意外にもすんなり心の中に入り込んできた。
「それにしても、俺様ってそんなに信用なかったわけぇ〜?超ショック」
「いつもヘラヘラしてるからだよ。そんな仮面ばっかり見てたら、信用できるものも、できなくなるんだ」
顔を上げられないまま、いつもみたいに、でもずっと思ってて言えなかったことを言ってやった。
手が、一瞬止まった。
「ロイドくんと言い、まぁ、人のことよく見てるわ……」
ポツリと呟いた言葉は、騙せていると思っていたらしいことを裏付けた。
バレバレだよ、と言いたかったけど、言わなかった。
「……帰ろうぜ、やっぱここ寒いからよ」
「…………ん」
涙を流しているのを、ゼロスは見てしまっただろうか。
宿までの、短くて長い距離を黙ったまま、手を繋いで帰った。
ゼロスは、僕たちをハーフエルフっていう枠じゃなくて、僕たちで見てくれた。
それが、凄く嬉しかった。
種族の違いは境界線。
受け入れられる者を分けていく。
でも、それは本当はないのかも、しれない。
透明で、確かにあるけれど、壊すこともできる、ガラスの境界線。