カチカチカチカチ
 時が流れる。
 常にものは変化し、人も変化する。
 けして同じ姿でとどまることはない。
 まるで流れる河の泡沫のように。

  

  

「なのになんでこんな奴らは進化しないんだ……」
 チェイニーは嘆息をもらす。
 酒臭い部屋は顔を赤くした戦場の猛者達で埋め尽くされていた。
 半分以上が潰れて、酒瓶がこれでもかと言うほどに陳列している。
 女性陣はそれぞれあてがわれた部屋に帰っており、酒が苦手だとか言う奴らもなんだかんだ言い訳しながら一緒に戻っていた。
「ちゃっかりしてやがる」
 そして俺は要領悪く逃げられなかった、と。
 チェイニーは再び溜息をついた。
 酒は嫌いではない。けど、こんな状況はごめんだった。周りは酔いが回りすぎた奴ばっか。もう何やってるかそれぞれ分かってないだろう。いつの時代も酔っぱらいがやっかいなのは変わらない。
「なんかやれーっ!」
「じゃぁ、火の玉お手玉〜〜」
「ブーッ、それ前見たぞーっっ」
「では、弓の名手である我々がウィリアムテルごっこを!」
「ここにリンゴを乗せたジュリアンがござーい」
「え、なになに?」
「はいはい、両手にも持ってね」
「それを打つっっ!」
「うぎゃぁぁぁっっ」
「失敗しました、兄さん!」
 性格は変わるは悪のりするは、果てには怪我人まで出した。
 何故これに懲りないか。
 薄紅色をした、こんな席で飲むには惜しいぐらいの酒を仰ぐ。
「えーせーへー、えーせーへーっ!」
 衛生兵のことか?だがしかし、杖を使える司祭は部屋に戻ったか潰れてるか。っていうより酔っぱらった状態じゃ回復要素があるかも分からない。
 ああ、ジュリアンが血だらけで笑ってる……。走馬燈でも見ているのか?っていうか早く傷薬やれよ。
「チェイニーチェイニー」
「んあ?」
「回復回復」
「なに」
「変身して杖使って」
「ああ」
 まぁ、いいだろう。えーっと、誰にしようか。やっぱりジュリアンが怪我してんなら……。
 いたずらを思いついたようにチェイニーがニヤリと笑った。
 その笑みを見た者は多かったが、なにぶん酔っぱらいの集団。おもしろいことが起こればいい。
 ポンッと音と煙を立ててチェイニーの姿がかき消える。
 そしてそこには……。
「大丈夫ですか?」
「レ、レナさん」
 麗しのシスター、レナがそこにいた。
 心配そうな表情が、その美貌に哀愁を漂わせてよりいっそう美しく見せている。
「今、回復しますね(俺の演技サイコー)」
 暖かい光が膝枕をされた状態のジュリアンを包む。
 杖はそこいらに落ちてるのを使った。リカバーだったけれど、まぁいいだろう。かなりの大ダメージだったから。
 光が引いたところで傷全てが完治していた。その間、ジュリアンはぼーっとこちらを眺めている。
「これで大丈夫です」
 とりあえず演技を終わらせようとチェイニーはジュリアンに向かってニッコリと微笑む。その後演技する気もなく、レナの顔のまま素でこれでいいか、と回復役を回してきたマルスを見やる。全然酔った様子を見せない君主は人差し指と親指で丸を作ってくれた。
「レ……」
「あ?」
「レナさーんっっ」
 ようやく声を上げたジュリアンの方を振り返ろうとすると、顔を手で挟まれ勢いよく方向転換させられた。
 そしてキス。
 しばし沈黙……。
 無礼講の酒の席では、無礼講と言いながらも根底に礼儀がきちんと流れている。
 それを無視した者に対しては鉄槌が下される。
「お前なんてことしてやがるっっ」
「お前なんぞに可愛い妹はやれんわっっ」
「お、俺レナさんのこときっと、いや絶対大切にするからっ」
 呆然としているチェイニー(姿はレナ)をガバリと抱き寄せてジュリアンはいつにないほど積極的にプロポーズをしている。周りの言葉が耳に入らないのも、運良く手槍をよけているのも、積極性もすべて彼の飲んだ酒の威力だろう。
 絶対こいつら俺だって事忘れてる……。
 チェイニーは抱きしめられたままで、変身さえ解ければこの状況も一転するだろう、と呑気に構えていた。どちらかというと、その後の反応が楽しみでわくわくしながら、と言うのも正しいかも知れない。
「はぁ」
 溜息をついて動き出した人物がいた。
「ジュリアン、いいかげんにしないと秘密をばらすよ?」
「マ、マルスさん……」
 一体どんな秘密なのだか。しかしジュリアンは脅されながらも最愛の人(レナ)を離せない、とばかりに腕に力を込めた。
「それに、レナはもう寝てるはずじゃなかった?」
「え?」
「彼はチェイニーだよ」
 全員そのことを忘れていたかのような沈黙が広がる。まぁ、数人は何を今更、と言った反応ではあるが。
「……レナさん?」
 ジュリアンが腕の中の人物をおそるおそる振り返ると、レナ自身がするとはとうてい思えないような表情をした後、ポンッという音と煙と共に違う面影が現れた。
 赤い髪は一緒、美麗と称せる美貌を持っていることも同じなのだが、種類が違う。ついでに性別も違う。
「チェイニー!?」
 顔を見た途端チェイニーを突き放す。その思った通りの過剰な反応にチェイニーはしてやったりというような表情をまた浮かべている。バランスを崩していながらもそんな顔ができるのだから余裕はあったのだろう。マルスはそれを感じ取りながらも、彼を受け止める。
「あっはははは、思った通りの反応ありがとさん!」
 ごめんよレナさん、と後悔に打ちしがれているジュリアンを見ながらチェイニーは大いに笑っていた。
 他人の不幸は蜜の味、とは良く言ったもんだ。
 その豪快さに、酔っぱらいたちもつられて笑いはじめた。
 和やかな雰囲気がようやく訪れたようだった。
 そして打ち破られるのもすぐだった。
 マルスもまた宴の場に沈黙をおろした。
 腕の中にいたチェイニーへキスを送ったのだ。
 送ったと言うより押しつけた、が正しいだろう。
 ジュリアンのはおとなしく受け取ったくせに、マルスのものへは思いっきり拒絶を示した。
 暴れに暴れているのだけれど、無理のある体勢のまま押しつけられているため逃げられない。長い長い攻防戦の末に、チェイニーが暴れるのとは別の反応を示す。僅かに喘ぎ声ともとれる声を発した時、マルスが突然チェイニーから離れた。
「噛むことないだろう?」
「うるへー、俺の貞操奪われてたまるかっ」
 顔を真っ赤にするという今まで見られなかった反応、そして先程の艶めいた反応を見せたチェイニーは口をこすりながらマルスから遠ざかり、
「俺はもう寝るっ」
 と迅速な行動力でもって宴会場から去っていった。
 それを見送ったのは先程のキスシーンに魅入っていた者達。
 いつもはいたずらともとれないような悪ふざけばかりする彼の艶めいた、色っぽい姿を目に焼き付けてしまったのだ。
 それはどう反応すればいいのか。
 生真面目な者達は悩んでいて、そう言う物があると言うことを知っている者でも、まるでそんな気を持っていなさそうであった自分たちのリーダーが関わっていることについて行けないようだったが、
 酔いが覚めてしまいそうだ。
 せっかくの宴が、と嘆く余裕が出てきている。
「僕も、もう失礼させてもらうよ」
 マルスの呟きに、原因が去ろうとしてくれているからまた飲み直すか、と画策しはじめたのも無理はない。
「チェイニーは僕が落とすから、みんな手は出さないでね」
 というセリフがなければまだ酔いも少しは残っただろうに。
 少々上機嫌なマルスが去っていった後、シーダ崇拝者達が
「シーダ様はどうする気なんだぁっっ」
 とやけ酒に走っていたとか。

 

 

 いつの世も酒の席は変わらない。
 何でどんなに時が経っても毎回こんな目にあわなきゃいけないんだ。
 成長と言うものをしないのだろうか、こいつら(人間)は。
 チェイニーが怒り半分呆れ半分の感情を持ちながらズンズンと廊下を歩んでいた数分後、マルスが同じ道を通って同じ部屋に入っていく。
 怒鳴り声が響くのも、後少し。