死肉に群れる生ける者達。
 愚かなようでそれは自然摂理に敵っている。
 死んだ者は生きる者達へ何かしら残して逝き、生きる者、生まれ出でる新しい命はその礎の元、人生を歩む。
 反対に俺たちは、俺は、その基本的な物から外れてしまっているのかもしれない。

  

  

「チェイニー!」
「んあ?」
 寝っ転がっていたマルスに声を掛けたのはマルスだった。
「本人が来たんじゃばれるか……」
「びっくりしたよ、突然マリクに休んだんじゃなかったのか、なんて叫ばれちゃってね」
「チェイニー、マルス様に変身するのは百歩譲って許すけど、休憩時間を取るなよ」
 別に取ろうと思って取った訳じゃない。下っ端兵士が俺をマルスだと疑わなかっただけのことさ。お言葉に甘えて休憩してたのは俺だけど。
「へいへい」
 マリクの声を軽くあしらって、変身を解く。
 あー、肩こった。
「いつ見ても見事だねぇ」
「そらどーも」
 こった肩を解きほぐすために右肩を回しているところでマルスが拍手を送ってくれる。相変わらずマイペースな奴だ。
「見事は見事だけど、混乱させるようなことはやめてくれよ」
「わぁーってる。
 私チェイニーはもう二度と不必要に変身したりしません、誓います。
 これでいいか?」
「誠意がこもってない!」
「こもってるって、疑り深いな」
 今度この堅物の所にリンダにでも変身して忍び込んでやろうか。
 ……この辺が信用されない原因か?
 悶々と、と言うには軽く考えてしまったところに、
「う、ご、ごめん」
 マリクがすまなそうに謝った。そんな素直に謝られるとこっちが困るんだが。マリクの言葉にこちらが少々戸惑いながらも、あくまで少々。少しである。
「ま、いいけどな」
「でも、ホントに混乱する人もいるから、遊ばないでほしい」
「りょーかい」
 俺ってそんなに遊び人?
 確かに宴会芸には困らないけど、そこまで多用してたっけかなぁ?
 ちょっと自覚はあるかもしれない。
「それにしても、変身できるのは便利だね。どんな修行をすればできるようになるんだい?」
 修行……。えー、どう答えりゃいいかな。なんだ、マリクも気になんのか?マルスと同じぐらい期待のこもった目で見られてる気がする。適当に答えるか……。
「俺の種族の特殊能力。捨てるもん捨てたから身に付いた」
 何言ってんだろ、俺。核心すれすれな事なんて言うべきじゃないだろうに。
 ちょっと後悔。
 でもま、たいしたことじゃない。これだけ聞いたら訳分からないだろうし。
「と、いうわけで、おまえらに愛しの君に変身する能力は身に付かないって訳だ」
 ニヤリ、と笑って忠告してやる。
 どんな曖昧な説明でも、これだけは真実だから今回ばかりは嘘つきではない。
 マリクは顔を赤くして「愛しの君に変身だなんて、そんなことしないよっっ」と間髪入れずに反論してきた。おお、コイツをからかうのはおもしれぇな。真面目なだけに、ってかんじ。それに引き替え、マルスのやろうはつまらない。「そうか、それは残念」とにこにこ笑ってぬかしやがる。まったくもっておもしろくない。
「なんだ、その反応。おもしろくないな」
 ため息と一緒に正直な感想をマルスにむかって言うと、「そう?」と首をかしげた。まだ微笑みを浮かべながら。いったい何なんだ、こいつは。行動もマイペースなら感情の起伏までマイペースだ。掴みにくいったらありゃしねぇ。
「でも、『愛しの君』に変身するのが目的なの?チェイニー」
 そう返してくるかい。
「べつにー?仮にそうだったら俺の『愛しの君』って何人もいることになるな」
 自分で言ったことに対して笑ってしまった。それはそれでおもしろい。結構俺っておもしろければ何でもあり、って性質だよなぁ。今更だけど。
「そうかぁ」
「そうそう」
 どう理解したのか知らないけど適当に相槌を打っておこう。面倒なことも、嫌いだよな、俺。
「じゃぁ、一番変身してる相手に対する『愛しさ』って最上級?」
「そうそう」
 ん?なんかおかしい理論じゃないか、それ?
「今のところ一番変身した数が多いのって誰?」
「あー?数えたこたぁないが、おまえじゃないか?」
 なんて言ったって一番遊びがいがある。
「そうかぁ」
 よくよく会話を振り返れば、なーんか、地雷踏んだ気がする。
「じゃぁ、僕が一番なのかな」
 マリクはさすが幼なじみと言うべきか、マルスのこの突飛のない発想に慣れているようだ。
 ニッコリとした最上と言って差し支えのない笑顔。俺にそれを向けるのはとっっっても間違ってる。シーダはどうした。変な道に走るんじゃねぇぞ、お前は。変なとこまで先祖に似なくて良い。
「僕、好きな人は必ず手に入れるつもりだから」
 すっごい、やな予感。
「じゃ、そういうことで。僕まだこれから仕事があるから」
 ああ、お前も脇道にそれる気か、マルス。
 俺は知らん。何の責任も持たないぞ。
 恋ってやつのパワーは偉大だ。大昔の経験でそれは知ってる。俺も、一時暴走してた口だ。けど、もうそんなパワーはない。腫れた惚れただの、ただの面倒事だ。
 長い時間を生きたからかもしれない。
 短い時を、刹那に生きたい。
 次生まれてくる時はきっと、こんな面倒事に巻き込まれてたまるか。
 いや、絶対ごめんだ。
 ああ、シーダの視線が痛い……。

  

  

 死肉に群れる生ける者達。
 愚かなようなそれは自然摂理に乗っ取り、伝えるべき事を後生へと伝えていく。
 俺は、その基本的な物から外れてしまっている。
 長い時間を行き過ぎた俺は、その果てに何を後世に残して逝くのだろう。
 願うことなら、この死肉よ、次に生きる者の礎となれ。