ふと耳にしたことがきっかけだった。
なに、好みが「黙って後をついてくる女」?
ふーん。
あ、そう。
別になんて言うことないんだけど。
ただ。
彼女であるあたしに、どうしろってのさ?
「…………」
「………………」
モーゼスは非常に困惑していた。
いつものことである、といえばそうなのだが、ノーマが不審な行動を取っているのだ。
ただひたすらにしずしずと後を歩いている。
一体何を考えているのかまったく見当がつかない。
遺跡調査に引っ張って行かれるのか、それとも金稼ぎに付き合わされるのか。
それとも無茶な頼みの前兆だろうか。
頼みづらいから訴えるように後ろを歩いているのか?
そんな間柄でもないだろうに。
モーゼスはとうとう後ろを振り向いてノーマの行動を問う。
「いったい何なんじゃ!さっきから何も言わんと後ろなんて歩きよって!」
文句を言う、に近いようだ。
「別に」
しかし返ってくるのは冷めた反応。
モーゼスはそんなノーマの態度に口をへの字に曲げる。
気持ちを隠そうとする気がないため不機嫌さが表情にありありと表れている。
「なんじゃ、なんか文句があんなら聞いちゃる」
「いいえ〜。文句だなんて」
「あるんじゃろ!」
肩をすくめながら軽く答えるノーマを指さしてモーゼスは叫んだ。
「文句があるのはモーすけの方なんじゃないの?」
ずっと無表情だったノーマはキッとにらみ返す。
「あたし、聞いたんだからね」
「な、何をじゃ」
「モーすけの好み」
詳しく説明をするつもりはない、自分で悟れ、といわんばかりにモーゼスを睨み上げている。
そんな様子にモーゼスは首をかしげる。
どうやら本気で分からないようで、沈黙が続いた。
しばらく考えても結局何も思い当たらないらしい。モーゼスは降参と声を上げた。
「わからん。それがどうして文句になるんじゃ?」
そう言われると理由を言うのは躊躇われた。
ノーマは自覚していたのだ。
モーゼスの好みを聞いて自分の気分が沈んでいく、その理由を。
「……本当に分からないの?」
どうせなら察して欲しい。ノーマ自身が言うということのは、とてもいやなのだ。
しかしそんな思いもむなしく、
「わからん」
と簡潔な答えが返ってくる。
「ちょっとは考えなさいよっ!」
「考えてたじゃろ、今!それでもわからんのだからしかたなかろう!」
「この、バカ山賊!」
一喝してノーマは自問自答してみた。
ここで本当のことを言って恥ずかしい思いをするのと、うやむやにして恥をかかずにすむのとどっちが良いだろう。
ノーマは前者を選んだ。
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、よ!
「あんた、好みは『男の後を黙ってついてくる女』なんだって?」
「そんなことも言ったかのぅ」
「言ったの!聞いたんだから!!」
「そんで?」
「それで……。ほら、あ、あたしってばモーすけ引っ張り回したり、してるじゃない?」
「そうじゃのぅ、おかげで生傷が絶えんわ」
「悪かったわね。
で、それで……。
あたし、いちおあんたの、こ、こいびとじゃない」
「ほぅじゃのう」
照れながら、途切れながら言われたことにも平然と頷くモーゼスを少し憎らしく思った。
ノーマは照れを吹っ飛ばして、
「なのに、あたしと全然違うタイプが好みって、どういうこと!?」
怒鳴る。
つまりこれが言いたかったのだ。
浮気でも何でもない。しかし、ただ好みのタイプが自分と違うことが、ノーマにとって無性に腹の立つことだったのだ。
「なんじゃ、妬いとるんか?」
「そうよっ!
ああー、もぅ!こっぱずかしぃ〜〜」
地団駄を踏んでしゃがみ込んでしまったノーマを、モーゼスもまたしゃがんでのぞき込む。
「うれしいのぅ」
「は?なにがよ」
笑顔のモーゼスをキッと再び睨み直す。
「そうやって妬いてくれる、っちゅーことはワイのことを好いちょる証拠じゃろ」
ノーマの頭をポンポン叩きながら恥ずかしい台詞を平然と吐くモーゼスに脱力した。
「そう言うってコトは、モーすけもあたしに惚れてるってことよね」
「そういっちょるじゃろ」
当然のようにモーゼスから返ってくるのは肯定の返事。
「なんでそうあんたは平然とそういうこと言うの!」
「はっきりいわんでどうする」
「ち、ちょっとは恥って物を覚えなさいよね!」
「恥ずかしいことでもないじゃろ?」
「あんたが直球の恋愛をするのは勝手だけど、あたしは恥ずかしいの!」
「ほぉか?」
「そうなの!
まったく、こんなにあたしに惚れ込んでるくせに、なんで好みのタイプは別物なのよ……」
「それはワイにも謎じゃ。ワレ、なんぞワイに呪いでも掛けたか?」
「そんな物掛けるわけないでしょ、このバカ山賊!」
盛大な愛の言葉を聞いてノーマの顔はもはや茹で蛸状態。
こうして、今日もまたいつものように夫婦漫才が始まっていくのだった。