「ほんっと、旦那ってジャンケンに弱いよな」
「今日はたまたま運が低かっただけさ」
 チェスターとクラース。2人で並んで調理中。
 チェスターは野菜を洗い、クラースは魚を取り出し、切っている。
「いつから料理当番はジャンケン制になったんだ?」
 今日限り、ではないだろう。
 乾いた笑いを発しながら、チェスターは心の中でそう答えながら、この状況に感謝した。
 何せ二人きり。
 料理をしなければいけない事を分かっていながらも、この状況を作り出したことに感謝した。

  

  

「なぁんで歩かなくっちゃいけないのさー」
「レアバードが動かなくなってしまったのだからしょうがないだろう?」
 アーチェの不満に静かに答えるのはさして疲れた様子を見せないクラース。
「それとも、なにか?アーチェが1人でホウキにのって詳細を聞いてくるか?」
「だーめだめ。このバカに覚えられるわけないだろ?」
「なによ。行ってきてやろうじゃないのさ。ウインドパック貸してよ、行って来てあげるからっ」
 ムキになったアーチェに不安を覚えながらウインドパックを預ける。
 ちょちょいと行って来てあげるから、とホウキにまたがるアーチェ。それを止めたのはすずだった。
「アーチェさん、私も行きます」
 彼女もアーチェ1人に任せるのは心配なのだろう。歩くトラブルメーカーなのだから。
「うん、すずちゃん1人なら大丈夫♪しっかりつかまっててね」
 そう言ってすずをホウキにのせ、フワリと舞い上がっていった。
「たのーんだぞー」
「しっかりなー、へますんじゃねーぞー」
 飛び去っていった2人を見送り、残された四人はため息を吐いた。
「……やっとどうにかできそうだな」
 レアバードの原因不明の故障。
 そのため歩いての移動。
 それは思ったより時間がかかって、野宿の日々が続いていた。
 6人は疲れ果てている。
「これで久しぶりに布団で寝る事ができそうだな」
 嬉しそうに呟くクラースの言葉に全員が頷く。
 アーチェが完全に見えなくなったところで思い出したように、
「あ、食事の用意、お願いしますね、クラースさん」
 とクレスがサラリと食事の用意をお願いする。
「えっ!?
 なぜだ?
 たしかクレス達も料理の腕を上げただろ?」
 前にミントと付きっきりで全員に料理をレクチャーした記憶のあるクラースは即座に問い返す。
 前までの料理当番だったクラースとミントが料理の腕が良いのはメンバー全てが認めている。
 だが、料理にはその人でなければ出せない味、と言う物があるのも事実である。
 長い間彼の味に親しんだメンバーはできることならその味を楽しみたい。
 だからといっていつも作る羽目になるクラースはたまった物じゃない。
「よし、ジャンケンで決めるか」
 双方の意見を分かっているチェスターの提案。
 それによってジャンケンが始まった。
「ジャンケンッ……」

  

  

「一発負けはないだろう?旦那」
 チェスターの呆れたとおり、クラースは一発負けであった。
 そのあと、三回勝負だよなっ、というクラースの主張によってその後数回ジャンケン勝負をしたものの、結局負けたのはクラースであった。
 クレスとミントはこの辺を探索している。
 チェスターはクラースによって引き留められ手伝う羽目になっている。
 どこからともなく出されたまな板と包丁でクラースは魚をさばいている。
「はぁー、あいっかわらず見事な手つきだよなぁ」
 野菜を近くの川で洗って戻ってきたチェスターは感嘆の意を称す。
 実は誉め言葉に弱いクラースは少し照れながら、野菜を切るように、と指示する。
 その指示通り野菜を切り始めると同時にクラースはクレスが集めておいてくれた木々に火をつけ、鍋を火にかけて調味料を放り込んでいる。
 一見おおざっぱなようだが、それは何回も料理をしてきた感覚によるものだ。
「イテッ」
 ボーッとクラースの手つきに見とれていたチェスターから声が上がった。
 包丁で指を切ったのだ。
 野菜が血まみれ、と言う自体にはならなかったのだが、指に一本の筋ができ、血がゆっくりと滲みだしている。
「あちゃー」
 ドジ踏んだ、とそれを眺めているとクラースが寄ってきた。
「なにやっているんだ?
 ……切ったのか」
「これぐらいどうってこと……」
 ヒラヒラとその手を振った。
 そんなチェスターの手を取り、口へと運んだ。
「なっ……なっ…………っっ」
「ま、舐めておけば治るだろう。ホラ、さっさと切っておけ」
 何事もなかったかのように去っていくクラースにチェスターは絶句し、顔を真っ赤にしていた。
 ――――――血があったんすけどっ!?
 ――――――それベロって……、なめんな、ってイヤ、舐めても良いけど不意打ちはやめれーっっ
 そして大混乱中。
 その混乱を起こした張本人は平然と料理を続けていた。