クラースは料理上手である。
 それはメンバー全員が知っている事実。
 今日はなぜかミントとアーチェとすずに請われてケーキ作りの講義中。
「チョコレートケーキ……、ねぇ」
 それぞれに焼き上がったケーキを見て今さらながらにクラースはため息をつく。
 甘い匂いが借りた厨房に漂っている。
 各人に丁寧に教え、三人とも作りたいものを作り上げた。
 ミントは普通のチョコレートケーキ。アーチェは少々しぼんでしまってはいるが食べられそうだ。すずは甘党なだけあって通常より甘い物。クラースはついでに、と自分の好みに合わせたほろ苦く、小さい物。
「クラースさん、ありがとうございました」
 ミントは嬉しそうに頭を下げた。
 彼女の料理はとても美味いのだが、ケーキなど、菓子類あまり作らなかったそうだ。理由は間食をあまりしなかったから。
 すずは甘い物なら得意なのだが、チョコレートケーキは作ったことがないらしかった。
 アーチェは……言うまでもない。
 ともあれ無事に見事なケーキを作り上げた彼女らは礼を言って賑やかに厨房を後にした。
 残されたクラースは自分の作ったケーキを眺める。
 厨房の片づけも終わっている。
 することもなくなったので、しょうがない食べるか、そう覚悟したクラースはコーヒーを入れ、部屋へと戻った。
 なぜ突然ケーキを作りたいと言い出したのか不思議に思いながら。



「お、旦那、なに食ってるんだ?」
 どこかに出かけていたらしいチェスターが突然現れたのは、もうケーキの最後の一口がフォークに刺さった状態だった。
「買い出しに行っていたんじゃないのか?」
「いってきたぜ。ほら」
 袋にいっぱいに入った物を持ち上げて示す。
 ずいぶんと重そうだ。
「クレスはどうした?」
「ミントと出かけた」
 ケーキはどうしたのだろう?謎に思いながら、そうか、と答える。
「んで、なに食ってんの?」
「ケーキだが?」
 見れば分かるだろう、と言いかけて、このカケラじゃ分からないか、と黙った。
 チェスターはフォークの先の物をまじまじと見て、
「ケーキ、ってチョコレートケーキじゃねーか。
 ……誰かにもらったのか?」
「自分で作ったんだ」
「………………旦那、そんなに寂しいのか…………」
「一体何の話だ」
 なぜ自分で作ったケーキを食べることが寂しいんだ、と思いもしたが、よくよく考えれば寂しくもある。そうだな、誰かにあげれば良かったんだ。
 そうブツブツと呟いていると、「まぁいいさ」と自己完結をきし、話を逸らした。
「俺にその一口、くんねぇ?」
 近づき、フォークを指さし催促し始めた。
 別にクラースはケーキは惜しくない。
 どちらかというともう飽きてきているので一口でももらってくれるのなら歓迎だ。が、「寂しいのか」と言う言葉や無理矢理誤魔化されているのだ。気分は悪い。
 チェスターの前にフォークを差し出して……、パクッと自分の口の放り込むという意地の悪いことをやってのけた。
 それを目の前で行われたチェスターはムッとした表情になった。
 クラースは勝った、と言うように目で笑って見せた。が……
 肩を掴まれる。
「(?)」
「子供っぽいことしてんじゃねーよ」
 チェスターの呆れた声の後、口づけが降ってきた。
「んっ……」
 触れるだけの物ではなく、濃厚な物。
 クラースは驚いて目を見開いたが、息苦しさのため、眉を寄せ閉じる。
 しばらくして、解放された時、口の中からケーキが消えていた。
「にが……」
「ば……っ馬鹿者っ!!な、なんで……」
 上気した顔で叫ぶ。
「旦那、今日ってなんの日か知ってる?」
「知らん!!」
「パレンタインデーだぜ?」
 そう聞いて、クラースはますます不機嫌そうに眉をつり上げる。
「それが何だって言うんだ!!」
「バレンタインってのは好きな相手にチョコレートをあげる日なんだぜ」
 もっとも、俺は奪い取ったの方が正しいけどな、と笑った。
 それを聞いて納得してしまったクラースは顔どころか首まで真っ赤にする。
「なぁ」
「……なんだ?」
「口直し、良いか?」
「…………勝手にしろ」
 その実にクラースらしい許可の言葉にチェスターは笑って、再びキスをするのだった。