夜も更け、明かりは細い月と多くの星と、わずかに燻るたき火だけ。
 露出した肌に冷たい空気が刺さる。
 すっかり秋の気候地域である。
 空気は澄み、星がよく見える。
 そして、薄い布一枚を布団代わりに野宿をしている身としてはとても寒い。
「ぶえっくしっ」
 自分のくしゃみで目が覚めるという起き方をしたクラースは、状況を飲み込めず辺りを見回した。
 布をかぶった人物が、一人、二人、三人。……一人足りない?
 あれ?
 一人、長い金髪が布からでている。丸くなって寒さをしのぎながら安らかな寝息をたてているのはミント。
 二人、座った態勢のまま木に背中を預けて剣を片手に疲れた顔をして寝ているクレス。
 三人、寝始めたところから場所がずれ、布すらはねのけて大の字になって寝ているのはアーチェ。
 足りないのは……、
「チェスターか」
 半分寝ぼけている状態で、彼の姿を捜してみるが、近くにはいないようだ。
「?」
 ではどこへ?
  パキッ
 半分以上が炭になった木が折れた音が響く。
 静かな夜だ。
 火の燻る音と、虫の鳴く声。そして、矢が何かに刺さる音。
 クラースはその音を聞いて、アーチェに布団をかけ直しながらチェスターのいる場所に見当が付き、納得した。
 また一人で修練に励んでいるのだろう。
 このパーティーに加わった時期が遅かった彼は、たびたび一人で弓をつがえていることがあった。それも誰にも見つからないように、と。
 クラースは一つ、ため息をついた。
 チェスターの前には何本も矢が刺さっている木があった。
 全てが同じ場所をめがけて放たれたのだろう、刺さっている矢は一部に密集している。
 チェスターは流れてくる汗をぬぐい、矢をつがえた。
 張りつめる緊張。神経を糸のように細く、だがとぎすまして、一点を見つめる。自分の脈が矢に伝わる、その動きすらも読み取って、矢を放つ!!
「おい」
「うわっ!?」
 ああ、矢があさっての方向に飛んでいってしまった。
「外れたな」
「あんたが突然声掛けるからだろうが!」
 突然現れたクラースの存在により集中が途切れてしまったのだ。そりゃもうブッツリと。
「そのぐらいで驚いてちゃぁしょうがないだろ?」
「〜〜〜っ」
 クラースの言うことももっともである。戦いの中では卑怯も何もあったものではない。チェスターは何も言い返せなかった。地団駄を踏みたい気分にもなったがどうにかこらえる。情けないし、第一子どもっぽい。この人物の前でそのような一面を見せることはどうにもためらわれるのだ。見せてしまったら対等な位置に立てない気がして。
 そんなことを考えているチェスターの前までやってきたクラースはズイッとカップを差し出した。
「とりあえず今日はこの辺にしておけ」
 カップの中には湯気のたつコーヒーが入っている。
 これを飲んで休めと言うことなのだろう。
 チェスターは何も言わずにそれを受け取った。



「うー、あったまるー」
 カップを両手で持つだけでもその暖かさに安堵のため息が出る。汗をかいているが、熱さはすでに逃げてしまい感じるのは寒さだけなので嬉しいものだった。黒々とした飲み物は目の前のたき火が外から暖めてくれるように内側から暖めてくれる。
 火を付けていてくれていたらしい。ここへ戻る途中の道でもカップを片手に木の枝を拾っていた。
 こういうと大げさだが、クラースが今自分を寒さから救ってくれたのだ。
 ちらりと横目で見ると彼はカップに口を付けている。
「……サンキュー」
「どうした?」
「いや、なんでもねぇ」
 礼を言ったものの、その事に本人が気づかないなら言っても仕方ないと誤魔化すように言葉を重ねたが、その必要もなかった。
「…………私も寒くてな。それで目が覚めたんだ」
 すぐにクラースは何のことを言っているのか分かったようだ。
 礼を言われることじゃないと言う彼は、いつもあまり変わらない。無関心を装っていながら世話焼きで。
「好きだなぁ」
「……コーヒーごときでそんな恩義を感じることないぞ?」
「いや、そういうことでなくね」
「……とりあえず、ありがとう?」
「はいはい。
 好きだぜ」
 仲間の寝息と火の燃える音と虫の音。それだけが空間を支配していた。