いったい、なんでこんな格好して歩いてるんだろう?
ふとした疑問。
絶対にそれは正当なものだ、とクラースは声高に主張したい衝動に駆られてしかたがなかった。
突然だが、クレス達一行が泊まっている宿に客が来た。
「頼みがあるんだ」
アルヴァニスタの宮廷術士、ルーングロムが直々に来たのだ。
なんとも深刻そうな顔をして。
いや、話を実際に聞けば深刻ではあった。
「いきなりですまない、だが力を借りたいんだ」
驚いている一行を無視するような形でどんどん話を進めていく。
話の内容はこうだった。
最近、アルヴァニスタ城下町で主に女性をターゲットとする髪切り魔が横行しているという。捕まえようとしているのだが、犯人は慎重な奴らしく警備員、兵士のたぐいの者がいるといっさい現れないという。しかし犯行は続いている。今は髪を切るだけにとどまっているがいつそれが発展するかわかったものじゃない。不安が募るばかりなのである。
と。
深刻だ。
話を聞いた六人は
「えっと、それで、なにをすれば?」
いつものように、断ることなどできず引き受けたのだ。
「囮になって欲しい」
頼みがそんな爆弾発言であるとは思わずに。
「囮、かぁ」
おもわず繰り返してしまうその言葉。
「やっぱり、私たちがするしかないですよね」
これはミント。
彼女の髪は長く美しい金髪。そして彼女を包む雰囲気。とても囮とは思わせないような清純なものが、彼女を適役にさせていた。
「夜、でしたね」
と、すず。
彼女もとてつもない戦闘力を持つとはいえやはり子供。犯人も油断するであろう。やはり髪は長い。
「でも、髪切られちゃうのはなぁ」
そしてアーチェ。彼女の髪もまた長かった。
戦闘経験が多く、なおかつ警備の者に関わりがないと思われる髪の長い女性三人。適任がこんなにいるとなればあとは実行あるのみ、となるのだが……、
「ミント達を危険にさらすことはできないよ」
と言い出したのはやはりクレス。
男性陣はその意見で一致しているようだ。
「それでは町の人々がずっと不安なままになってしまいます!」
「そのような事態は回避しなければなりません」
「わかってる。けど……」
「私の髪ぐらい、なんてことありません」
「いや、そうは言っても」
「髪を切られるだけじゃすまないかもしれないんだぜ。あいつも言ってただろ」
「それでも、一刻も早い解決には代えられないと思うんです」
「それは、そうだけど……」
こんな不毛な言い合いがまだ続くかと思われたが、
「チェスター」
「なんだ?」
クラースがこの一言で打ち切ってしまった。
「女装して町歩いてこい」
一瞬その場が固まった。
「…………なんだって?」
静かーに、問い返す。何か聞いてはいけないような言葉を聞いた気がする、と顔を引きつらせている。
「女装して町歩いてこい」
「何だって俺が!」
「髪が長い?」
「そうだね、別にいいんじゃない?」
「てめー、人ごとだと思って」
「だって人ごとだもーん。
知ってる?女の子が髪切られるのって、辛いんだよねー」
「ぐっ……」
「早く解決したいんだけどなぁ」
「だからって俺じゃなくてもいいだろ!」
「なに、あたし達に髪切られろっていうの?」
「そーじゃねー!囮は俺じゃなくたって……旦那だっていいだろ!」
「うん、別に問題はないわね」
「あ、あるある、あるぞ。
こんな大きな女性はそうそういない……」
「それはチェスターも一緒でしょ」
「…………か、髪が短い!」
「クレスよりは長い」
後ろでひとくくりにした髪がこれほど憎らしく思ったことはない。
「じゃぁ、ジャンケンで」
「そんな運任せで……!?」
「平和的解決だと思うんだけど」
「やっぱり私が……」
ミントの言葉にクラースは観念して声を上げた。
「ああっ、わかったジャンケンでいい!」
「それじゃぁ一回勝負で」
「一回!?せめて三回……」
しかしクラースの悲痛な叫びは無視される。
「出さなきゃ負けよ、ジャンケンポイッ!」
そうして、歓声と悲鳴が宿に響いたのだった。
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