「オレが同族を間違えるはずないだろ」
「違うよ、僕たちは……エルフなんだからっ」
「……ああ、悪い。オレが間違えたみたいだ」
ハーフエルフであることを否定して生きる。
正直、そんな生き方馬鹿げてると思っていた。
ディザイアンがなんだ。
殺戮繰り返してようが、人間牧場開いていようが、オレが生きるのに関係ない。
ハーフエルフであることも、オレであることなのだ。
オレがオレを否定したら、誰がオレを認めてくれるってんだ?
だから、オレは自分がハーフエルフであることを隠さない。
周りが離れていっても、倦厭しないやつだっていることを知ってる。
……だけど、俺たちを助けてくれたアイツは、そうじゃないみたいだ。
仲が良さそうにしている旅の仲間にでさえ、隠している。
仲間だからこそ、だったのだろうか。
今の時代、ハーフエルフへの風当たりはきつい。
平穏に暮らそうと思ったら隠していくのが賢いやり方ではあるだろう。(オレは前にも言ったとおり反対派だが)
ならば、なにも知らないふりをするのが良い。
オレは、知らないふりをした。
「久しぶり。元気だった?」
かなり月日を空けてアイツらがやってきた。
本当に久しぶりだ。
別にここによる理由もないし、来るように約束したわけでもないし、オレはアイツのばらされたくない秘密も握っているし。
もう来ないかと思っていた。
「よぉ、生きてたか。よかったな」
軽口を叩いて、密かな喜びを隠す。
ずっと気になっていた、と言うのが本音。
もしかしたら、ハーフエルフだと言うことがばれて、もうあの旅から抜けていたかもしれない。世界再生は危険が伴うと同時に名誉なことでもあるのだ。そんな大変なことにハーフエルフが関われるわけがない。そうしたら、あんな小さい奴はどうするんだろう。心配、してたんだ。
「当然でしょ。簡単に死ぬわけないじゃん」
「だな!」
イタズラが成功したような、子どもの自慢げな笑顔に思わず笑いを返してしまった。
何もなかったようだ。
ロイド(だっけか?)や神子達も仲良さそうにしてるし、世界再生の旅をしていることが証拠になるだろう。
ホッと安堵の息を密かについていると、新しく仲間に入ったのか、見たことのない奴が口を開いた。
「なぁ、こいつジーニアスと同じハーフエルフなのか?」
「!?」
赤い髪の男が事も無げに言った言葉。
それは禁句だ。
あれほどまでにコイツが隠していた、事実。
「そうだよ。ハーレイもハーフエルフ」
焦った俺を横に、ジーニアスは平然と答える。
その反応にも、俺は驚きすぎて、頭が回らなくなった。
どうしてそうも平然と答えているんだ?あんなに隠していたことなのに。
っていうかこいつは誰だ?
「ふーん。ま、それよりもさぁ、俺様腹減っちゃった。早く晩飯にありつきたいんだけど??」
「うるさいなぁ、だったら先に宿とっといてよ」
「えー、俺様一人じゃ寂しくて死んじゃう〜。ジーニアスも一緒じゃなきゃやだ〜」
「なにいい年こいたアホがバカなこと言ってんの」
「ちょいと、さすがにそれは言い過ぎなんでない?」
「ジーニアス、こいつ誰なんだ?」
ポンポンと交わされる会話にどうにか割り込んで紹介を求める。
ジーニアスははっと思い立ったような顔で、赤い髪の男は何か得意げに敵意を含ませながら、こちらを見た。
「ごめん、えっと、このアホ神子……じゃない、これはゼロスって言って」
「ジーニアスのスイートラバーです」
「なっにバカなこと言ってんの!?
痴話げんかが目の前で繰り広げられている。ついでに手も出ている。
俺は肩から力が抜けてしまった。
赤い髪の男、ゼロスが言ったことが真実だとジーニアスの顔が何よりも語っている。
だから、ばらしたのか?
あんなに隠していて、俺しか知らなかったことを?
胸がモヤモヤとしていた。
それが嫉妬、という名の感情だと気づいたときはもう遅かったのだ。
ジーニアスはゼロスとかいう奴と痴話げんかをするような仲になってしまった。
胸の痛みに耐えている俺にようやく気づいて、ジーニアスは体裁を立て直した。
「あのさ、とりあえず報告に来たかったんだ。ハーフエルフだってことを知っても受け入れてくれるところがあったって。ハーレイがやってたみたいに、堂々と生きていけるって分かった、って」
「そ、そうか」
「ごめんね、あのとき嘘つかせちゃって。それと、ありがと」
ニッコリと笑うその顔も、胸に痛い。
これは恋だったんだな。
酬われることも、気づくことすらなかった恋。
ならば終わらせよう。
「良いってことよ!お前ら、幸せになれよ、ハーフエルフだって幸せになれるって知らしめてくれ」
これが区切りだ。
それからちょくちょく訪れるようになった救世の神子一行は、ハーフエルフとともにやってくる。
秘密はなくなったんだ。