日の高いうちから立ち上る、料理の香り。
夕方からは音楽と笑い声で、広場が埋め尽くされる。
夜になれば静まりきった中、枕元にプレゼント。
「憧れたよね、そんなクリスマス」
緩んだ頬で笑うフレンの表情は普段騎士として己を律している時とはまた違った表情を見せる。どちらも作っている訳ではないが、やはり慣れ親しんだ空間では気が緩む物らしい。気を許した、柔らかい笑みは二十歳を迎えた男に使うのは憚れがちではあるが、可愛らしい物だった。
しかし、そんな笑顔を腕の中で見たユーリは眉をしかめる。
「なんだ、それは食い物で誤魔化した俺への当てつけか?」
クリスマス前夜。
ユーリは腕を振るって夕食を用意したのだ。
しかし、クリスマスだからと言ってチキンを焼いた訳でもなく、ケーキを出した訳でもない。ただただフレンの好む物を作った。それだけだ。残念ながら財政的にそれ以上が許されなかったのである。
ユーリはけして浪費家ではない。好きな物、気に入った物…大抵は武具類であるがそれらを買うのに財布の紐が緩むことはあれど金が足りなくなるような生活はしていない。
今回は特例があったのだ。
拗ねたような口調にクスクスと笑いをこぼしながらフレンは手を伸ばして自分を抱きしめるユーリの頭を撫でる。
「違うよ。ごはんごちそうさま。
手伝って貰ったのに、わざわざありがとう」
「…………おう」
「憧れたクリスマスを、人に提供できる側になれて嬉しかったんだ」
今日、下町ではホームパーティのような物が開かれた。
主催はフレン。
ここしばらくの給与をこのためにと貯めていたらしい。大きなケーキ、キラキラと輝く飾り、並ぶ料理、そして子ども達に小さな贈り物。それらを自腹で買い求め広場でパーティを行ったのだ。
もちろん、それぞれが料理を持ち寄って並べたのだが、元々がギリギリの生活をしている下町の衆である。ささやかな物であるのは否めない。生活があるのだ、祭り事だと言ってその1日のためにこの先の食料を使い込む訳にも行かない。なにしろこの先冬が待っているのだ。備蓄できる物は冬を越すためにとっておかなければならない。
よって、主な物は全てフレンの負担となった。
「ユーリも、招かれてくれれば良かったのに」
「一人でてんてこ舞いだった奴が何を抜かす」
騎士の仕事もありながらパーティにかまけていたのだ。忙しさは半端無かった。
そこで準備に加わったのがユーリだった。
こっそりと買い足した菓子類、果実水に、ユーリの貯金は最低限の物を残して消えていった。
「だから、ありがとう。
嬉しかったんだ」
ニッコリと、笑みを浮かべるフレンはもぞりと動いた。
その拍子に被っていた毛布がずれて空気が入る。暖房のない室内の空気は素肌に冷たい。
思わず身震いしたユーリは暖をとろうとフレンに腕を回す。
しかしそれに捕まることなくフレンは身を伸ばした。
音も立てないゆっくりとした口づけ。
「…………何のサービス?」
残念ながらすぐに離れていってしまったソレを惜しむように小さく囁き尋ねる。
「したくなったから」
顔を赤くしながら放たれたフレンの言葉にユーリは頭を抱えた。
そうして視線を下げると否が応でもフレンの日に焼けていない白い肌が目にはいる。所々鬱血して赤くなっているのはユーリが施した物だ。
コイツは今の状況を分かっていて挑発(キス)して来たのだろうか。
「…………襲うぞ」
「これ以上は駄目。明日仕事なんだ」
ユーリの悶々とした末の言葉はあっさりと切り捨てられた。
「もう寝よう?今日は疲れただろ」
「いや、ヤっていいなら一晩中だって起きていられるけど」
「……駄目だから寝ろ」
枕をユーリの顔に押しつけてベッドに押しつける。
離れることを余儀なくされたユーリは、これ以上してしまったなら口もきいて貰え無くなるまで怒りを買うだろう事を分かっていた。
「…………じゃあ湯たんぽになれ。寒くて寝られねぇ」
切り替えが早いのはユーリの美点だろう。
魅惑的な雰囲気を取っ払った様子にフレンが息をつく。
それでも、と尚迫られていたなら拒む自信がなかったのだ。好きな人と、その気持ちを確認し合う行為を恥ずかしく思いはすれども嫌いになれない。
素直に寄り添う。
体温の暖かさに心が安らぐのを感じながらゆっくりと瞼を閉じる。
心臓の音を聞きながら、意識が落ちていくのを感じていた。
「やっぱ、何かプレゼント用意しておけば良かったな」
「……大丈夫」
ユーリの呟きにフレンはまどろみながら答える。疲れていたのだろう、もう眠りかけている。
「起きてユーリがいたなら、枕元に置かれるプレゼントよりずっと良い」
熱烈な告白に続いたのは寝息だった。
「言い逃げしやがって」
ユーリも続いて目を閉じる。
朝起きて、腕の中にクリスマスプレゼントなんかよりずっと自分を幸福にしてくれる存在がいるだろう事を確信して。
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