「言霊って、知ってる?」
 僕の突然の言葉に司馬くんは歌を止めて首をかしげた。
 それも当然かも知れない。
 だって、ほんとに唐突に思いついたんだもん。
 僕が『言霊』を知ったのは漫画を読んでてだったと思う。
 その時思ったことをふと思い出したのは、司馬くんが小さく歌を歌っていたから。
 司馬くんの声を聞けるのは僕しかいない。
 いや、たまーに歌を聴きながら口ずさんでることはあるけど、それとは別に、会話としての言葉を聞いた人は十二支の中にいない。
 僕だけが聞いたことのある声。
 その声はまさに……
「司馬くんってさー、じつは言霊使いじゃないの?」
「?」
「だってさ……」
 だって、こんなにも翻弄される。
「言霊って、魔法みたいなので、言った言葉が、なんか変な、力みたいなの持ってるんだって」
 言葉少なに僕を翻弄する君は言霊使い。
 まるで僕は魔法にかかったみたいに君に囚われる。
「だから、さ」
 でも君は僕の言葉にフルフルと首を横に振って否定する。
 うん、謙虚なのは司馬くんの良いところ。でも少しは自信を持っても良いのに。いきなり自信過剰になったら違和感ありまくりだけどさ。
「僕さ、司馬くんの声好きだよ」
 そしたら顔を赤くしてペコンとお辞儀。ありがとう、ってことかな?
 司馬くんの動きって、なんだか可愛いよね。僕よりずっと身長が高くて、野球部の中でも高い方だ。猿野の兄ちゃんとか、キャプテンより数pだけど高いんだもん。僕との距離が大きくても仕方ない。あー、早く身長伸びないかなぁ。
 いつも思うことを今日も又思った。
 司馬くんがこんなに可愛いから、みんながライバルになっちゃうんだ。
 でも身長差は大きくても、僕はみんなから一歩リード。
 なにせ声を聞いたことがあるのって、野球部の中で僕だけなんだから。
「無理に話さなくてもいいからね」
 ぴしっ、と人差し指を立てて口元に運ぶ。
「司馬くんの声好きだけど、無理して欲しくないし」
 他の人に聞いて欲しくないし。
 ちょっとした独占欲。
 本当に、綺麗な声なんだ。
 聞いたら、ますます惚れてしまいそうなくらい。
 僕が言うんだ、間違いない。
 好きな声だから聞いていたい、というのも正直な話。でも、喋らないのも司馬くん。今の姿が自然体なら、それが一番好き。
「よっし、もうそろそろ予鈴なるね、戻ろっか?」
 後5分もしないでチャイムが鳴って、授業が始まっちゃう。
 遅刻させるわけにもいかないから、二人だけの時間を打ちきりにする声を掛けた。
 司馬くんはコックリと頷いてお弁当箱を手に取る。
 それを待って、二人並んでゆっくりと歩こうか、と言う時、一寸司馬くんが立ち止まった。
「オレも、ピノの声好きだよ」
 サングラスに隠されてても分かる笑顔。
 そして放たれた言霊。
 僕はいつもみたいに、その言霊に翻弄されて、顔を赤くした。

「もー、そんな真っ正面から言われると照れちゃうよー」
 パシパシと司馬くんの背中を叩きながら照れ隠し。

「うん、恥ずかしかった」
 言った本人も恥ずかしかったらしい。
 小さな声でうつむき加減に、顔を赤くしながら教えてくれた。

 司馬くんは言霊使い。
 だってこんなにも僕を翻弄して。
 こんなにも僕を惹きつけて。
 大好きな大好きな、言霊使い。