渋沢が負傷した。そのことを風祭に聞いて、「見舞い」に行くことになった。
「げっ、不破?
なんでこんなとこにいんだよ」
こんなとこ、というのは武蔵野森の寮。珍しくなにか荷物を持った不破は堂々と正面玄関から入ってきたようだ。本来なら関係者以外無断での立ち入り禁止であるここに。
――やっぱりこいつ良い度胸してやがる。
三上の胸内中なぞ不破が分かるわけもなく、
「見舞いだ」
と、なんとも簡潔に答えてくれる。
見舞いの対象人物なんて聞かなくたって分かる。
「渋沢なら部屋にいる」
「そうか」
実に彼らしい返答に、早くいっちまえ、とばかりに手を振る。
――こいつが来たってことは、部屋には当分戻れない、っつーことか。
三上としては迷惑極まりない不破の渋沢への訪問なのだが、
「ありがとう」
期待していなかった礼の言葉を、この不破に、無表情だろうがなんだろうが言われたことで少しでも気が晴れてしまう。
――なんだよ、まだ諦めきれねぇってのか?がらでもない。来るもの拒まず去るもの追わず、それが俺じゃなかったか?ああ?
同室の奴の意中の人物、不破の後ろ姿を何気なく見やる、と
「おい、それって、花なのか?」
片手に持っている大荷物から覗いている緑色の葉に目をつけ、三上は不破に尋ねた。
質問された当人は、そうだが、と首をかしげる。
「それがどうかしたか」
「どうかしたか、ってそれ鉢じゃねぇか」
三上の言葉にますます不破は首をかしげた。
「なぜだ?都合でも悪いのか?」
その頭の動きにあわせてサラサラとしたこげ茶の髪が光を受けて薄く光り、少し日に焼けた頬に流れ落ちる。
「お前さぁ、首あんまかしげたりすんなよ」
思わず赤くなってしまったであろう頬を押さえる。
そんな三上の様子に不破は不機嫌そうに眉をひそめた。「答えになっていないぞ」
「ああ、鉢の話だったな。
病人に鉢植えの花をやる、っつーのはたしか病気が根付く、とかいうんだよ」
「それによって実際治らないことなどあるのか?」
「病は気からとかいうだろうが」
「しかし渋沢は病気ではない」
「病気か怪我かは関係ねえんだよ。治ると思えばなおんだろ」
「催眠効果というものか」
「見舞いの礼儀だ」
「ふむ」
不破は何か考え込むようにして黙り込んだ。
お得意の考察だ。
こうなったら何を話しかけても反応を返さないだろう。
しばらく三上は不破の動きを待つことにした。
そして顔をあげた不破を見やる。
「見舞いの品としては不適切だったようだ。
また来る」
「おいおい、何も出直さなくてもいいんじゃねえか?」
あいつだったら不破から貰えればなんだって喜ぶだろうに。
「いや、また今度来る」
断固として言い張る様子に、三上は引き留めるのを諦める。
「それ持ってかえんのか?」
「そうせずにどうしろと?」
不破の言葉に、三上は名案を思いついたように手をたたく。
「よし、それもらってやるから、よこせ」
「なぜだ?」
もっともな疑問だ。
「人の好意は素直に受け取れ」
「恩着せがましいな」
全くもってその通り。
「うるせえ。
そのかわりアイツの喜びそうなもの見繕ってやるよ」
「なに?」
「そうすりゃ日を改めずにすんで楽だろ?」
「そう、だな」
練習もあることだし、日を改めるとなるとまた厄介になる。
不破は三上の提案を呑むこととした。
「ではこれをやるから見繕ってくれ、なのだ」
「おい、間違えるなよ、わざわざ貰ってやるんだからな」
「・・・礼、とやらを言うべきなのか?」
「言うべきだな」
「・・・ありがとう」
「どういたしまして」
ニヤリと表現できる笑みを浮かべ、不破を玄関の方へと誘導していった。
――そうだ、同室の奴に遠慮なんてするいわれはねぇんだよな。
と。
「えっ、不破くんからだって!?」
ズイと差し出された包みを渋沢は驚きながらも実に嬉しそうに受け取った。
「豆大福!
嬉しいな、俺の好きな物知っててくれてたのか」
幸せそうに、食べるのもったいないな、とか言いながら一つ手に取っている。
不破ボケもここまで来ればすげえよな。
それにいつの間にか感化されたのか、自分まで不破に好意を持っていることを棚に上げて三上は、さっさと食え、と蹴りを一発みまってやる。
「あれ、それ……どうしたんだ?」
痛みで現実に帰ってきた渋沢はめざとく、三上が抱えている物を見つけた。
はっきり言って、彼がそんな物を部屋に飾るような趣向だったとは思えない。
白い植木鉢に小さなつぼみを付けた緑鮮やかな植物。
「あ?
……貰ったんだよ」
「……ふーん」
何か釈然としない物を感じながらも、渋沢はまた不破のくれた豆大福に意識を集中させたのだった。
それで、見舞いの品物だけが届いて、実際に来るはずだった人物が来なかったことには気付かなかったのだった。
WINNER 三上 亮 !!