静かな部屋に無機質な音が響いている。
 時計の針の音。
     カツカツカツカツ
 一定のリズムで動くその針は、時間が確実に経っていることを実感させてくれる。
 携帯を片手に、壁にかかっている時計を見上げた。
 あと少し、あと少しで「時間」だ。
 気持ちがどうも逸って仕方がない。
 あと三分で、アイツの誕生日。
 柄にもなく、緊張してる。
 手のひらに収まらない、少し大きめの電話を手持ちぶさたにいじくりながら、短いようで、待つだけとなったら長い時間を過ごす。
 日付が変わったら、新しい日になったら・・・
     ブルルルルルッ
 突然、手に振動が走った。
 こんな時に電話なんて。
「マサキとかだったら速攻切ってやる」
 ディスプレイも見ずに通話ボタンを押した。
「もしもしっ?」
 不機嫌な声。
 そんな応対だったからか、電話の向こうから言葉が帰ってこなかった。
「イタズラ電話なら切るぜ」
 こんなときに時間の浪費なんてできない。いつもはこんなこと考えないのに、やはりアイツ関連のこととなると調子狂う。
 あと一分。
 有無を言わさず切ろうとしたとき、
「イタズラ電話ではない」
 返事が帰ってきた。
 俺の調子を狂わせる、アイツの声で。
「大地!?」
 誕生日を間近に控えた、大地からの電話だったんだ。
「なんだ、そんなら最初ちゃんと名乗れよ!無言だったからイタズラ電話だと思っただろうが!」
「名前は表示されなかったのか?」
「そんなん見てらんなかったんだよ」
「もう寝ていたか?」
「寝てはなかったけど」
「そうか、それならば、あと少しだけ付き合ってくれ」
「はぁ?」
「・・・」
「大地?」
「十二時だ」
「!?」
 時計に目をやると、一つになった三つの針から秒針が少し進んだところだった。
「だいっ・・」
「これでまた差は縮まったな。
ではまたな、なのだ」
「ちょっと待った!切るな!」
「?
どうした?」
「一人で自己完結してんじゃねーよ。俺にだって言いたいことぐらいあるんだからな」
「む?」
「誕生日!おめでとう、ってな!」
「ああ、ありがとう」
 思いがけないことを言われた、言うような不破の声に、誕生日のことじゃなかったのか?と疑問に思いつつも、俺は他の言いたいことも言い始めた。
「本当は俺から電話しようと思ってたんだぜ。なのにお前からかかってくるなんて」
思っても見なかった、と続く言葉は不破のすまなかった、という声に消された。
「しかし、どうしてもこの瞬間をお前と過ごしたかったんだ」
「誕生日を?」
「そうだ」
 やっぱりそのことだよな。なのに何で「おめでとう」で驚く?
「俺と同じか。
 俺も、お前の誕生日に1番にお前に感謝したかったんだよ」
「感謝?」
「そっ、生まれて来てくれてありがと、ってな!」
 ちょっと臭いセリフを言ったことぐらい自覚してる。でも感謝したい。そう思ったのだ。
うーん、相当重症っぽいな。
「俺が実際に生まれたのは午前六時半だ」
 ……………
「は?何言ってんの突然」
「それに感謝するならば乙女の方にではないか?」
 乙女ってのは、不破の母親のことだよな。
 なんか、やっぱ、ずれてる。
「あのなぁ……。
 それならなんで不破は日付が変わる直前になんて電話したんだ?」
「なぜ?
 なぜだろう」
 少し沈黙。
 これはいつもの奴の前フリみたいなものだ。
「おい、電話越しに考察なんてはじめるなよ」
 直接あっている時ならまだしも、顔の見えない時に長い時間考察をされたのではたまったもんじゃない。
「わかった。
 しかしそれでは満足のいく返答はできないぞ」
「それでもいいから言ってみな」
 そう促すと、
「………まず声が、聞きたかったようだ」
 自分の感覚を探りながら、と言うように少しづつ理由を話し出す。
「そして、誰にでもなく、お前に、1番に報告したかった、のだと思う」
「報告?」
「ようやく差が縮る」
 誕生日で縮まる差と言えば、年齢。
 そう言えば俺は4月生まれだから、ちょっと前までは二歳差だったのか。
 そして今は一歳差。
「なに、そんなこと気にしてたのか?」
 べつに気にするようなことじゃないじゃないか。
 そう思ったが、
「椎名とて、身長のことを気にしているだろう?」
 と、不破に言われてしまう。
「お前のこと言えないって?
 まぁいいさ。
 明日、じゃなくて、今日会えるか?」
 ほぼ禁句であることを指摘されてしまったが、俺の方はまだ望みがあると言うこともあってこの場は流してやる。
「特に用事はないが。
 ああ夜には初もうでにいく」
「んじゃ、明日行くから、待ってろよ」
「わかった」
「あ、あと、朝は何時に起きてる?」
「別に決めてはいないが」
「んじゃ、モーニングコールしてやるよ」
 ある考えが頭をよぎり、朝に電話をかけると宣言する。
「モーニングコール?」
 なぜだ、と今にも問い返されそうだったが、
「じゃぁな」
 有無を言わさずに切る。
 少々強引な気もするが、まぁいい。
 六時半に電話して、言ってやろう。
 年の差が縮まったな。
 と。
 そして、もう一回、誕生日おめでとう、生まれてきてくれてありがとう。
 出会って、今こうしてくれていることに、ありがとう、と。