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2002年7月28日(日)
@いよいよブルネイへ
朝6時15分にセットしたおいた目覚まし時計で起きる。荷物はほとんど出していなかったので、歯を磨き、顔を洗うなどしてすぐにチェックアウトした。そのままMRTのアルジュニード駅に向かい、空港へ。
出国手続き等、スムーズに終え、そのまま9時10分発、バンダルスリブガワン行きの飛行機へ乗り、機内食を食べたり、ボケっとしている内に、11時15分、無事到着。
ブルネイの空港はやはり小ぢんまりしているが、ある程度発展している国だけあって、綺麗である。入国手続きも難なく終え、ターンテーブルに荷物を取りに行く段階となったが、なかなか荷物が出て来ない。背後には到着した人を待つ人達が見える。あの中にアリフはいるんだろうな。なかなか出て来ないから心配しているんじゃないかと、気になって仕方がない。
午後12時、ようやく僕の荷物が出て来たので急いで出口へ向かう、すると男女2人連れが「TOMO」と大きく書いた紙を持っていた。間違いない、彼女がアリフだ。僕は2人に挨拶し、握手を交わし、長く待たせた事を詫びたが、2人とも「大丈夫」と言って笑った。もう1人の男性は彼女の弟で、ジャスと言う名前だ。
「ジャスと言う航空会社が日本にもあるから君の名前はすぐに覚えたよ」
と言うと彼は笑っていた。
アリフが21歳、ジャスが20歳だが、2人とも眼鏡を掛けていて、もっと大人っぽく見える。6人兄弟の上から2人と言うからしっかりしているのだろう。そのまま彼等の車に案内してもらい、三菱パジェロの助手席に乗り込んだ。パジェロは10年くらい前の型で、ラジオは壊れており、エアコンどころか、送風の部分まで壊れている。家族共有の車だそうだが、金持ち王国ブルネイと言う印象があったので、少し意外であった。
マレー語と英語が公用語とだけあって、彼等の英語は完璧だった。普段英語を使っていない僕は少し戸惑うが、2人とも非常に人当たりが良いので会話をしていてもなかなか楽しい。
空港からの街並みは日本やシンガポールほど近代的ではないものの、きちんと舗装されており、マレーシアの中規模都市と言った感じである。ただ、シンガポールよりも緯度が高いのにも関わらず、明らかにこっちの方が暑い。
約30分後、何も分からぬまま、バンダルスリブガワンの中心となるショッピングモール、ヤヤサンコンプレックスの駐車場に到着した。ここから車を降りてアリフが僕の為に予約しておいてくれたゲストハウスにボートで向かうのだ。そう、ブルネイのホテルは概して高いと言う事で、彼女が安いゲストハウスを見つけて、わざわざ予約してくれたのだ。ブルネイのホテルは最低100ブルネイドル(約7,000円。ブルネイドルはシンガポールドルと同じレート。シンガポールドルはブルネイでもそのまま使える)くらいするのだが、彼女が取ってくれた所は朝食付きで22ブルネイドル(約1,540円)。「地球の歩き方」にも全く紹介されていない。それに、そのゲストハウスは、「カンポンアイル」と呼ばれる、水上家屋にある為、街からはボートで対岸へ渡らなければならない。
駐車場から暫く歩くと、ボート乗り場に到着した。木造の質素なボートで乗るとゆらゆら揺れる。だが、ヤマハのエンジンをつけているのですごいスピードでゲストハウスに到着した。アリフが3人分のお金を払っており、僕が彼女にお金を渡そうとしたが、受け取らなかった。
アリフに促されるままゲストハウスに入る。シンプルな作りだが、なかなか清潔である。アメリカとイギリスからの先客がいたが、彼等は2人とも今日出発するらしく、今日は僕1人だけがここに泊まる事になりそうだ。
予約してくれた部屋に入る。ダブルベッドに化粧台、洋服ダンスがあるだけの部屋だが、何よりもかなり清潔で気持ちが良い。エアコンもしっかり効いているので十分である。
あとは、共同のトイレ・シャワーがあり、2階に皆で寛ぐスペースがある。エアコンは部屋の中にしかないので、僕は2人を部屋の中へ招いたが、アリフは断り、ジャスだけ入って来た。
「涼しいから入ってくればいいのに」
「イスラムの決まりで、男女が同じ部屋にいるのはタブーなんだ」
「なるほど、それなら仕方がない。アリフから聞いたんだけれど、近代建築に興味だあるんだって?日本で買って来たよ」
そう言って僕は、事前に買ってきた日本の近代建築の本を差し出した。僕は建築の事は全く分からないので、選ぶのにやや手間取ったが、
「えっ、いいの?お金払うよ」
彼は真面目である。当然、プレゼントすると言うと、かなり喜んでくれた。よっぽど建築の事が好きなのであろう。これだけ喜んでもらえると買って来たかいがあると言うものだ。部屋を出て、アリフには宇多田ヒカルと浜崎あゆみのシングルCDと100円ショップで買ってきた扇子をプレゼントした。これからいろいろお世話になるのにはちょっとチープ過ぎると思ったが、まあ気持ちの問題であろう。
Aさあ、散策開始
暫く休憩した後、再びボートに乗り、昼食の為に古ぼけたビルの最上階まで上がった。そこはフードモールとなっていた。やはりマレーシアと雰囲気が似ている。髪をスカーフの様なもので巻いたムスリムの女性も多い。
「タイ料理とマレー料理、どっちがいい?」
アリフが聞いてきた。タイにはこの後滞在するので、当然マレー料理を選び、席に着いた。ジャスは焼きそば、ミーゴレンを注文し、アリフと僕はライスと、チキンのレモン炒め、牛肉と野菜を炒めた物を注文してシェアして食べる事にした。
話をしながら食事を終え、会計の段になるが、これもアリフが出した。僕は自分で払う事を申し出たが、
「あなたはこの旅でこれからお金を使うから」
と言って受け取ろうとしなかった。とても嬉しいが、何だか申し訳ない。
車を取りに行く為に再び駐車場に戻った。するとジャスが、
「この近くに僕の彼女が住んでいるんだ。でも、彼女のお父さんは厳しいからなかなか会えないよ」
彼はつい最近まで5年間付き合っていた女の子と別れ、今は新しい彼女と付き合っているそうだ。もっとお堅いイメージのあるイスラムの国だったが、これも意外である。まあ、イスラムでもマレーシアやインドネシアと同様、あまり厳しくはないのであろう。
次に車は中華学校へ向かった。どうやら創立50周年記念で記念祭をやっているらしい。車を降りて学校へ入ると、たくさんの人達で賑わっており、大半が中華系だった。さっきまではマレー系の人しか見かけなかったが、やはりいる場所にはいるものである(ブルネイ人口の内18%が中華系。ちなみにマレーシアでは35%)。
服、日用雑貨やゲームCD、ジュースや弁当などが売っており、バザーの趣がある。体育館ではビンゴゲームをやっていた。もう1つの体育館では、ダーツや輪投げ等で景品を当てるゲーム、日本で一時期流行した「ダンス・レボリューション」のプレイステーション版も置かれていた。アリフがクーポンを買って戻り、一緒にダンス・レボリューションをやろうとジャスに言っていたが、彼が断ったので、仕方なく僕がやる事になった。結果は、推して知るべし。
次に輪投げをやった。景品を2つ取り、ニセモノくさいが、ウルトラマンとドラえもんのストラップを選び、ウルトラマンをアリフにプレゼントした。ドラえもんのストラップは、ちょっと恥ずかしいが、現在僕の携帯電話に付いている。
学校を出て、その足で大きな体育館に向かった。そこではマーシャルアーツの試合が行われていて、アリフの妹が出ているらしい。暫くすると妹がやってきた。ボーイッシュな感じで髪を少しだけ茶色に染めている。濡れたハンカチで目を押さえながら、右手を差し出してきた。どうやら試合でケガをしたようだ。30分ほど試合を観戦して体育館を後にした。
ジャスは夕方から用事があるらしく、一旦、ここでお別れとなった。アリフは6時半頃、また迎えに来てくれると言う。僕も暑さと睡眠不足でかなりくたびれていたので、ホテルに戻って休憩する事にした。
B水上家屋と夜のバンダルスリブガワン
宿に戻るが、まずはその足でカンポンアイルを散策する事にした。川底から支柱が立てられ、その上から家が建っている。よくこんな不安定な柱の上に家が乗っかかっているなと感心するが、大丈夫な様に作られているのだろう。財政も整っていて生活水準も高いブルネイではとても不思議な存在であるが、恐らくこれが伝統なのであろう。水上に住む人々は年々政府が陸上に住む事を奨励している為、減っているそうだが、水上生活に慣れ親しんだ人達には離れられないのかもしれない。そこには純粋に人々の日常が感じられた。
再び戻って休憩していると、その宿の子供達が僕の部屋に入って来た。5歳くらいの男の子だ。勝手に僕の荷物をいじくり回すのでちょっと困ったが、まあいいだろう。暫くしてもう少し年齢のいった利発そうな男の子も入って来た。彼は英語が少し出来た。ムハジールという名前で8歳だと言う。僕は持ってきた折り紙と、関西空港で買って来た折り紙の本を出して、手裏剣を作った。すると彼もそれに興味を持ち、作り方を教えて欲しいと言った。だが、暫くしてノックの音がし、アリフがやって来たので、中断。僕は彼等に折り紙とその本を貸して、宿を出た。
外はやや雨が降っていたが、大した事はない。アリフは女の子を2人連れてきた。2人とも妹だと言う。長身のスタイルの良い美人が18歳のスザンヌ、日本の中学生と同じ様な格好をした可愛らしい子が末っ子で15歳のティニ。今日でアリフを含む女兄弟は4人全員見たが、見事に全員似ていず、それぞれ特徴があった。まあ、みんな性格はとても良さそうである。
そのまま4人でボートに乗り、対岸に渡った。今日は9時までに帰らないといけないらしい。まずはヤヤサンコンプレックスに行き、そこからブルネイの象徴である、オマール・アリ・サイフディン・モスクを眺めた。ライトアップがとても美しい。だが、雨は次第に強くなり、アーケードの外から出るのは少し困難な状態になった。
雨が弱くなると、アリフは、
「ティニとあのモスクに行って来て。私とスザンヌはここで待っているから」
と言うので、ティニと2人でモスクへ向かった。ティニは英語を普通に話せる様だが、あまりにも世代が違うのでなかなか話を切り出すのが難しい。趣味はマンガを読む事だそうなので、GTOやドラえもん等の事を切り出すと、少し話が弾んで来た。
残念ながら時間の関係でモスクには入れず、アーケードに戻ると2人はいなかった。2人で探してみるとケンタッキーでジュースを買っていた。ティニと僕もケンタッキーへ入ってジュースを買い、アーケードの椅子で休憩した。その間、スザンヌはしきりに携帯電話を気にしていたが、どうやらボーイフレンドからの電話を待っているらしい。彼は中華系だそうだ。
雨が弱くなって来たのを見計らって、濡れながら大きな広場に向かった。この辺りもかなり派手にライトアップされていて、夜店がたくさん出てかなり賑わっている。アリフによると、7月は国王の誕生月で街は今月一杯はお祭りらしい。スザンヌは、あなたはラッキーよ、と言った。本当にその通りだ。アリフも丁度夏休み中で案内してくれるし、学習塾のアルバイトも金・土・日で、上手く外れているのだ。旅に出ると急に強運になるのは何故だろうといつも思ってしまう。
暫く歩いていると夜店の若い男が手を振って来たので、振り返すと、大声で、
「違う、違う、俺は女の子達に用があるんだ」
と言い返してきた。もちろん冗談で言っているのだ。
「彼は女の子しか興味がないんだって。僕も同じだ。ブルネイの男には興味がない」
と言うと3人とも笑い出した。言葉が違うと、笑いのつぼはなかなか掴めない。
もう少し先へ行くと、かなり大規模な市場が見えた。日本の縁日と全く同じ光景である。見ているだけでも楽しい。横では何人かの若い男達が奇声を上げて叫んでいるのが見え、スザンヌが日本語で、
「ダイジョウブ?」
と言ってきたので、僕が、
「大丈夫じゃない!」
と真顔で言い返すと、3人とも大笑いした。アリフの影響で彼女達も多少の日本語が分かる様だ。
美味しそうな物がたくさん売っていて僕は食べたくて仕方なかったが、もう9時前になっていた。それにどうやら彼女達は夕食を済ませて来たみたいだ。空腹を堪えつつ、迎えの車が来る場所まで戻った。
暫く待っていると、例のパジェロが運転手付きでやって来て、中から初老の男性が降りて来て、3姉妹にヨーロッパ風のキスを交わしていた。どうやら彼が父親らしい。僕は名を名乗り、手を差し伸べた。眼鏡を掛けたミスター・カミスは、弱々しく手を握った。その感覚だけで彼の人柄が感じられたが、体は一目見て明らかに悪いのが分かった。毎日病院通いらしい。
「それじゃあ、先にあなたを船乗り場まで送るわ」
アリフはそう言ってくれたが、僕はここで夕食を取りたかったので断り、逆に彼女達を見送る事にした。残念な事にスザンヌとティニは明日から学校である。彼女達とも握手を交わし、去って行く車に手を振った。明日はアリフは7時に宿まで迎えに来てくれるそうだ。
1人になった僕はそばのケンタッキーで夕食にし、足りなかったのでさっきの市場まで戻って、焼きそばを買って宿まで戻った。時計は9時45分だったが、宿の中は真っ暗で、ドアを何度かノックするとようやく宿の女性が眠たそうにやって来て鍵を開けてくれた。正直な所、ブルネイにはこれと言った見所は感じられなかったが、治安も抜群に良く、人達もおだやかで(特に東南アジア特有のけたたましいクラクションが皆無である)のんびりとしている。何と言っても、メル友のアリフが、とてもしっかりした良い子で嬉しかった。明日からの旅も楽しくなりそうだ。
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