-東女瓦版0904号5面掲載作品- 「はぐれもの」 笑恵 凛 「こんにちは、桜さん。お久しぶりです。」 「おやまぁ、春ちゃんかい。相変わらず姿が見えないが、ねぇ。」 そう、私の姿を見える人は滅多にいない。更に言うと、私が何者か知っている人はもっと少ない。 「彼らはまだ仕事が終わっていないのですか。」 「いや、彼らはネット喫茶へと寝る場所を変えたんじゃよ。彼らが恐れるくらい物騒な世の中に変わったのじゃから、もうこの世は終りじゃな。」 私は愛想笑いをした後、ネット喫茶へと向かった。 「ダメ天使殿、これを見てみるでし。」 こいつは下界へと小遣い稼ぎにきた悪魔。 「なんだよヘボ悪魔。……お、これは学校の裏サイトじゃねぇか。またお前、見付けたのか。」 こいつは神と喧嘩して地上に落とされた墮天使。 「フフ、これだから、神様はネットを嫌いなんですよね。笑えますよね。」 「……春殿、お久しぶりでし。神が嫌いなものの有効活用法を俺は考えるでし。」 「お前が現れる……もうそんな時期か。時間がたつのは、はやいもんだな。元気にしてたか。」 彼らは神と戦い、そして勝つための同盟を結んでいる。ダメ天使が私のことを春と名付けた。私は、春にしかこいつらの前に現れないから。 「で、今日はどんな依頼だ。」 ~ここより未掲載文~ 「私はいつものように負のオーラを探していました。そしたら、微量ではありましたが、見付けました。で、今からそこに向かって自殺を止めて欲しいのです。」 「……つまり次の獲物はこいつでし。春殿、あっているでし。」 悪魔、だからでしょうかね。彼は頭の回転が早い気がします。 「……この方に生きるよう説得してほしいのです。何があっても、自ら命を絶つ事はしないで欲しいのです。」 「おいおい、また人頼みかよ。いくら自分の姿が普通の人には見えないからって、俺たちに頼りすぎだろう。」 こいつには言われたくない。こいつだって悪魔の稼いだ金で下界で生活しているくせに。 「そうは言っても、やってくださるのでしょう。神に反逆する者を増やすために。」 「だが、神と敵対するものの力を貸せば、借りた者も神にとって反逆者となるでし。」 ヘボ悪魔は私に笑いかけながら言った。 「つまり春も神に敵対する者ってことになるが、いいんだな。」 何を今更、ってことをダメ天使が言ってきた。こいつらに協力を頼みだして64年。毎回聞かれるとうんざりしてくる。 「私は問題ありません。私が望むことは、より多くの人が自殺しないような世界にすることですから。」 本当の理由は違うのだが、そういつも私は言っている。 「そのためには、貴殿方の能力が必要だと思っただけですから。私は大抵の人には姿が見えません。だから、媒体となる人が必要なんです。」 私が彼女を見掛けたビルの屋上へと急いで向かった。そう、彼女の自殺を止めるために。 「おい、悪魔。このまま地上を走っていたら間に合わねぇ。お前は空飛んで先行け。」 どうやらダメ天使は最悪な未来を読み取れてしまったようで。こいつは30分くらいさきの未来なら、予知できる。ちなみにこいつは神によって羽を奪われたから、空を飛ぶ事はできない。 「……了解でし。」 「では私も御一緒させていただきます。」 何故役に立たないのに一緒に行くのか、それは敢えて言わないけどね。 「春殿、もしかしてあの娘でし。」 「はい、そのとおりです。悪魔さん、説得よろしくお願いしますね。」 悪魔は私に苦笑いした。目が合った気がした。多分見えていないはずなのに……。私は少し焦った。 「お嬢さん、何をしているでし。」 当然のことだが、話しかけられた少女は驚いた顔をしていた。なにせこいつは悪魔の姿で話しかけているのだから。 「君は生きることを止めたいと思っている、合っているでし。」 「死を望むなら叶えてやってもいいでし。」 こうしていつも地獄の世界を見せて、生きさせようとする。つまり、死ぬことよりも生きることを選ぶようにと導いてやるのだ。しかし今回はいつものようにうまくいかなかった。 「もし今私が、自ら死ないことを選んでも、あいつらに殺されてしまうかもしれない。なら私が自ら死んだ方がいいから……。」 この少女一人の問題ではなかったようだ。彼女を死へとおいやった周りにも責任があるのかもしれない。では、私はどうすれば良いのか……。 「では悪魔の能力を使って、その人たちにあなたを殺させないようにすることも可能ですが、どういたしますか。」 悪魔の口調が変わった。そして彼は、私に向かって笑った、そんな気がした。 「まぁ、そんなこと神が許さないと思いますが。私は神に敵対する者ですし。」 言い終わった後、また悪魔は私の方を向いた。何かを企んでいる顔だった。 私は確信した。こいつは私が何者かある程度までは理解している、と。そして私がどう動くのかを試している。 「神なんているわけない。」 少女はボソッと呟いたけど、はっきりと聞こえた。 「神がいるなら、何故私を助けないの。何故私にこんなことをしてくるの。私が何かしたの。」 私は言おうとした。だからこうやって助けをのべているじゃないか、と。でも言えない、言えるわけがない。今まで悪魔と堕天使から能力を借りていた人が神の分身だなんていえるわけがない。 「ワリィ、思ったよりもたどり着くのに時間がかかった。で、何を話してたんだ。」 「神がいるわけないって話で、あ、君、こいつはダメ天使で神と敵対する者だ。」 ダメ天使が口を開いた。 「神は気まぐれで動く情けないやつだぜ。俺はそんなあいつに嫌気がさして天界でテロを起こした。で、あいつの怒りに触れて下界に落とされたんだぜ。」 随分と馬鹿にされた気がしたが言うわけにはいかない。悪魔が私の正体に気が付いていたとしても、あいつは私が何者か知らない可能性があるからだ。 「そんなやつだが、どうかしたのか。まさかと思うが、あいつに何か頼むつもりなのか。だとしたら無駄だ。あいつは気まぐれだからな。」 ダメ天使は笑いながら言った。だがこれで終りじゃなかった。 「だが、何もしないよりは努力したほうがいいと思うぜ。誰かがその頑張りを見て、助けてくれるかもしれないから。」 私の方を向いてにっこりと笑った。何かを企んだ感じではなく、なんだかこちらまで笑いたくなるような笑顔だった。 「俺と悪魔は長い間二人きりで神をどうやって負かすか考えていた。だが、なかなかうまい考えが浮かばなかった。しばらくして、俺たちに助けを求めてきたやつがいた。」 少し間を置いて、そして真剣な目で少女に言った。 「言いたいこと、わかるよな。」 少女は頷いてお礼を言った。そして生き続けることにしたと伝えてきた。 今回は、私の完敗だ。今まで頼んだりしてきたけど、ここまで負けたと感じた事はない。……私はあんなふうに答えられないし、もしかしたら彼女を救えなかったかもしれない。 「ありがとう、二人とも。貴殿方のお陰で彼女を助けることができました。」 次は負けない、こいつらに神のチカラを思い知らせてやる、そう思いつつその場を去ろうとしたら、悪魔が返事をしてきた。 「春殿、また来年、会うでし。」 結果オーライだよね。 まぁ、助けられたんだし、今回も良しとするかな。 (完) |